#25 君がいた部屋
智美の部屋
智美は実家でゴロゴロしながらマンガを読んでいた。内容がクライマックスのところでスマホが鳴った。
「ちっ、誰だ?直人からか。………四日にランチね」
OKとだけ返事をしてまたマンガを読み進めた。
電車内
「返事短いな、今何かやってるな?」
智美は自分が好きなことをやっているときはその他の事は基本無視する性格だった。
「まぁ、スルーしないだけまだマシか」
直人はそのまま一旦実家に寄ろうとしていた。裕子から渡されたお土産を持っていくためだった。
北区 直人の実家
「ただいまー」
圭子が何事かと玄関まで出てきた。
「何!あんたどうしたの!?」
「これ、彼女の実家から御返しってお土産貰ったから持ってきた」
「あらあら別に良かったのに」
「そう言ったんだけど、貰ってもらわないと困るって言うから」
「中は何なの?」
「まだ見てないから開けてみて」
圭子は受けとると台所へ向かった。直人は居間に向かった。
「おう、直人。おかえり」
直人の父 博史がそこにいた。
「父さん、今日は飲みに行ってないの?」
「バカヤロー、蒸し返すんじゃない。それよりお前今日彼女の実家に行ったんだって?」
「そうだよ、お土産貰ったから持ってきた」
台所から圭子が
「直人、きれいな色のリンゴよ。これすごく高いんじゃないかしら…」
直人は台所に向かった。圭子が開けた箱の中には大きくて真っ赤なリンゴが五個入っていた。
「すごいな、こんなきれいなの初めてかも」
「ね、早速いただきましょう、あんたも食べていくでしょ?」
「うん、食べる」
「それじゃ切るから居間で待ってなさい」
直人は居間に戻った。
「で?お前どうするんだ?」
「何が?」
「結婚だよ」
「そりゃ考えてるし、今日改めて結婚を前提にって話をしたよ」
「そうか、わかった」
「ん?それだけ?」
「俺が今までお前の決めたことに意見したことあったか?」
「無いね。好きにやらせてもらってたよ」
「まぁ昔から何も話してこなかったしな。本人に任せとけば大丈夫だとは思ってたから、何も言うこと無かったしな。でもな、結婚ってなったらいざというときは何でも話してこい、家族だから力になれることもあるからな」
「うん、わかった。ありがとう」
直人は昔から何をするのも自分で考え、悩み、答えを出して歩んできた。別に父が頼りなかったというわけではない。ただ直人の中には相談するという発想が無かった。
博史も何も言ってこないから何も言えないという歯痒い時期もあったが、自分で道を作っていく直人を見て、もしもの時いざという時に何か言ってきたらその時は力を貸そう、それ以外は直人の思うようにさせよう。
それが博史の父としての考えとなった。
「男同士の話は終わったのかい?」
圭子がリンゴを運んできた。
「おお、こりゃまた見事なリンゴだな。この蜜の部分が大きいじゃないか」
「そうなのよ、切ってびっくりしちゃった、直人、ちゃんと彼女のお礼言っておいてね。あといつうちに来るんだい?」
「そこも話しておくよ。でも多分近いうちは無理かな。もう連休も終わるし。明日、午後に会うから話はしておく」
「わかった。あぁそうそう、お土産とかそういうのはいいからね、もう十分な物をいただいたから。これ以上やるともうお土産合戦になっちゃうわ」
「そうだね、それはそれで辛いからね」
午後十時
「それじゃそろそろ帰るかな」
「あら、もうこんな時間かい。気を付けて帰るんだよ」
「うん」
「それじゃ、彼女さんによろしくな。って名前は何て言うんだ?」
「竹下亜沙美さん」
「おう、じゃあ亜沙美さんによろしくな」
「わかった、じゃあまた」
直人は帰っていった。
居間では両親二人が話しを始めた。
「しかし、あいつも結婚か」
「まだ決まってないんだから変なこと言うんじゃないよ?」
「わかってるわかってる。でも智美ちゃんはどう思ってるんだろうな?俺はてっきり…」
「当人同士の話なんだからもういいんだよ。智美ちゃんの結婚の時も直人は何をどう思ってたか何をしたのか。私達も佳江さん達もわからないんだから、当人同士でちゃんと決まってればいいんだよ」
「まぁ、そりゃそうだがな。……まっ、いいか。直人の事だ、今回もちゃんと考えてるだろう」
