#36 鍋の材料と食いしん坊
スーパー
「え?何ここ、広い!」
「あれ?知らなかった?」
「知らなかった」
智美は初めて来る店のようでキョロキョロと周りを見ながら歩いている。
「直人、私ちょっとあっち見てくるね!」
「迷子になるなよ」
「はーい」
智美はどんどん進んでいった。
亜沙美はかごを乗せたカートを押して直人の元に来た。
「本当に仲良いんだね」
「そう?小さい頃から一緒にいすぎて、もうよくわからなくなってるけどね」
「でもいい人で良かった。ちょっとどんな人か不安だったからさ」
「そうだったの?」
「まぁ私の嫉妬とかモヤモヤしたのがあったから余計なのかもしれないけど」
「そのモヤモヤは取れた?」
「そうね、取れたと思う」
「なら良かった」
「でも本当にオープンな人なんだね」
「昔から誰とでも仲良くなってたよ」
「じゃあ仕事も心配ないかもね」
「そうだね、でもいざとなったらお願いね。今のところあいつが頼れるのは亜沙美と僕だけだから」
「うん、わかった」
「ところでちょっと嫌な予感してるんだよね」
「なにが?」
「さっきの社内連絡メール。全社朝礼自体珍しいのに年明けにそれをやるとかさ。今までやったことないじゃん」
「…そういえばそうね。もしかして嫌な予感って部署が合併する話?」
「うん、そう。それを言うんじゃないかと」
「そうね、確かに私達チーフも統括ポジションに上がれるほど実績上げた人はまだいないはず…」
「うん、先月も昨年とあまり変わらずだったでしょ?社長って長い目で見ない人じゃん?もしかしたらって」
「でも、他にも話があってそっちの事かもしれないよ?それこそ統括ポジションの話かもしれないし。ポジティブに行こう!」
「…そうだね」
「あっ、ごめん、やっぱナオはネガティブでいて。じゃないと私の会議資料とか困る」
亜沙美はポジティブ思考で企画立案や計画を立てるタイプであり、直人はネガティブ思考で起こりうるトラブルやその対応などもしもこうなったらという発想を常に出せるタイプだった。
ここが竹下藤堂コンビで色々と任せられる理由の一つでもあった。
直人が以前に亜沙美以外の社員と組んだときはその社員は直人の意見を考えすぎだで却下していた。
それでも直人が準備を秘密に進めていたからこそ可もなく不可もなくな結果に終わったが、準備していなかったらそれこそ失敗していただろう。
亜沙美はこの直人の考えを理解し、自分には無い発想として頼りにしていた。
だからこそのコンビだった。
「ネガティブでいてってのはちょっと悪い言葉のような……」
「悪くないよ。それで助けられてる私がいるんだから」
「…まぁそれならいいか」
「頼りにしてるよ、藤堂くん」
亜沙美は直人の背中をバシッと叩いた。
「あれ?私はお邪魔かしら?」
智美がいくつか商品を抱えて戻ってきた。
「ううん、邪魔じゃないよ?ってまたいっぱい持ってきたね!」
「お前それは食べ過ぎだって、焼き肉食べ放題にクレープ食べてるんだぞ?」
智美は鍋用にパックされてる野菜や海鮮を二パックずつと惣菜の揚げ物、お菓子を数種類抱えていた。
そしてそれをかごに入れた。
「えっ?ダメ?」
「ダメ、せめて一パックずつにしなさい。あと揚げ物も多い。唐揚げも一番大きいサイズのを三パックもいらないから一パックでいいよ」
「一人一パック……」
「食べきれないから、あとお菓子は全部戻してきて」
「直人、あなた変わってしまったわ!」
「そういうのいいから。はい、戻してきて」
「はーい……」
智美はとぼとぼと言われた物を戻しに行った。
「本当、食べ物になると見境無くなるな…」
「智美さん、本当によく食べる人なんだね」
「そうだよ、食いしん坊って言ったでしょ?」
「うん、本当にその通りなんだね」
「何回あいつに弁当のおかずを取られたか…」
「なんでそんなに食べるのに細いんだろ?」
「ね!それは昔から不思議なんだよ」
「いいなぁ…」
「ん?」
「いや、何でもない」
「言っておくけど変にダイエットとかしなくていいからね?」
「昨日、太るよとか言ったくせに?」
「それは冗談で言うつもりだったのを途中でやめたの」
「ふーん…」
亜沙美は顎を上げて細い目をした。
「僕は今のままの亜沙美が好きです」
「え?何て言ったか聞こえなかった。もう一回言って?」
「今のままの亜沙美が好きです」
「…え?」
「いや、絶対聞こえてるよね」
「アハハハハ、ありがと」
