#30 趣味って
二人は食事をする準備をしていた。
「あっ、ナオごめん。前にお皿割っちゃったから買ってこようと思ってたのに忘れてた」
「いや、気にしないでいいよ。100均で買った食器しかないから」
「今度買いに行こう?」
「うん、わかった」
テーブルに食事の準備が終わり、二人は座った。
二人はお互いのグラスにワインを入れ
「いただきます」
と同時に言ったあとに食べ始めた。
「ナオ、気になってたこと聞いていい?」
「ん?なに?」
「部屋に趣味みたいな物が無いけど、もしかして趣味とかそういうの無いの?」
「無いよ」
「いつも何してんの?」
「今日の午前中に僕もそれ自分で思ったよ。今まで何してたんだっけ?って」
直人は笑みを浮かべた。
「午前中?」
「うん、今日いつも通りの時間に目が覚めて、亜沙美を迎えに行くまで何してようか考えてたら何も無くてね。本当に何してたんだろう?今まで」
「テレビは?」
「つけてから一通りチャンネル変えて、面白そうなの無かったら消してる」
「スポーツは?」
「帰宅部だったから」
「ゲームは?」
「アプリでずっと続けてるのあるけど、そこまで長い時間やらないよ」
「アウトドアに行ったりは?」
「基本的に無いね」
「……えっ?本当に何してるの?」
「ね!ホントそう思う。亜沙美は?何してるの?」
亜沙美は少し考えてから
「私は……あのー、アレやったりコレやったり…」
指を折り曲げて数えているが具体的な話が無かった。
「つまり無いんだね?」
「改めて聞かれると私何してたんだっけ?」
「僕と同じってこと?」
「……だね」
「だからって訳でもないけど、亜沙美と会えるのが楽しみで仕方なくてさ。今も凄く楽しい」
「私もいつもナオに会いたいって思ってる」
「じゃあ、休みの日は出来るだけ会うことにする?そうだと凄く嬉しいんだけど」
「いいよ、私もその方が嬉しいから。あっでも五日は連休最後だからちょっと難しいかな」
「まぁ仕事初め前だしね。準備とかあるでしょ?」
「うん、あと気持ち切り替えないと、初日からダレてたらまずいからね……」
「じゃあ僕も五日はそういう風に過ごすことにするよ。気を引き締めないとね」
「うとうとしてたら起こしてあげるよ…」
亜沙美は少し悪い顔をしている。
「そうならないように気を付けるよ…」
「ごちそうさまでした」
二人は食事を終えて片付けを始めた。
「もうお腹いっぱい。今日は食べすぎだなぁ」
「ふと……そうだね、僕もちょっと苦しいかも」
「…今、何を言いかけた?」
「ん?何が?」
「太るよって言おうとした?」
亜沙美は手をグーの形にした。
「そ、そんなことを亜沙美に言うわけがないよ」
「ふーん…」
「僕がって事、太っちゃってスーツ入るかなぁって。アハハハハ」
「…なんだ、自分に言おうとしてたのか。私に言ってたらグーパンチするところだった…、って誤魔化せると思った?」
「無理?」
「無理だねぇ」
その時直人はふと玄関のドアポストにチラシがいくつか入っているのに気が付いた。
「あ、あれ?なんか色々チラシが入ってるなぁ。取って来ようっと…」
「ナオ…片付けが先」
冷静な言い方が直人には恐怖に感じた。
「…はい」
二人は隣に並んで片付けをしていたが立ち止まってる間、直人は足を踏まれ続けていた。
片付けが終わり直人はチラシを取りに行った。
飲食店と住宅のチラシが数枚入っていた。
「正月からこんなに。…いや正月だからか」
ソファーに座った亜沙美が聞いた。
「なんか良い店あった?」
「…先月近くに焼肉屋が出来たんだけど、そこが入ってるね。ランチもやってるんだって…あれ?これバイキングだ」
「食べ放題?明日やってたらちょうどいいんじゃない?」
「そうだね、智美めちゃくちゃ食べるし。…もしかしたらチェック済みかもな」
「ん?チェック済み?全国チェーンなの?」
「いや、この近くに出来たことをチェック済みってこと」
「…どういうこと?」
亜沙美は顔をしかめた。
「あっ、言ってなかったっけ。智美も文京区に住んでるらしいんだよ。どこかまでは聞いてないけど」
「そうなの?」
「先月こっちに戻ってきてそのまま一人暮らししてるみたい」
「……偶然?」
「もちろん偶然。だって離婚とかそういった話も知らなかったんだよ?」
「そっか、そりゃそうだよね」
「まだ疑ってる?」
「…ごめん。今のは私の悪い部分が出ちゃった」
「いや、大丈夫だよ。むしろ嬉しい」
「嬉しい?なんで?」
「え?それだけ亜沙美からの愛を感じるから」
「ちょっと急に何言ってるの?痛い女になりたくないから今後は言いません」
「まぁ智美に会えばそういうのは無くなると思うよ」
「ならいいんだけどね」
「でも新しいスーツ持ったまま焼き肉は抵抗あるな…」
「同じ文京区なら受け取って一旦帰ってからまた合流すれば?」
「…そうだね。その前に焼き肉でいいか連絡してみる」
「そうだね、もしかしたら焼き肉って気分じゃないかもしれないし」
直人は智美に焼肉屋に行くかどうかの連絡をした。
一分も経たないうちに返事が来た。
「返事早いな、しかも一言」
「何て来たの?」
「行く!だって、ほら」
直人はソファーに座りスマホの画面を亜沙美に見せた。
何の抵抗もなくメッセのやり取りを見せてきたことに亜沙美は驚くと同時に直人なりの気遣いなのだろうと感じた。
「返事、全部短いんだね。フフッ…一番始めの海鮮丼って何?」
「総務で働くなら激務だよって話のあとに仕事面では助けることは出来ないけど、話聞いたり飯奢ったりは出来るから何でも言ってこいって言ったらすぐにこれを送ってきたんだよ。まだ働いてないだろって」
直人はスマホを持ち直したあとスーツの事と再合流の事、改めて待ち合わせの駅と時間の事を追加で連絡した。
すると今度はOKとだけ返事が来た。
「まあ、こういう奴だよ」
再度亜沙美に画面を見せた。
「あっさりしてるんだね、そういえばそんなような性格だって言ってたもんね」
「そう」
午後九時
「ちょっと喉が渇いてきたな。お茶でも飲む?」
「……」
「亜沙美?……寝てるのか」
お酒も入ってることもあり、いつの間にか亜沙美は眠ってしまっていた。
大晦日と同じように直人は起こさないように毛布をかけた。
「また僕も寝ようかな…」
大晦日と同じように眠っている亜沙美を見たら直人も急に眠くなってきたようで風邪をひかないように暖房の設定温度を1度上げ、寝ることにした。




