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フェイクマイナス  作者: 海鮮メロン
48/77

#48 気付かないフリをしてた

金曜日 居酒屋


「……参加したのは失敗だったかもな」

直人は会社の飲み会に参加していたがそれは営業部の飲み会ではなく総務部の智美の歓迎会だった。

智美と直人が幼馴染と知った総務チーフが気心知れた人がいた方が良いだろうと気を使い、直人を呼んだのだった。

直人は亜沙美に話したが断るのも変になると言われ、渋々参加することにした。


総務部の人達の飲み方は普段のストレスを全て発散しているのではないかと思うぐらい豪快であり、智美もそれについていった。


「直人ー、飲んでないんじゃないのー?」

「…そういやこいつが酔っぱらったところ見たことなかったな。完全に絡み酒じゃないか」

智美とは21歳の時に一度離れているのでこういう席での智美の事は直人は知らなかった。


「藤堂くん、直人って呼ばれてるの?」

「はい…、昔からそうですね」


「二人は付き合ってたとか?」

「いえ、そういうのはないですよ」


「えー、ほんとにー?」

「ほんとですって…」


「ねぇ?なんかノリ悪くない?飲みなよ!」

「…いただきます」

直人は総務部の人達からの矢継ぎ早な質問に全て対応していた。一人の女性から注がれたビールを直人は飲み干した。

「おっ!いいねいいね!ねぇ、私同期なんだけど知ってる?覚えてる?」

「……あっ、うん」

「ウソだね!何?今の間は」

「いや、ほんとに、辻本さんでしょ?」

「おお!ほんとに覚えてる!」


総務部 辻本栞

直人と同期入社で店舗研修で同じ店で働いていた。店舗ではすでに何でも出来る直人にライバル心を抱いていたが総務部に配属になってからはそんな感情も無くなっていた。


「店にいた時は色々と任せられてる藤堂くんを見ては悔しがってたなぁ。私も教えてもらえば出来るのに!って」

「それはバイトしてたからであって同じスタートラインなら辻本さんの方が仕事出来たでしょ。実際僕がバイトの時にようやく覚えてた仕事だってすぐに出来てたし、研修の最後の方は辻本さんが仕切ることもあったじゃん」

