#26 改札口で君を
午前十一時頃
直人はまだウトウトしていた。スマホが鳴ったため見てみると亜沙美からそろそろ駅に着くという連絡だった。
直人は迎えに行くためスマホをポケットに入れて財布も確認したのち家を出た。
駅に向かう途中、さすがに三ヶ日の最終日である今日は街が日常に戻りつつあるような人通りだった。
思えば三ヶ日にこんなに予定が詰まっている事は初めてだった。
よく見ると、この人の波の光景は初めて見るかもしれない、そのぐらい毎年の三ヶ日の記憶は残っていなかった。
駅の改札口に着いた。まだ亜沙美は来ていないようだった。
改札口を真正面に亜沙美が見つけやすそうな位置で直人は待つことにした。
改札の向こう側が少し騒がしくなった。どうやら電車が到着したようだ。
次々に改札に向かってくる人達の中に亜沙美の姿を探した。しかし見つからずこの中にはいないようだった。
おもむろにスマホを見たが特に通知は来ていなかった。
そのままスマホの画面を見続けていると一つの通知が来た。亜沙美からのメッセだった。
「着いたよ」
直人はすぐに改札の向こう側を見た。確かに電車が到着したようでまた何人もの人達が改札に向かってきていた。
すると後ろの方に何となく目立つ、目につく女性がいた。
亜沙美だった。
特に服が派手なわけではない、むしろ昨日と同じコート。何故なのかわからないが直人はすぐに亜沙美を見つけることが出来た。
直人は大きく手を振った。亜沙美もそれに気付き手を振り返した。
「おまたせ!」
改札を抜けてきた亜沙美はいつもより少しカバンが膨らんでおり、直人はそれにすぐ気付いた。
「どうしたの?そのカバン…」
「え、えーと、あわよくば泊まろうと思いまして」
直人は一瞬間が空いたあとに思わず吹き出してしまった、先程送ろうとして送らなかった言葉なのにも関わらず亜沙美も泊まろうと考え準備していた。
その不思議な接点というか縁というか同じ事を考えていたという事実に嬉しさよりも驚き、そして笑ってしまった。
「な、何笑ってんの?」
「いや、ごめん。まさか亜沙美もそう考えてるとは思ってなかったから」
「も?」
「うん、もし良かったら泊まっていくかどうか聞こうとしてたからさ」
「なんだ、そうなんだ。じゃあ泊まっていっていいよね?」
「うん、いいよ」
「やった!」
「このままランチ行こうと思ってたけど一旦うちに寄ろうか?まず荷物置いてこよう」
「うん、ありがとう!」
二人は直人の家に向かった。
二人は部屋の中に入り、亜沙美は大晦日に座ったソファーの横にカバンを置き、中からB5サイズぐらいの紙袋を取り出した。口は何重にも折られている。
「ナオ、この中に何が入ってると思う?」
「ん?……着替え?」
「うーん……ウフフ」
「あっ、わかったからいいや」
「ちょっと、何か冷めてない!?」
「からかうつもりだったでしょ」
「その通り!私が見てないときに開けてもいいんだよ?」
「いや、開けないよ」
「間違えて開けちゃったって言い訳も私は納得するから」
「いや、開けないって」
「開けなさいよ!じゃないとおやおや?が出来ないじゃない」
「…ランチ何食べる?」
「ほう、無視と来ましたか」
亜沙美は直人に近付き、紙袋を無理矢理持たせた。
しかし持った感触が硬く、直人は不思議に思った。
「あれ?これ何?」
「開けてみて、はい、開ける!」
直人は渋々開けると中から二つのマグカップが出てきた、柄は同じだが色違いのマグカップだった。
「マグカップ?」
「そう、お揃いのマグカップ、憧れてたんだ。ナオの家に置いていい?」
「それはいいけど、じゃあ今度からはこれにコーヒー入れよう」
「うん!」
「そっかマグカップか…」
亜沙美は聞き逃さなかった。
「おや?おやおや?何だと思ってたのかな?まさか私の下着だと思ってた?」
「い、いや、思ってないよ」
「ふーん、そうなんだー、へー」
直人は下から顔を覗きこむ亜沙美を急に抱きしめた。
「えっ?…ちょ、ちょっと、どうしたの?」
「こうすると亜沙美が照れる事がわかったから」
直人なりの仕返しだった。
「なんだ、下着の話で興奮しちゃったのかと思った」
「ち、違うよ!」
「見せてあげよっか」
そう囁いた亜沙美の方が一枚上手だった。
「いや、いいよ。見せなくて」
「それはどういう意味かな?」
直人は脇腹をつねられた。
「で?本当に何食べる?」
直人は仕切り直した。
「とりあえず外に出て探してみようよ」
「わかった。じゃあ行こう」
玄関から外に出た亜沙美は隣の部屋が気になり、まだ部屋にいる直人の元に戻った。
「あまりうるさくすると怒られちゃうかな。音ってどうなの?ここ」
直人は角部屋に住んでいるため隣接する部屋は一つだけだった。
「そこそこ防音にはなってる感じ。扉の音とかはよく聞こえるけど。でもお隣さんはいついるかわからない人かな。先月引っ越してきてたのは業者さんが荷物運んでるのを見掛けたから知ってるんだけど、どんな人かは見たことないよ」
「そうなんだ、でもたまにいるよね。滅多に部屋にいない人」
「うん、もしかしたらそういう人かもね。生活音もほとんど聞かないし。それこそ年末に扉を閉める音が聞こえてから何も聞こえてないから。あまり気にしなくてもいいかも」
「そっか」
二人は外に出て飲食店を探し始めた。




