#62 新企画とゴール
水曜日
直人はイベントプロモーション視察という名目でバレンタインデー応援に来た店に再度来ていた。
店長と千聖と正式に話をするためだった。
店にはテーブルが一つだけ置かれている小さな部屋があり、普段は面接などで使用している。
その部屋を使わない時間、店長と千聖の時間が合う日が今日だった。
コンコンとノックがされたあとドアが開いた。
「いやぁ、すまんな。時間通りに来てくれたのに少し遅れてしまって」
「いえ、店舗は何が起きるかわからないですから」
「馬渕さん、そっち座って」
「はい…」
千聖は店長と横並びに座った。
「今日は時間をいただいてありがとうございます、直接お会いして話したいことがありまして」
「はい、連絡いただいたことですよね?」
「そうです。率直に聞きますけど本社でのバイヤー勤務には興味有りますか?」
「藤堂さんがやっている事、ですよね?」
「そうです。まぁ一言でバイヤーと言っても種類があるので実際にどの商品を担当とかは今の時点では決めて話をすることは出来ませんが」
「はい、ぜひやりたいです」
「ありがとうございます。じゃあ社内公募についての話をしますね」
直人は一通り必要な説明をし
「なので私と竹下チーフの推薦を出します」
「俺の名前も使っていいぞ?」
「店長、いいんですか?」
「おお。馬渕さんが今やってる仕事はお前がやってた仕事とほとんど同じなんだ。だから前例があるからで俺も話をしやすい」
「わかりました、ありがとうございます」
千聖は疑問に思っていることを聞き始めた。
「一ついいですか?」
「はい、何でしょう?」
「何故この話を私に?」
「実は私が退職を考えているんです」
「えっ!?」
「でも、ただやめるだけではなく最後の最後まで会社に貢献したい。そこで思い付いたのが後任の推薦でした」
「それで私に?」
「はい、バレンタインデーの応援の時に話を聞きましたよね。これは縁だと思います。なので馬渕さんに話をしてみようと」
「じゃあ、あの時会えたのは縁で私は運が良かったんですね」
「ただ、全部がこれで決まるわけではないので」
「と言いますと?」
「面談があるんですよ。何故応募したか何がしたいか何が出来るか、色々と聞かれます。そこは僕が経験してるので力になれるとは思うのですが」
「そうだな、それは藤堂しか経験してないからな。俺にもわからん」
「はい、よろしくお願いします」
「ちなみにお前は何を聞かれたんだ?」
「何がしたいかですよ。それで答えたのがシーズン品の扱いが他社に比べて弱くその時に客数と売上が落ちている。ならうちもそれを強化すべきではないか、日頃からお客様から意見をいただいている私だからこそ、そこの部分を強化するために本社で貢献することが出来るって話しました。実際にその頃はお客様からあれは無いの?これは無いの?ってよく言われてましたからね」
「随分大きく出たんだな…。馬渕さん、今そういうので思うところはある?」
千聖は少し視線を上にして思い出した。
「たまにあるのが洋服や小物で物持ちの良い質が高いものは無いか?って聞かれますね。日用品じゃないんですけど」
「そうだな、うちは日用品と服飾は同じにしてるからな」
「…ならそれもっと強い意見に出来ませんか?」
「どういうことだ?」
「例えば洗剤とシャツ。このシャツにはこの洗剤がおすすめですよって事が出来る。質が良い物はやはり値段も上がる。客目線で考えたときいつものより高いものを買った時はそういうのも合ってるものを買いたいですよ」
「……日用品だけじゃなくシャツもセットで考えるべきだってことか。確かに俺も洗濯で失敗したこともあるし、何を使っていいのかわからない時があるからな」
「馬渕さんならどっちの商品知識もあるんじゃないですか?」
「はい…。接客自体はどちらも関係無くしますから」
「ならそういった方向で考えてみましょう。日用品と服飾をセットで考える。プラスアルファの買い物をしていただけるようにって考えで」
「…一度うちの店でやってみるか。馬渕さん、考えてくれるか?それを実績として持っていけばいい」
「でも上手くいくかどうかは別の話ですよね?」
「そこも利用してください」
「利用?」
「上手くいかなかったらその理由は何なのか。この部分だ、あの部分だ。この部分は商品の種類で解決できる。なら、私はそういうことで貢献していきたいとかそういうことで」
「…お前、口が上手いな。俺は少し引いてるぞ?」
「とりあえず店長がやってみるかと言ってくださってるのでやってみてください。僕も本社でそういう企画を考えたとして主導して色々と試してみます」
「わかりました。やってみます」
「とりあえず今週金曜の昼までに僕宛に企画内容のメールをください。用意するものがあればそれもその時に」
「社内ポータルから送れるんだっけ?」
「はい、なのでそこは店長もフォローお願いします」
「わかった!馬渕さん、頑張り時だな」
「はい!チャンスをいただけてありがとうございます!」
「他にも何か疑問があったり聞きたいことがあればいつでもメッセを送ってください。返事が遅れる事もあるかとは思いますが必ず返信しますので」
「ありがとうございます」
三人は部屋を出て店内に出た。
「そういえば花見商品どうなってるんだ?去年は散々だったからな?」
「もうそこは抜かり無く各メーカーの新商品、アイデア商品を揃えます!あっ、ただし買い取りじゃないので店値下げは出来ないんですけど…」
「…まぁシーズン品はそうだろうな。こっちとしても返品出来る方が楽だしな」
「馬渕さん、そこもよく見ておいてください」
「え?」
「花見商品の動き、これだけじゃなくこういうのもあれば良かった。これとセットで展開すべきだった。そういう事をアンテナ張り巡らせてメモしたりしておいてください。もちろんお客様から何か言われたらそれも」
「はい!わかりました」
「じゃあ僕は戻りますね」
「おう!今日はありがとな!」
「ありがとうございます」
千聖は深々と頭を下げた。
直人が店を出ていった後、
「よし!じゃあ早速色々と考えてみようか。一旦店内回って商品を見てみよう。何か思い付くかもしれないしな」
「はい、よろしくお願いします」
二人は企画に向け動き出した。
電車内
座席に座りながら会社に戻る直人
「…我ながらさっきのは良い考えだったんじゃ」
日用品と服飾をセットで考える。
そういえば今までの自分では考えたことのない事だった。
「よし、俺も頑張るか!」
ゴールに向けてラストスパート。
気分は実にそれだった。




