#46 智美と直人の戦い
一月二十一日 早朝
智美はスーツ姿で直人の部屋にいた。
今日から出勤で緊張するからギリギリまで一緒にいてほしいとの事で直人も渋々部屋に上げた。
「やっぱり私は直人と一緒に行く」
「なんで?十時からでしょ?」
「いいじゃん、一緒に行こうよ」
「お前あっちで待つことになるぞ?」
「それでもいいから、ねぇ、いいでしょ?」
智美は昔から何か要所要所で直人と一緒にいたいという事があった。
遠足、修学旅行、体育祭等の学校行事や高校受験の入試も一緒に行きたがった。
小さい頃から何でも一緒だったゆえに無条件に直人に頼りきるようになってしまっていた。
結婚して離れてから無くなったかと思ったが、帰ってきてから一緒にいた時間も長く、今回もその性格が出てしまっているんだなと直人は思った。
智美がこう言い出したら何を言っても聞かないので、受け入れるようにしている。
「わかったわかった。一緒に行くよ 」
「うぇーん、ありがとう!」
「近くのカフェかどこかで時間潰してろよ?」
「わかった」
「ちょっと俺着替えてくるから」
「手伝ってあげよっか?」
「何を言ってるの?」
「靴下履かせてあげる」
「いいよ、履けるから」
「本当にぃ?」
「いいから座ってろって」
直人は寝室に入り着替えを始めた。
「ちぇ、つまんない。……お腹空いたな」
智美は立ち上がり寝室に向かった。
「直人!ご飯は?」
「うわ!ちょっ!着替えるって言ったろ」
そこにはパンツ一丁の直人がいたが智美は何も気にせず寝室に入った。
「え?何を恥ずかしがってんの?昔から何回も裸を見てる仲なのに。あっ、もしかして私を素敵な女性だと思って照れてるな?」
「…別に恥ずかしくなんかないですぅ!」
直人は堂々としようと思い、智美と真正面に向き合った。
智美の言うとおり、この二人は小さい頃は一緒に風呂に入ったり、高校の時でもお互いの部屋の扉を勝手に開けて着替えてる所に遭遇してしまったりして何度も見てしまっていることは見てしまっている。
「今更恥ずかしいとかないでしょ」
「…そうでもない」
「え?まさか…私をそんな目で!?」
「それよりかお前がスタイル良すぎて自分の体を恥ずかしく思うんだよ」
「鍛えればいいじゃん」
「…それはそうなんだけど」
「スタイルの良い私が羨ましいんだ」
「そこまでじゃない」
「じゃあ何なんだよ…、あれ?直人なんでモジモジしてるの?」
「いや、ちょっと危ないから出てって」
「危ないって何よ」
「いや、ちょっと、その…」
「…やっぱ私をそういう目で見てるんじゃん。スーツ姿の私に興奮しちゃった?そういえばこのスーツ選んだの直人だもんねぇ」
「い、いやそういうつもりで選んではないから」
智美はニヤニヤしながら直人に近づき、肩に肘を乗せ
「このドスケベ…」
と耳元で囁いた。
「ああ!もういいから、出ていけって」
直人は智美を押して寝室から追い出した。
「ちっ、追い出された…」
智美は前後左右に自分の体を見て
「私もまだまだいけるな、新しい遊びが出来た」
智美は上機嫌でソファーに座った。
「ったく朝から調子狂うな…」
直人は頭を抱えた。
直人が着替え終わり寝室から出てきた。
「時間かかったねぇ。私で色々想像してたの?」
「ご飯だっけ?パンならあるけど」
「おい、無視すんな」
「トーストでいいだろ?」
智美は直人に近付き、後ろから肩にそっと手を置いた。
「ねぇ?本当は私の気持ち知ってるんでしょ?」
「…な、何が?」
「とぼけちゃって…。じゃあ言ってあげる」
「や、やめろって、それを言ったら…」
直人の心臓の鼓動が速くなる。
「私、パンよりご飯。ご飯炊いてないの?」
「…ん?」
「だからパンよりお米、白米ね。無いの?」
「…無いよ」
「ちっ」
「舌打ちやめろ」
「私って言ったら朝は白米と味付けのりでしょうが!」
「初耳だわ」
「ひどい!あんなに一緒にいたのに初耳だなんて!」
「俺の記憶じゃお前はマーガリンが入ってるバターロールだもんね、焼いたのと焼いてないの二つ食べてたじゃん」