「……嬉しい」

「えっ?」

「本当に嬉しい!私の事そんなに見ててくれたんだね!あの時は死ねばいいのにとか思っててごめんね」

「それは今言わなくて良かったよね、ショックなんだけど…。そんな事思ってたの?」

「まぁまぁ、飲もう!同期よ!」

「はいはい…」

「何?私と酒を飲みたくないとでも?」

「飲むよ、飲むから睨まないでよ…」

「…これね、睨んでるんじゃないの。よく勘違いされて嫌われるんだけど…」

「ご、ごめん!そんなつもりで言ったんじゃないんだ」

「ウソでーす!今はガッツリ睨んでましたー」

「…めんどくせぇ」

直人は両目を右手で覆った。


「ねぇねぇ、連絡先交換しよ。あの時しなかったじゃん」

「ん?うん、いいよ」

二人は連絡先を交換した。



「直人、お前早速手を出すとか…。さすがに引くわ」

一通り部署の人達と話し終わった智美が隣に座り、冷たい目をしている。

「出してないから!」

「ふーん…」

「その目やめろ」


「ねぇねぇ、二人って同い年の幼馴染?」

「そうですよ」

「じゃあ私とも同い年じゃん!敬語やめてよー」

「いいんですか?」

「いいよー、ついでに藤堂くんの恥ずかしいこと教えて」

「辻本さん、ついでに聞くことじゃない」

「えっと、高校の時に」

「お前も話そうとするな」

「直人くんのケチ!」

「急に呼び方が変わった…」

「私も下の名前で呼ぼうと思ってー、いいでしょ?」

「別にいいけど…」

「やったー!」

栞は直人に抱きついた。


「ちょ!ちょっと」

「え?嫌だった?ごめんね。私みたいなのに抱きつかれたらそりゃ嫌だよね…。ごめんね」

栞は腕を離して下を向いてしまった。


「い、嫌じゃないよ?嬉しいけど恥ずかしいというか…」

「嬉しいの?」

「う、うん」

「じゃあ今日はずっとこうしてる」

再び抱きついた。


「ごめん。この子、酔うとこうなるの」

前に座っている社員が申し訳なさそうに話した。

「そうなんですか?」

「もうちょっとすると寝るからそれまでは我慢しててもらっていい?」

「はぁ…」

「………」

栞は何も話さなくなった。


「あれ?もうですか?」

「…そうね、今日は早かったわね。もうちょっとすると力が弱まるから離しても大丈夫よ。あと島崎さんの目が怖いから何とかしてね」


直人は智美の方を見た。

「…なぜ睨んでる?」

「自分の心に聞いてみようか」

「わからない」

「あっそ!」

智美は頼んでいた焼酎のロックを飲み干した。


「お前、今何飲んだ?」

「水だよ!」

「ウソついてもダメだからな!そんな強い酒を一気に飲むなよ」

「いいじゃん!直人が送るんだし」

「…送らないよ」

「隣の部屋に住んでるんだからいいでしょ!」


その瞬間、騒がしかった酒の席が静まり、栞も目が覚めた。

「えっ?隣に住んでる?」

「二人は幼馴染でお隣同士?」

「まさか二人は…」


直人は必死に釈明をする。

「いや!それも偶然なんです!」


栞が抱きつきながら話し出した。

「…偶然?同じ会社に勤めるのも隣の部屋に住むのも?」

そう言って栞は体を離した。


「…言えば言うほどウソっぽくなるのもわかってるんだけど、本当に偶然なんだ」


「本当ですよ。私は離婚して引っ越して仕事探してって感じで、結果的にそうなったんです」

「え?離婚してるの?」

「そうですよ。そしてこいつも彼女いますから」

智美は直人に背中をバンバン叩いた。


「彼女ってもしかして」

栞の言葉のあとに全員が直人を見た。


智美は直人の顔を見て

「言っていいの?」

「…そこまで言ったら言わなきゃダメだろう」

直人は下を向いた。


「…いや、いいよ。わかるから。内緒にしてるんでしょ?」

「…ありがとう。でも内緒にしてるというか特に聞かれたりもしないから言ってないだけだよ」

「あっ、そうなんだ!でもバレバレだよ?」

その場にいる人達が全員頷いた。


「…そうなの?」

「そうだよ」

「っていうか直人くんの周りって女しかいなくない?」

「…そんな事ないでしょ」

「いいや!総務部の情報網ナメちゃいけないよ」

「そんなにすごいの?」

「とんでもないよ」

「…気を付けます」


そろそろ帰ろうかと酒の席も終わり、店を出た。

「直人くん」

栞が小さな声で話しかけてきた。

「…また飲もうね。今度は二人で」

「え?」

「またねー!」

そのまま帰っていった。


その後必然的に智美と直人は一緒に帰ることになった。

帰る道中


「……」

「智美?」

「……」

「何怒ってんの?」

「別に!」

「怒ってるじゃん!」

「怒ってません」

「怒ってる」

「怒ってない!」


「辻本さん?」

「…わかってるならいい」

「さっきの聞こえてた?」

「聞こえてたし、抱きつかれて嬉しいとか。亜沙美さんが聞いたらどうなるか」

「…だよな」

「だよな、じゃないよ。私の気も知らないで!」

「な!なんだよ…」

「もういい!」

智美は早く歩きだした。

「待てって!」

直人は智美の腕を掴み、振り返らせた。


智美は泣いていた。


「…どうした?」

「……私は直人に彼女いるって聞いて、全部諦めて応援しようって決めたのに、それなのに…」

智美は涙が止まらない。


「…ごめん」

直人は今まで感じていたが気付かないフリをしていた感情があることを自覚した。


「ごめん、今はそれしか言えないけど。もっとちゃんとするから…だから泣かないでくれ。智美の涙は見たくないんだ」

「何それ!勝手すぎない!?」

「…ごめん」

「ごめんって、そればっかり!」

「…オムライス」

「え?」

「オムライス美味しかった。スーツ買いにいったのも商店街行ったのも楽しかった」

「…何、急に」

「一緒にいるのが当たり前だった。だから気付かないフリをしてた。それも昔から」

「だから何?」

「今、俺は愛する人がいる。だからもっとちゃんとするから…。俺のせいで泣かせたりはしないから、智美に祝福されるようにちゃんと頑張るから」

「今、私はちゃんとフラれたって事?」

「ごめん…」

「……いいよ、もう」


智美は直人にキスをした。

「え?」

直人は驚いている。


「これが最初で最後。今からまた兄弟に戻るから…」

「…うん」

「亜沙美さんを幸せにしなかったら許さないからね」

「わかってる」

「…直人も幸せにならなかったら、また泣いてやるんだから」

「もう、泣かせたりはしないから」

「言ったな?」

「あぁ、言った」

「じゃあ応援する」

「…ありがとう」

「じゃあ…」

智美は直人の肩をおもいっきり叩いてから歩きだした。

直人はその痛みを強く心に刻んだ。

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