#66 笑顔と優しさ
二人が一通り商業施設の中を回ったあとに外に出ると、もうすでに辺りは暗くなっていた。
「…で?観覧車乗るの?」
「乗るよ。行こう」
亜沙美はそろそろドキドキしていた。直人が今までこういうデートを計画したことが無い上に今日はホワイトデー。
何かあるのではないかと、あるとしたらアレだろうと時間が過ぎるごとにドキドキが強くなっていた。
「ナ、ナオ…」
「ん?どうしたの?」
「…んーん、何でもない」
「あっ、そっか。はい、ホワイトデー」
直人はキャンディ詰め合わせを渡した。
「…っ!えっ!えっ!?」
亜沙美は戸惑っている。ここで渡される?観覧車は?ただ乗りたいだけ?
「キャンディ嫌いだった?」
「嫌いではないけど…。えっ!?」
「えっ!?」
「い、いや、いいよ…」
亜沙美は少しガッカリしていた。
待っててと言われたアレ、それを今日言ってもらえるんだと思っていた。
観覧車の中で何か渡されながら言われるものだと。
しかしそれは直人の計画通りだった。ホワイトデー、観覧車、亜沙美ならおそらく気付くだろう。
その状態で待ってました的に聞かれるのも何か違う気がした。
よって、今ホワイトデーのプレゼントを渡した。
観覧車では何も無いと思わせる為に。
「行こうよ!きっと夜景綺麗だよ」
「…うん、そうだね!」
亜沙美は今日じゃないならまた別の日に考えているのだろうと思い、直人と夜景を楽しむことにした。
観覧車乗り場に着くとまず記念撮影をしてもらえた。
二人はピースサインで写真を撮り、観覧車に乗り込んだ。
レインボーブリッジや辺りの夜景を直人はジーッと見ては
「綺麗だなぁ」
と呟いていた。
亜沙美も
「そうだね」
と言いつつも少し気分が晴れていなかった。
直人は亜沙美を見て
「亜沙美…」
「ん?」
「イルミネーションを見に行った遊園地もだけどさ」
「うん」
「家族になったらここもまた来ようよ」
「…うん」
「子供がいたらその成長と共に街の変化も見れるんだよ」
「…毎年来るの?」
「うん、毎年来ようよ」
「それはいいけど…。ん?」
まさか?と亜沙美は気付いた。
「絶対に幸せにしますので」
やっぱり!亜沙美は確信した。
「これからもずっと一緒にいてください」
直人は店から受け取っていた指輪を見せてきた。
亜沙美は少し悔しかった。今思えば先にキャンディを渡してきたのも落としてからの上げという直人の作戦だと気が付いたから。そして指輪まだなの?もいう問いにいつも直人はまだだよ、としか答えてこなかった事にも。
「…どーしよっかなぁ」
亜沙美はすぐに返事をしたくない気分になった。
「…じゃあ、これも付けるので」
直人はカバンからキャンディ詰め合わせを出してきた。
「ちょっと!いくつ持ってるのよ!」
「どっちが好きかなぁって思って」
亜沙美はさっき貰ったキャンティと比べてみた。
「味、一緒じゃない!!」
「…え?」
直人も見比べた。
「あっ…」
「もう!!何なの!?…プッ、ハハハ」
亜沙美は吹き出した。
「アハハハハハハ」
ついには大笑いした。
直人は後頭部をかきむしっている。
「…ナオ」
「ん?」
亜沙美は直人にキスをした。
「逃がさないからね」
「…逃げませんよ?」
「……ずっと考えてくれてたんだね」
「…でも、今日はなんかカッコ悪いなぁ。ほんと」
「ナオにカッコ良さは求めてないよ」
「…アンテナ歪んでたら傷ついてるよ?」
「考えてくれてたナオの優しさが好きなんだから。フードコートでもそうじゃない?絶対にそうしなきゃいけないってわけでもないのに考えてくれてた」
「う、うん、まぁ」
「私はナオのそういうところが好き。だから私からもお願いしてもいい?」
「なに?」
「そこは変わらないでほしいな、私も笑顔を忘れないから。私は笑顔、ナオは優しさ」
「うん、わかった」
「私に笑顔が無いなって思ったらカフェラテ買ってね」
「僕に優しさが無いなって亜沙美が思ったら?」
「ビンタする」
「割に合わない」
「じゃあ何してほしい?」
「…偽者の彼氏役を頼んできた時みたいにからかってほしいかな」
「じゃあ普段、からかう事出来ないじゃない」
「あの頃の亜沙美、すごく可愛かった」
「…え?ケンカ売ってる?」
「売ってないよ!なんで?」
「今は可愛くないみたいな言い方してきたから」
「今も可愛い!ずっと可愛い」
「…ん?もう一回言って?」
「からかってる時も怒ってる時もふてくされてる時も笑ってる時も寝てる時もずっと可愛い」
「……」
予想以上の言葉が返ってきたので亜沙美は照れて何も言えなくなった。
「…ずるい」
「また、一緒に来てくれますか?」
「…はい、よろしくお願いします」
二人は見つめあったあと笑顔になり、もうそろそろ地上に到着しそうな時にもう一度キスをした。
観覧車を降りると写真を買うかどうか聞かれたので画像データ付きで買うことにした。
亜沙美はそれを持ちながら
「へへー、記念日だもんね」
と嬉しそうに歩いていた。
「次は両家の顔合わせだね」
「うん、ナオの家は日曜日でいいの?」
「問題無いよ」
「じゃあ二十二か二十九日だね。お店決めなきゃ」
「どこら辺がいいだろう?」
「まぁ実家同士は近いは近いからね。赤羽辺りがいいのかなぁ」
「…うん、ちょうどいいかもしれない」
「じゃあ明日からお店探そっか?」
「そうだね、今日はどうする?泊まってく?」
「うん、泊まる。二人で住むところも決めなきゃね」
「亜沙美の実家の近くがいいでしょ?店から近い方がいいし」
「ナオのご両親はそれでいいかなぁ」
「良いと思うよ。多分そういうの気にしないし、お店継ぐこと知ってるんだから」
「そこ、話してから住むところ決めよっか」
「そうだね」
「ナオ、疲れたからおんぶして」
「やだ」
「なんで?優しさが足りないんじゃない?」
「そういうのが必ずしも優しさとは限らないからね」
「言うじゃない…」
「優しさってのはこういうのじゃないかな?」
直人はカバンからキャンディ詰め合わせを出した。
「三個目!!一体いくつ買ったの!?」
「それで最後」
「…逆に私の事わかってなかった?」
「え?…ん?」
「…今日は寝ないで会話の日ね」
「…ご飯は?」
「食べて帰るよ」
「はい」
二人は夕御飯を食べてから直人の部屋に帰ることにした。




