#57 バレンタインで地固まる
月島駅
二人は亜沙美の部屋に向かうため月島駅で降りた。
「ちょっと歩けばお店あるからそこで食べよう」
「うん、わかった」
「…ところでそのパンパンのカバンがさっきから気になってるんだけど何が入ってるの?」
「ん?えっとー…」
「……へー、やっぱりモテるんだねぇ。ふーん… 」
「い!いやいや!義理っていうか、あれだよ、この前はありがとう的なやつとか形式的なものが多いよ」
「…何したの?」
「仕事手伝ったり教えることは教えたり…。亜沙美だって上司や先輩には渡すでしょ?」
「渡してないよ?」
「えっ?」
「えっ?渡すもんなの?」
「形式的には渡した方がいいんじゃない?」
「今まで渡したことない…」
「うちの店で買って、売上貢献しましたよー。みたいな感じで渡すとか…」
「したことない」
「……何を食べに行こうか」
「えっ?ダメなの?」
「ダメじゃないけど、先輩も上司も人間なんだから貰って嬉しくないわけがないと思うよ。賄賂ってわけじゃないけどさ」
「印象が良くなるってこと?」
「うん、そんな感じ」
「…来年覚えてたらね」
「……」
二人は無言で歩き続けた。
「亜沙美、ベタな事を言っていい?」
「なに?愛の言葉?」
「もんじゃ焼き食べたい」
「月島だからもんじゃって…」
「ベタが一番最高でしょ?郷に入っては郷に従えって」
「多分それ使い方違うよ」
「とにかくもんじゃ焼き食べたい」
「じゃああっちの方に何軒かあるから行こう」
「よし!」
亜沙美は買い物するときに通ったことのある店に行くことにした。
しかしさすが金曜日どこの店も賑わっており
「入れるかしら…」
目的の店に着いたが中からはざわざわと声が聞こえ繁盛しているようだった。
「…とりあえず開けてみようか」
「そうだね」
引き戸を開けてみると案の定と言うべきか店内は客でいっぱいだった。しかし帰ろうと会計をしているテーブルの客がおり、店員からは
「少しお待ちいただければご案内できます」
と言われたのでそのまま邪魔にならないように待つことにした。
「運がいいね」
「うん」
「…え?」
「……今のは意図しないやつね」
「ビックリした、ナオのセンス…って引くところだった」
「そこまで言うのは酷くない?」
「あっ!店員さん呼んでるよ」
二人は呼ばれたテーブルに座った。
二人はそれぞれ一つずつ別のもんじゃ焼きとアルコール飲料を頼んだ。
「ナオはもんじゃ焼きは食べてたの?」
「高校や大学の時は食べてたよ」
「もんじゃの焼き方は?」
「僕はそのまま鉄板にドバッと。浅草のお店に行った時にこれが正しいやり方って、そこの親父さんに聞いて」
「土手は作らないの?」
「そこの親父さんいわく、それは邪道らしい」
「そうなの?土手が普通じゃない?」
「多分どっちでも正解なんだと思うよ。多分どっちのやり方もこれが正しいって言うもんじゃ焼き屋さんがあると思うから」
「…なるほど」
「でも二人とも別なの頼んだからまずは土手作って二つとも焼くのが良いのかもね。最終的にはごちゃ混ぜで」
「いいねぇ、じゃあそれでいこう」
もんじゃ焼きの素が運ばれてきたので二人とも土手を作るやり方で焼き、お互いのも含めて食べた。
「あぁ、美味しかったぁ」
「…満足した?」
「した」
「チョコは食べられませんとか言わないよね?」
「それは大丈夫。別腹だから」
「じゃあ帰ろうか、次のお客さん待ってるみたいだし」
「そうだね。ここ人気のお店なんだね」
「美味しかったもんね。また来よう」
「うん」
二人は店を出て亜沙美の部屋に向かった。
「あのマンションだ…よ…」
あと少しで到着という所で亜沙美が気付く、そういえば朝のままで片付けをしていないと……。
「…あっ」
「ん?どうしたの?」
「ごめん、しばらくどこかで時間潰してくれない?」
「え?何で急に?」
「えっと…、それは」
「…亜沙美」
