#33 変な感じになってる?
三人は焼肉屋に着いた。
直人が店員に電話をしていたことを伝え、案内されたテーブルに座った。
直人はすぐに会社の事や仕事の話をしてそのまま食事に入ろうと思っていたのが、思わぬ事態になりどうしたらいいのか多少混乱していた。
「もう、早速色々頼んじゃおうか…」
「そうだね、島崎さん嫌いなものはある?」
「いえ、特に無いですよ」
「じゃあ、頼んじゃうね。食べたいものあったら言ってね」
「はい、ありがとうございます」
妙にハキハキと場を仕切る亜沙美を直人は意外に思っていた。
それと同時にあとで色々とあるのかな?と警戒を強めた。
注文を済ませ料理が運ばれて来る間、亜沙美は仕事の話をすることにした。
「島崎さん、総務の仕事をしてたことがあるの?」
「あっ、はい、それで総務の仕事を探していて内定貰いました」
「そうなんだ、でもうちの総務はちょっと他の会社と違うかもしれないから、その辺を気を付けてた方がいいと思うよ。私としてもこうして知り合うことが出来たわけだし、思ってたのと違ったで辞められるのもなんか悲しいから」
「はい、ありがとうございます」
「何かあったら何でも言ってきてね。力になれることもあると思うから」
「そう言っていただけると助かります。今は正直不安なので」
「不安?」
「数年ぶりに社員として働くのでちゃんと出来るかという不安と激務と聞いたのでどういう仕事が待っているのかと」
「まぁそれはそうだよね、でも私とナオを頼ってくれていいから。ナオもその為に私を紹介したんでしょ?」
「う、うん」
「…なに?具合でも悪いの?」
「ん?いや、そんなことはないよ?」
直人は今の一連の流れにおける亜沙美が少し怖かった。
「私、今変な感じになってる?」
「いや全然変じゃないよ」
「そう?ならいいんだけど」
亜沙美は自分自身でも少し立ち位置がおかしいとは感じていた。
別に直人も智美もあえて隣に住んでいるわけではない、頭ではわかっていても心では何か形容しがたい感情が出てきており、なんとなくモヤモヤしていた。
それを晴らすために気丈と言うべきか堂々とすると言うべきか、そういう風に振る舞うべきだと思っていた。
しかしそれは畏怖とまでは呼ばないまでも少なからず二人を萎縮させてしまうような態度に出てしまっていると感づいた。
「…うん、ごめん。なんか違ったね、私」
「ん?」
「いや、何となくモヤモヤしちゃってて…。嫉妬かな?これって」
「い、いえ、大丈夫ですよ。私もびっくりしてますけど竹下さんのお気持ちもわかりますので…。急に彼氏の隣の部屋に知ってる女が住んでるってわかったらそうなっちゃいますよ」
「ありがと、二人は何ともないってのはナオから聞いてるんだけど…。何となく、ね」
「亜沙美、大丈夫だから。言ったでしょ?兄弟って」
「そうですよ、心配しなくても大丈夫です」
「…うん、そうだよね」
そのタイミングで頼んでいた肉が運ばれてきた。
「よし!食べよ!!ほらほらナオ、どんどん焼いちゃってよ」
「うん、わかった。智美もいつもみたいに食べていいから」
「うん、食べるよ!」
少しまだぎこちないがテーブルに笑顔が生まれてきた。
「島崎さんはよく食べるって聞いてるけど」
「直人?何を話した?」
「食いしん坊って…」
「ほー、他には?」
「……言わない」
「竹下さん、何て聞いてます?」
「くよくよしない性格で他人との壁を壊していく人って聞いてるよ」
「なんか印象良くないじゃない!直人、覚えてろよ?」
「あっ、俺、すぐに忘れるタイプだから」
「そうなんだ、じゃあ昔の色んな話をしてもいいね、覚えてないなら私が話したそれが事実になるもんね」
「やめなさい、昔の事は都合良く覚えてるからウソ言ったら訂正するから」
「引かないな?」
「引かないよ」
二人は睨みあっている。
「ケ、ケンカはやめよ?うん」
「あっこれが通常だから大丈夫だよ。ケンカじゃないから心配しないで」
「はい、大丈夫ですよ」
急に直人と智美の二人が笑いだしたので、亜沙美は何かドッと疲れが溜まった気がした。
「竹下さん、お願いがあるんですけど」
「お願い?」
「私の事、下の名前で呼んでもらってもいいですか?そっちの方が慣れてるっていうのもありますけど、竹下さんともっと親しくなりたいので」
「それがいいならそうするけど…。じゃあ私の事も下の名前でいいよ」
「良いんですか?」
「うん、いいよ。私も親しくなりたいし」
智美と親しくなればこのモヤモヤも消えるのではないかと亜沙美は考えた。智美の事がまだよくわからないからこそ出てくる感情であり、知っていけば無くなっていく。
そう思った。
「じゃあ智美さんでいい?」
「はい。私の方は亜沙美さんでいいですか?」
「うん、いいよ」
「よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくね」
二人はお互いに呼びあったあとに笑顔になっている様子を見て、直人はホッとした。
「じゃあ追加の肉を頼もうか」
三人は満腹になるまで焼肉を堪能した。