「そうね。本当に誰に似たんだか…」
圭子は昨日皆で説教したことを思いだし、それも含めてつくづく思った。
一月三日 午前六時
直人は目覚まし時計をセットしていないにも関わらず普段起きる時間に目が覚めてしまった。
スマホを見るが特に何の通知も来ていなかったのでテーブルに置き、コーヒーを入れる事にした。
電気ケトルのスイッチを押してインスタントコーヒーの粉をカップに入れようとしたがそのタイミングで瓶の中に一杯分の量が入っていないことに気付き、ケトルのスイッチを切った。
冷蔵庫を開け2リットルペットボトルの水を取り出しコップに入れて、それを一気に飲み干した。
「さて、何をしようか」
直人はこれといった趣味も無く、休みの日は意味も無く部屋にいることも多々あった。
午後には亜沙美が来る。しかしそれまでやることが何も思いつかなかった。
キッチンからふとソファーがある方を見ると微妙に開いているカーテンの隙間から曇り空のグレーがかったような光が部屋に射し込んでおり、大晦日の部屋の明るさが愛しく感じた。
「……淋しいな」
今まで思ったことは無かった。ましてや口にしたことも無かった一人言に直人は自分で驚いていた。
カーテンを完全に開き、テーブルに置いたスマホを持ちソファーに座った。
三年前ぐらいからずっとやっているアプリゲームを開いてみた。
年末から昨日までインしていただけで特に何もやっていなかった為、ゲーム内のギフトも溜まっており年末年始イベントガチャの盛り上がりも何やら自分だけ取り残されてるような気がして面白くなかった。
「そうか、今回のキャラは人気キャラだったんだっけ、これは取らないと競技場順位下がるんだろうな。壊れって噂だったし」
でも取るつもりは無かった。なんとなく課金する気も起きなくなっており、やはり何もせずにアプリを閉じた。
次にテレビをつけた。
ザッピングするも駅伝、ドラマの一挙再放送、歌謡曲、お笑い。
一通り見るがテレビもすぐに消した。
そのままソファーの上で目を閉じ、そのままウトウトした。
どのぐらい時間が経ったかわからない時にスマホが鳴った。
目を開け通知を見ると亜沙美からのメッセだった。
今から病院に行ってくるという内容だった。
すぐに
「わかった、気を付けてね。」と返信し
また目を閉じた。
亜沙美との時間に比べると何もかもがつまらなかった。
「俺、今まで何をして生きてたんだっけ?」
これまでのプライベートに疑問を感じるほど、何もすることがなかった。いや、それ以上に亜沙美といる時間がとても楽しく世界が様々な色彩を帯びて見えていたことに気が付いた。
「今、何時だろ?」
スマホの画面を見たら時間は九時を過ぎていた。
「三時間も何もせずに過ぎるとか笑えないな」
直人は部屋着から着替えることにした。どちらにせよインスタントコーヒーが無いから買いに行かなければならない。
「あの店、確か九時から営業してるはずだよな」
近くのミニスーパーに行くことにした。
店に到着するとやはり営業していたので入っていった。
店内は他に客はおらず二人の店員が朝の納品を棚に陳列しているだけだった。
「まっ、そりゃそうか。こんな朝早くに来るのはそんなにはいないよな」
直人はとりあえずインスタントコーヒーがある棚に向かい、いつも飲んでいるコーヒーの詰め替えを手に取った。
レジに向かう途中、パンや弁当、おかず等を見て気が付いた。
「そういや亜沙美が好きな食べ物…知らないな」
そう呟いてから他にも知らないことが頭に浮かんできた。
趣味、休日の過ごし方。
「今日、色々と話してみよう」
レジで精算する時に横に置いてある団子と大福が目に入り、ついでに大福を二つ買った。
店を出て家に帰る途中
「大福、食べるかな。まぁ、そういうところから話してみればいいか」
家に着きテーブルに買った物を置いた時にスマホが鳴った。
亜沙美から今病院出て一旦家に帰るという内容だった。
「わかった」と打ち、そのあとに「今日泊まっていく?」と打ち込んだが、すぐに消し「わかった」だけで返信した。
「……俺は何を言おうとしてんだろうな」
ソファーに座り、亜沙美が座っていた隣を見た。そしてまた目を閉じてウトウトすることにした。