「は、はい」
「わかってるから大丈夫だよ」
「な、なななな何が!?」
「まず、朝元気が無かったのはチョコを忘れたから、だから急に僕を部屋に呼んだんでしょ?」
「うっ…」
「初めて僕の部屋に来たときから察するに部屋は片付いてない」
「か、片付いてるよ?部屋は…」
「…部屋は?」
「片付いてると思う…」
「じゃあ、何が?」
「あのー、キッチンがね…」
「そのままで出勤した?」
「正解!」
「…一緒に片付けるよ」
「えっ?いいよ、悪いよ。全部片付けてもらうなんて」
「全部なんて一回も言ってないよ?一緒にって言ったよ」
「…そうだっけ?」
「はい、じゃあ行こう」
「…はい」
二人は亜沙美の部屋に着いた。
直人は驚愕した。キッチンどころかまず玄関に捨てられてないゴミ袋がいくつかあり、部屋の中も恐らく置いたら置きっぱなしなのだろうという状態だった。
「…亜沙美さん?」
「はい…」
「キッチンどころじゃないね」
「…おっかしいなぁ、誰だろ?こんなところにゴミ袋置いたの」
「亜沙美さん?」
「はい、私です…」
「ゴミの日は?」
「いつでもゴミ捨て場に捨てていいマンションです…」
「よし、じゃあ今日はまずゴミを捨てよう」
「えっ?いいっていいって!」
「よくない。捨てられるときに捨てないと。その前にキッチン片付けてからだね。多分そこにも捨てるものあると思うから一緒に持っていこう」
二人はキッチンと部屋の片付けを始めて、約一時間後に計六袋のゴミ袋を捨てに行った。
「はぁー、綺麗になったぁ。やればできるんだよねぇ、私って」
「亜沙美さん?」
「……どうもありがとうございました」
亜沙美は深々と頭を下げた。
「そんじゃ帰るかな…」
直人は帰る準備をした。
「うん!ありがとね!ってちょいちょいちょい!」
「ん?」
「チョコ!!チョコレート!手作りチョコだよ」
「手、作り…チョ、コ?」
「おい…、食べないつもりか?」
「…食べるよ?」
「泣くよ?」
「いただきます」
「ちょっと待ってて。いや、座って待ってて」
「…はい」
直人は指差されたソファーに座った。
亜沙美は冷凍庫を開けようとした時に
「固まっててちょうだい!」
と気合いを入れながら開けた。
それを聞いていた直人は不安しかなかった。
「……フッフッフッ」
奇妙に笑いだした。
「…あ、あのー、亜沙美さん?」
「ナオ!見なさい!私の手作りチョコ!」
小走りで直人の元にチョコを持ってきた。
直人がそれを見るとグシャグシャのアルミホイルの中にチョコが入っている。
「どうやって食べるの?」
純粋な疑問だった。
「そりゃアルミホイルを剥がして」
直人は一生懸命剥がそうとするがアルミホイルの溝という溝にチョコが入り、更に凍っているので剥がれなかった。
「…無理じゃない?」
「…無理だね、ごめんなさい」
「さっきキッチン片付けてた時に色々と作ったんだなぁって思った」
「うん…」
直人は立ち上がった。
「ちょ!ちょっと待って!」
亜沙美は焦りすぐに立ち上がった。するとそのまま直人から抱きしめられた。
「…え?」
「ありがとう。僕のために」
「うん、うん…!」
亜沙美は瞳から涙が出てきた。
「…泣かないでよ」
「だって、だって…」
直人はそのままキスをして、二人は顔を合わせた後にまた抱きあった。
「明後日、お父さんに会いに行く日だね」
「ねぇ?こんなこと言うのはおかしいかもだけど…」
「ん?」
「私で良いの?」
「亜沙美しかいないよ」
「部屋の片付け苦手だよ?」
「僕がやればいいよ」
「料理下手だよ?」
「僕も上手いわけじゃないから、二人で作りながら覚えていこう」
「…私、ナオに何をしてあげられる?」
「ずっと、一緒にいてほしい」
「それだけでいいの?」
「…出来れば、いつも笑っててほしいな。亜沙美が笑顔でいられるように僕も頑張るから」
「…ありがと」
バレンタインの夜は更けた。