「…そうだっけ?」
「そうです」
「…細かいことは気にすんなよ」
「お前が言う事ではない」
「それより直人、あんたズボンのチャック空いてるけどそれは私に見せてきてんの?」
「え!?」
直人はすぐに確認したがしっかりとチャックは閉まっていた。
「閉まってるじゃ…っておい!」
智美はいつの間にかソファーに座りスマホをいじっていた。
直人がいつも乗る電車の時間に間に合うように二人は駅に向かった。
「なるほど、この時間に出発してるのね」
「もうちょい遅くても間に合うけどね。遅延とかあるから」
「そうね、それでワタワタしたくないもんね」
「そういうこと」
「明日からも一緒に行こうよ」
「やだよ」
「なんでよ」
「誰かに見られたらどうすんのさ。三角関係云々言ったの智美だぞ?」
「…じゃあ撤回する」
「受け付けません」
「いいもん、時間知ったし。部屋隣だし」
「…はぁ、わかったよ。じゃあ会社最寄り駅に着いたら離れるからな?」
「えぇー!?そんな仕打ちある?可愛い幼馴染をコンクリートジャングルに放り出すなんて」
「同じ東京出身だろうが」
「フフっ、でもさでもさ、高校の時と同じだね」
「…あぁ、途中までチャリ二人乗りで途中からお前が降りて歩いて行ってたな」
「あれだって直人が言い出したんだからね。私は別に構わないのに」
「何かとあるだろうよ」
「そう言うけど実際は逆効果だったからね」
「…え?そうなの?」
「そりゃそうでしょ、そんな小細工してたら。それを見た人は周りに内緒なんだなって思うでしょ」
「…智美、会社までも一緒に行こう。確かにそれはまずい。それを見たら変に勘ぐる人も出て来てややこしいことになるな」
「じゃあ決まりね」
二人は昔のように一緒に通勤することになった。
「…そういえばお前、満員電車って」
「めちゃくちゃ久し振り。痴漢されたら殴っちゃうから助けてね」
「待て待て、痴漢を殴る前に俺に言え。そのタイミングでの助けてねはおかしいぞ」
「あれ?守ろうとはしてくれるんだ」
「当たり前だろ」
「…でも直人好みのスーツだからなぁ、直人が触ってくるかも」
「もう絶対スーツ選ばない」
「えぇ、何でよ?」
「そういうこと言うから」
「触られるのが嫌とは言ってないじゃん、どさくさであっ、ごめんみたいなのも許すよ?」
「触りません」
「とか言っておいてからの?」
「はい、駅着くよ。気合い入れて」
「…え?あ、うん。ってそこまで?」
「満員電車ナメるなよ?戦いだぞ?」
「…はい、すみません先輩!」
二人がホームに着くと智美の想像以上の人の数で理解が及ばなかった。
「ねぇ、東京おかしくない?」
「…かもね」
「いや、かもねどころじゃなく」
「現実を受け入れなさい」
「…はーい」
電車が到着しホームにいた人たちが雪崩れ込むように電車の中に入っていった。二人もその流れに飲まれ智美は直人と離れそうになってしまったので咄嗟に腕を強く組み、意地でも離れまいと力を弱める事は無かった。
二人は小声で喋りだす。
「おい!ちょっと」
「いいでしょ!別に」
「ったく」
そのまま会社最寄り駅まで二人の戦いは続いた。
駅に着くと降りる人も多く二人もそのまま電車を降りた。
「ちょっと!ヤバくない!?」
「だから言ったろ?気合い入れろって」
「そうでした…」
「毎日これだからね」
「うへぇー、ヤダヤダ」
「嫌がっても毎日これです」
「はぁー…」
「で、腕をそろそろ離してくれない?」
「ん?あぁ。嬉しかったでしょ?」
「二倍疲れただけです」
「またまた強がっちゃって」
「いいから離す。見られたらどうすんの」
「…はーい」
智美は組んでいた腕を離し、二人はそのまま改札に向かった。
「あれは藤堂さん、と誰だ?だいぶイチャイチャしてるように見えたけど…。」
二人の様子を後ろから由香が見ていた。
「まさか…早速浮気?……確かめなきゃ」
由香は直人に追い付こうと歩くスピードを速めた。




