#39 さとみと由香
夜九時
「…やっと終わったぞ!」
直人は数日分溜まっていた仕事がやっと終わった。
「でもなんかこうなるなら連休もうちょっと短くてもいいなぁ」
「メーカーさんが休みだから意味無いでしょ」
後ろから声が聞こえたので振り返ると亜沙美がいた。
「あさ…竹下さん」
「今のはアウトだからあとでビンタね」
「いや、今それを言うと…」
「大丈夫だよ、周りを見てごらん」
「?」
直人が周りを見ると誰もいなかった。
「えっ?ちょっと待って!いつの間に!?」
「呆れた…気付いてなかったの?お疲れさまですって挨拶を返してたのに」
「……無意識でした」
「はい、じゃあ終わったなら帰るよ」
「あれ?待っててくれたの?」
「…そうだけど」
「もう帰れるのに?」
「そうよ!」
「僕のために?」
「しつこいな。はいはい、愛する彼氏のためにとっくに帰れるところを待ってたんですよ!」
「ありがとう、愛してるよ」
「…言い方が軽いからやり直し」
「亜沙美、愛してるよ」
「…んー、まぁいいでしょう」
亜沙美は少しニヤけている。
「ちょっと恥ずかしいんだけど」
「え?文句あるの?」
「無いです…」
二人は会社を出た。
「ナオはいつも晩ご飯どうしてるの?」
「外食したりしなかったり、作ったり作らなかったり」
「何それ…、食べない日もあるってこと?」
「あるよ」
「ダメじゃん!ちょっと何してるの」
「えっ?えっ?」
「今日は食べてから帰るよ!」
久々の仕事だったからか、連休中と違い亜沙美は少し上司モードが抜けなかった。
ただ直人は元々こういう亜沙美を好きになっていたためむしろ嬉しかった。
亜沙美は直人の腕を自分から組みに行き、駅近くのファミレスに向かうことにした。
「亜沙美?これ、バレるんじゃ?」
「バレる?」
「会社の人、まだいるかも」
「もう偽装カップルじゃないんだからバレても問題ないでしょ」
「…まぁ、そっか。特に人事面でも問題にはならないか…」
「ナオと部長だったら問題あるかもね」
「それだと問題が渋滞するから」
「上司と部下で人事面での関わりもあって、男性同士で部長は奥さんいて……。ハハハ、ごめん想像しちゃった」
「やめてくれない!?」
ファミレスに近付くと窓際の席にさとみと由香がいるのが見えた。
「あれ?二人いる…。偶然?」
「うん、偶然。私が約束してたわけじゃないよ」
由香が外にいる二人に気付き、ジェスチャーで呼んだ。
直人と亜沙美は顔を見合せ頷いたあと、店内に入っていった。
さとみ達がいるテーブルに向かった二人。
「あっ、ちょっと待っててください」
由香がさとみの隣に移動する。
「ささっ、お二人はこちらに」
空いた席に二人は座った。
「まだ注文してないんですよ。ちょうどいいんで一緒に注文しちゃいましょう」
少しメニューを見たあと四人は注文をした。
「保坂さんと鈴木さんも上がったばかりなの?さっきいなかった気がするけど」
「会計室で書類整理してからそのまま上がったんですよ」
「そうだったのね」
「……お二人はもう本当にお付き合いしているということでいいんですよね?」
さとみは直人と亜沙美の顔を交互に見ながら話し始めた。
「うん、そうだよ。さとみと由香のおかげで」
「本当にどうもありがとう」
「いえ、そんな。でも…良かったです」
「はい!良かった。これでまだ付き合ってなかったら藤堂さんを…、あっこれ以上はやめておきます」
「待て待て、由香、俺をどうしようとした?」
「…監禁?」
「物騒な言葉を使うんじゃない」
「あ、あの!竹下さん!」
突然さとみが亜沙美に話しかけた。
「どうしたの?保坂さん」
「あの時は失礼な態度を取ってしまっていてすみませんでした。いくらなんでも先輩にあんな態度…」
「気にしてないから大丈夫よ。むしろ保坂さんのおかげで今こうなってるんだから、感謝しかないわ。…ほら、顔を上げてよ」
「はい…」
「俺が言うのもおかしいけど、一回全部水に流そうよ」
「はい、藤堂さんが言うのはおかしいですね」
「あっ、ごめんなさい」
「……プッ、アハハハハ」
さとみは直人を睨んだあと、つい笑ってしまった。
そのあとはつられて四人で笑った。
「それにしても私達の部署は特に何も変化無くて良かったですね」
「んー、でもそれもちょっと怖いのよね」
「…何かあったんですか?」
「衣料品チーフから聞いてない?非食品の統括ポジションが出来るかもって」
「いえ、聞いてないです。さとみ聞いてる?」
「ううん、それって私達のチーフか竹下さんがそれになるかもって事ですか?」
「多分そういうことだと思う。他に候補が誰かいるかもしれないけど、私は実績を出しなさいとしか言われてないから」
「じゃあ全然関係無かった人がなる可能性もあるんですね」
「そうね、もしくは部署の統合、つまり合併ね」
「私達が皆同じ営業部になるってことですか?」
「ううん、もしかしたら今の半分はいなくなるかも…」
「…もしかしてうちの会社ヤバいですか?」
「売上は厳しいでしょうね、利益も少ないし。だから生鮮食品をテナントにするんじゃないかしら、家賃収入を得ることになった方が会社としては儲かるという判断でしょう」
「確かにそうですね……」
四人は心なしか暗くなった。
「は、話変えましょうか!」
「そうね!暗くなっても仕方ないもんね」
「おまたせしました」
良いタイミングで料理が運ばれてきたので四人はそれを食べることにした。
その後はずっと他愛のない話をして明日もあるからと帰ることにした。
亜沙美は会計をまとめて払おうとしたがさとみと由香からそれぞれ払うという強い圧がきたのでそうすることにした。
店を出たあと後輩二人は
「あとはお二人で」
と先に駅に向かって帰っていった。
「今日はこのまま帰る?うちに泊まる?」
「ん?帰るよ。月曜から泊まるのはちょっとね」
「そっか、まだ月曜なんだよなぁ」
「疲れた?」
「疲れた。明日休みたい」
「休んだら怒るよ?」
「どんな風に?」
「めっ!って」
「その亜沙美は可愛いから休もうかな」
「そのあとはねちねちと嫌味を言い続ける」
「ちゃんと出勤します」
「じゃあ帰るね」
「待った、送るよ」
「いいよ、遅いし」
「いや、遅いから送るんだって」
「近いから大丈夫」
「……あっ、そういえば亜沙美ってどこに住んでるの?」
「今さら!?」
「いや、いつもうちだったから…」
「そっか、話してなかったか。月島だよ」
「あっ、近いね」
「うん、だから大丈夫だって」
「…わかった。じゃあ駅まで」
「…よし、それで手を打とう」
「ありがとうございます」
「なにが?ハハハ」
二人は手を繋いで帰っていった。




