#49 父の退院
一月二十六日 日曜日
亜沙美は母 裕子と共に病院に来ていた。
今日は父の退院日の為、手続きも兼ねて二人で来た。
「はい、ではこれで大丈夫ですので、手続きは終わりです」
対応した看護師からそう言われた裕子。
「ありがとうございました」
二人は父の元に向かった。
「ほら!早く支度しなさい!!」
「待てって!色々あるんだって!」
「こっちの方が色々あるのよ!言っておくけどあなたに反論する権利はありません!!」
「……本当にすみませんでした」
茂樹は裕子に頭を下げて謝った。
父 竹下茂樹
金物屋を経営する個人事業主。良く言えば優しい性格、悪く言えば損な役回りな人生を歩んできた男性。金物屋も裕子の父の店を言われるがままに受け継いでいた。
「あの、裕子?」
「なに!!」
「本当にごめんなさい」
「言葉ではなんとでも言えるわね」
「酒はやめます」
「…ウソだね」
「いや、本当に」
「じゃあ、その約束破ったらどうする?」
「殴ってもらっていいから…」
「おもいっきり殴るよ?」
「はい…。本当にもう飲まないから」
「…わかったわよ」
夫婦二人のやり取りを見て、亜沙美は何となく直人とのやり取りを思い出した。
「ん?んん?」
亜沙美は少し不思議に思った、父と直人の姿が重なって見えたからだった。
「亜沙美?どうしたの?」
「…ううん、何でもない」
「直人さんに連絡するならしてもいいわよ?」
「お父さんが退院したって?」
「そう、早めに決着つけなさい」
「決着って…」
「亜沙美、その彼氏と会わせなさい」
「会わせようとしたら入院したんでしょうが!!」
「……ごめんなさい」
「私はもう直人さんを亜沙美の夫として認めてるからね。あなたの意見はいらないから」
「…いや、俺も亜沙美が選んだ相手なら反対はしないけど一度会いたいじゃん?」
「会ってもいいけど余計な事は言わせないから」
「…娘はやらん!みたいな事?」
「わかってるじゃない」
「言わないから、言わないから一度会わせて」
「ナオも会いたいと思ってるから話しておくよ」
亜沙美はため息を吐きながら言った。
「直人さんのご両親には会ったんでしょ?」
「うん、会ったよ。気の良い人達だった」
「なら良かった」
「ナオのお母さんからお土産はいいからって言われたから持っていかなかったから、今度ナオが来るとき持ってこさせないよ?」
「うん。それでいいわよ。家族になろうとしてるんだから気を使うのは初めだけで充分よ。でもあのゼリー美味しかったわ。今度から自分のご褒美で買っちゃおうかしら」
「ゼリー?」
「…何か言った?」
「いえ、何も…」
一家は家に帰った。
テーブルに三人で座り、話を始めた。
「…さて、お父さん、亜沙美の結婚に反対は?」
「相手による」
「直人さんに対してのあなたの意見はいらない。結婚に関しては?」
「…してほしいです」
「なら決定ね」
「お母さんはナオの事、良いと思ってるの?」
「あんな礼儀正しくてあなたの事が好きだってのが伝わる人じゃない。反対する理由が無いわ。しかも私が作った雑煮をあんなに美味しそうに食べるなんて。腕の振るいがいがあるわ!」
「…俺、雑煮食べてない」
「酒飲んで骨折したからね!!お前もう喋るな!」
「…ひどくない?」
「どこが?」
「亜沙美まで……」
茂樹はうなだれている。
「でもこんな父親でも直人さんなら挨拶しなきゃとか思ってるんでしょ?」
「うん、それは言ってる。それで挨拶は最後にしたいって」
「最後って?」
「私の両親に挨拶するのを最後にしたいって。最初で最後だ。って」
「…今まで付き合った女性にはしてなくて亜沙美を最後にしたいって?」
「…うん、そういうことだと思う」
「やっぱイイ人じゃない。絶対に逃げられないようにするのよ!!」
「…やっぱ俺も逃げられないようにされてたの?」
「なんか文句あるの?」
「無いです……、今も幸せです」
亜沙美は両親のやり取りを見て普段の自分達のやり取りを重ね合わせた。
「…やっぱり私は両親の姿を見て育ったんだな」
「何が?急にどうしたの?」
「ううん、何でもない」
話が終わり、亜沙美は自分が住んでる部屋に帰る途中の電車内で直人に連絡をした。