「あれだな、二人きりになるとイチャつくんだな。わかってきたぞ」
突然背後に智美が現れた。
「おわっ、ビックリした!」
「直人、あんた本当にそういう言葉を照れずに言えるよね。見てるこっちが照れたよ」
「…いつから見てた?」
「ダイエットとかしなくていいからね?の所」
「結構長いこと見てたな…。声かけろよ」
「邪魔しちゃ悪いと思って」
「お前のことだから母さんに言おうとしてるだろ」
「あっ、そうだ。言わないと」
「言わなくていいから」
「あれ?亜沙美さんが圭子おばさんの会う日は決まったの?」
「いや、メール送ってるけど返ってこない。もしかしたら父さんと日にち決めたいのに遊びに行ってるから決まらないのかも」
「あぁ、また?」
三人は一通り店内を回り、たまに智美が勝手に入れる商品を直人が戻しながら買い物を続けた。
「ナオ、これぐらいでいいかな?」
「そうだね。あれ?なんか疲れたな…」
「情けないなぁ」
「誰のせいですか?」
「私のせいだって言うの?よくもそんな酷いことを…」
「いや、お前のせいだから」
「はい、すみません」
「それじゃ会計してきちゃうね」
亜沙美がレジに向かった。
「あっ、待ってください。私も払いますから」
智美もついていった。
直人は少し遠回りしてレジを抜けた先のサッカー台の所に移動した。
亜沙美はそれを見て智美に話しかけた。
「ねぇ、ナオって商品が入ったかごを抱えて運んで行くのが憧れだったんだって」
「プッ…、何ですか?それ」
「私がお金払って自分はかごを運んでっていうのがよく見る夫婦の光景だからって言ってた」
「…あぁ、そういうことか。直人の両親もうちの両親もそうやってましたね」
「そういうことだったのね」
「でもそれが憧れだなんて」
二人はニヤニヤしながら直人の方を見て会話をしていた。
「なんか嫌な感じ…何を話してるんだ?」
直人は少し気分が良くなかった。
会計が終わり直人がかごを持とうとすると二人はずっとニヤニヤ見ていた。
「そういうことか…」
直人は気付いたがとりあえず後ろの客の邪魔にならないようにすぐにかごを運び、二人を見た。
「亜沙美、話したね?」
「なにを?」
「かごを運ぶ事」
「そんな話してないよね?」
「そうですね。してないよ、何言ってんの?」
「本当に?」
「してないよ。直人の憧れの夫婦の光景の話なんて」
「してるじゃん!」
「してないよね?」
「してないですよね」
「あれ?今僕が間違えてる?」
「そうだよ、何を勘違いしてんの」
「いや、誤魔化せないから!」
「それよりナオって私と智美さんで自分の呼び方変えてるんだね」
「あっ、それ気になってました!」
「……そう?」
「うん、私には僕、智美さんには俺」
「ごめん、自覚無いや…」
「じゃあ今から自分の事をナオって呼んで?」
「それは嫌だ」
「なんで?」
「それは亜沙美から呼ばれてるから自分では言いたくない。亜沙美だけにそう呼んでほしい」
「ついに私がいてもそういうこと言うようにしたな?」
「思ったことを言っただけです」
「お前、もう忘れたのか?」
「……そうでした、ごめんなさい」
「なに?何の話?」
「元旦の時に思ったことをそのまま話すのはやめなさいって怒られたんですよ」
「何それ?」
「…トラブルの原因になるからって」
智美はそのまま話すのは気が引けたので近からず遠からずで話した。
「あぁ、そういうことか。すぐ人を褒めるところ?」
「知ってたんですか?」
「うん、前々から誰にでもそうしてるもんね」
亜沙美は少し強い目で直人を見た。
直人が女性を褒めている所を亜沙美は何度も目撃していた。自分の目の前でそれをやられたときはさすがに気持ちが離れそうになった事もある。
「あれ?怒ってらっしゃる?」
「怒ってないよ。付き合ってからはそれはまだ無いし。まだ、ね」
「あの、気を付けますから…」
「会社始まってから私の目の前でやったらビンタね」
「グーでいいですよ」
「お前は余計なことを言うな」
「じゃあ間を取ってキックね」
「それは間って言うの?あの、ほんと、言わないので」
「言ったら?」
「……キックでも何でも受けます」
「でもそれだと直人が喜ぶだけじゃない?」
「俺を何だと思ってる?」
「そっちの人」
「違います」
「ふーん…」
「あれ?なんか腹立つ」
「はい、帰るよ。ナオ、袋持って」
買った商品を袋に詰め終わったので三人は直人の部屋に帰ることにした。




