#50 明確ではないケンカ
月曜日 昼休み
亜沙美と直人は二人で昼食を食べていた。昨日連絡したことに対して直人からすぐに父に会う日を決めたいと返事が来たからであった。
「お父さんといつなら会えるかな。早めに会っておかないと」
何故か直人は切羽詰まっている。
「……ナオ?」
「ん?どうしたの?」
「…なんか今のナオは私は嫌いかな」
「な、なんで?」
「なんか隠してる?それともやましいことした?…なんか今のナオは嫌だ」
「そ、そんなことはないよ?何を言ってるの?」
「…私、先に戻るね」
亜沙美は店を出ていった。
「…ひどいこと言っちゃったかな。でもなんかおかしいんだもん」
亜沙美は悩んでいた。直人の様子がおかしいことに気付かないわけがなかった。
「…ちゃんとするって言ったろ」
直人も悩んでいた。智美と約束したこと、それを足枷にしてはならない。そう思いつつも結果を急いでいた自分に気付いた。
「…一度距離を置いた方がいいのかな」
夕方、第二営業部の会議があった。
その会議後。
「藤堂くん」
亜沙美は直人を呼び止めた。
「はい、何ですか?」
「年末年始の商品の各店舗の在庫状況はどうなってるの?早めに対応しなきゃダメよ」
「言われなくてもやってますよ」
直人は強めに言った。
「何?その言い方…」
「…何か気に障りました?」
「…いいわ、戻りなさい」
「……」
直人は何も言わずにデスクに戻った。
「やっぱり言い過ぎたのかしら…。でもこれは仕事だし」
亜沙美は今の直人にどう接したらいいかわからなくなっていた。
「…今の態度は良くなかったよな。仕事の話だったから関係としては上司と部下だったんだし」
直人は自分の中の未熟な一面に嫌気が差した。
その後、木曜日まで二人はろくに話もせず周りの人達は意識的に距離を置いているとしか思えない日々を過ごした。
毎晩する連絡も返信までの時間が長くなっていた。
さとみと由香はその様子に気付いていた。
「…ねぇ、あの二人ケンカしてるの?」
「いや、わからない。何かあったのかな」
由香は智美にも聞いてみることにした。
ラウンジ
由香は仕事終わりに智美を呼び、さとみと共に話を聞くことにした。
「…こうなってるんですけど、何か知ってますか?」
智美に全部を説明した。
「…すみません。今そうなってるとは思ってませんでした」
「島崎さんも知らなかったんですね」
「ただ心当たりはあります」
「…何ですか?」
「私です」
「どういうことですか?」
智美は飲み会の事とそのあとの事を話した。
「島崎さんってやっぱりそうだったんですね」
「…でも、私は応援すると決めました。でもそれがいけなかったんですかね」
「…私はその気持ちわかります」
さとみが智美に同調した。
「保坂さん…」
「実際私は藤堂さんに何も言わずにその場から立ち去った立場ですけど、私が智美さんなら同じようにしてたと思います」
「え?保坂さんって」
「…はい、大学の頃からずっと片思いでした」
「そうだったんですね…」
「…えっと、総括すると藤堂さんって何なんですか?」
由香は直人の人間性に疑問を感じた。
「すみません、あいつは昔から誰にでも優しいんです。だから拒絶するということを知らない」
「……まぁ、それはわかります」
「私からも話してみます。それでどうなるかはわかりませんけど」
「…竹下さんとも話した方がいいかも。じゃあ竹下さんとは私達から話します」
「はい、お願いします」
「それにしても私達ってあの二人の何なんですかね?」
「…あの二人の幸せを願ってる?」
「そっか、そうですね…。何か損な役回りですね」
由香は苦笑いした。
「ははっ、そうですね」
智美もそれにつられた。
「島崎さん、由香」
さとみは二人を見た。
「何?」
「藤堂さんとは私一人で話してもいい?」
「ん?さとみだけで?」
「うん、なんかイラついてきちゃった。こんな現状を見るために私はあの日泣いたんじゃないから」
「……うん、わかった。さとみに任せるよ。じゃあ私と島崎さんで亜沙美さんと話しますか?」
「…そうですね。今話したことも話してみます」
三人は直人と亜沙美、二人と話をすることに決めた。




