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フェイクマイナス  作者: 海鮮メロン
24/77

#24 言ってなかった大事なこと

キッチンに立った亜沙美はまず必要な道具と材料を集めることにした。

棚からボウルを取り出し置こうとした時、手が滑り大きな音と共に床に落としてしまった。


直人が慌てた様子で声をかけてくる。

「大丈夫!?やっぱ手伝うよ。二人で作ろう?」

「ごめんごめん、大丈夫だから。待ってて」

「…う、うん。わかった」

直人は亜沙美だけでなく自分も一緒に作ろうと考えたが、亜沙美の目が本気だった為にそれ以上言えなかった。


その後は比較的スムーズに作り進めて、あとは焼くだけとなった。

時間は午後六時前。

「ナオ、あとは焼くだけなんだけど、食べるにはまだ時間早い?」

「うん?僕はいつでも食べられるよ」

「わかった、じゃあもう焼いちゃうね」

「うん、ありがとう」


練習の時には焦がしてしまったのでそこを気を付けながらハンバーグを焼き、それを皿に乗せた後フライパンに残った肉汁を使ってソースを作った。

直人は少し驚いていた。大晦日の時とは印象がだいぶ違い、多少動きは不慣れながらも大きなアクシデントも無く気付けば盛り付けに入っていたからだ。


直人自身もハラハラとした感情で見ていた為、出来上がるまでの時間は体感としては短かく感じた。


亜沙美が出来上がったハンバーグを持ってきた。

「はい、召し上がれ」

直人の前に出てきたハンバーグは崩れてもなく焦げてもいない、それでいて中に肉汁が詰まっているのか少し上が丸っこくなっているハンバーグだった。

そして亜沙美が目の前に座った。


「…いただきます」

直人がハンバーグをナイフで切るとやはり中から大量に肉汁が出てきた、もったいないとそれをフォークで刺したハンバーグに出来るだけ付けてから口に運んだ。

亜沙美は心配そうにそれでいて不安や表情で見ていた。直人が三回ぐらい噛んだところで

「…どう?」

「………んん?」

直人は少し首をひねった。

「えっ?ちょっ……ダメ?」

「………美味しい!!」

「ナオ?次それやったら本気でビンタね」

「ごめんなさい…、スゴく美味しいよ!」

「良かったー、とりあえず…」

亜沙美は後ろに仰け反り上を見上げたあとで席を立ち直人に近付いて肩を強く叩いた。

「痛い!えっ?なんで?」

「なんか改めてイラッときたから」

亜沙美は笑いながらキッチンへ向かい、自分の分もテーブルに持ってきた。


「……うん!美味しい!ちゃんと出来るじゃん、私」

「本当に美味しいよ。……あの、もう二度とあんなことはしないので、テーブルの下で足を踏むのはやめてくれませんか?」

亜沙美はハンバーグを食べてる間、ずっと直人の足を踏んでいた。直人は食べてからのあの行動は本気でやめようと思った。



その後、裕子が作ってくれていたであろう筑前煮に一度火を通し、それとハンバーグを二人は完食した。

「ごちそうさまでした」

「ごちそうさまです。はい、お皿片すよ」

「うん、あぁ持っていくよ」

「いいからソファーに行って座ってて、ナオは今はお客さんなんだからね?」

「…うん、ありがとう」

直人はソファーに座った。その数秒後、皿が割れる音がした……。



後片付けが終わった亜沙美はソファーに座った。自分を見る直人の事が急にとても愛しくなり、くっついて肩に頭を乗せた。

「どうしたの?急に」

「ん?何となく」

直人は亜沙美の頭をポンポンとした後

「美味しかったよ、ありがとう」

と言った。

亜沙美は今まで感じたことのない高揚感に包まれた。


「ねぇナオ」

「ん?」

「明日、ナオの家行ってもいい?」

「いいよ?午後から来る?」

「うん、一旦家に帰ってから行く」

「わかった、じゃあ駅に着きそうになったら連絡して、迎えに行くから」

「迎えはいいよ、一人で行ってみる」

「…いや、心配だから迎えに行く」

「道、間違えたりしないよ?」

「うーん、それよりも途中で事故にあわないかとかそっちの心配。亜沙美に何かあったら嫌だし」

「……フフッ、ありがと。じゃあ連絡するね」

「うん、待ってる」

その後二人は腕を絡めて手を繋ぎ、何も話さない時間が続いた。

しばらくすると玄関の扉が開く音が鳴り、二人は咄嗟に少し離れた。


「ただいま」

裕子が帰って来た。リビングに入ると妙な距離感の二人がソファーに座っている。

「……いいわよ、別にイチャイチャしてても、むしろそうしてくれてないと私は安心できません」

「な、なな何が?」

亜沙美がわかりやすいように慌てた。

はぁーっと溜め息をついた裕子は

「直人さん、今日は泊まっていきますか?」

「あっ、いえいえ何も持ってきていないですし、急に泊まるのも悪いですから、そろそろおいとましようかと…」

「あら、そう?残念ね、またいつでもいらしてくださいね?」

「はい、ありがとうございます」



直人は帰ることにした。

「駅まで送っていくよ」

「いやもう遅いから大丈夫だよ」

「直人さんお気になさらずに亜沙美に送らせてあげてください」

「…じ、じゃあお願いしてもいい?」

「うん、ちょっと待ってて」

亜沙美は出掛ける準備をした。



「それじゃお母さん、行ってくるね」

「あっ、ちょっと待って、直人さんこれ持っていってください、イチゴのお返しです」

「いえいえそんな」

「持っていってもらわないと困りますから。どうぞ」

「わかりました。すみません、わざわざ」

直人はお土産を受け取った。


「じゃあ行ってくるね」

「はい、今度はうちの主人がいるときにお待ちしてますね」

「はい、是非」

直人は一礼をして竹下家をあとにした。



駅までの道

「亜沙美、何かお母さんの様子が変わってた気がしたんだけど」

「あぁ、ごめん。実は買い物に行ってるってメールの最後にわかってるわね?って書いてあったの」

「……あっ!そういうこと?二人きりにするんだからって?」

「…うん、だから少し離れてたのが気になったのかも」

「でもお母さん帰って来てあのままなのはちょっと…」

「そうだよね」

「あと彼女の実家で彼女とイチャイチャするのも抵抗あるよ?」

「あるの?……いや、あるよね。私もナオの実家でって考えたら」

「でしょ?いや、まぁお母さんとしても何か考えっていうか思うところがあるんだとは思うけどね」

「うん、心配はしてるみたい」

「心配?」

「うん、ほら言ってたじゃない、昔から恋愛に興味無いんじゃないか?って思ってたって。まぁ本当に誰かと付き合ってるとか話したことないし紹介したこともないし」

「そうだったんだ」

「だからお見合いの話も、って聞いてたよね。でも年末にナオを紹介したからちょっと安心したみたい。だけど、お母さんが言うにはナオはモテるでしょ?って、それもあるから多分そういうような事を、って意味でお母さんなりに気を使ったんだと思う」

「じゃあちょくちょく実家にお邪魔した方がお母さんもっと安心出来るかな」

「うーん、かもしれないけど。大変じゃない?」

「僕は大丈夫だよ」

「ありがと、あとモテるでしょ?のところは否定しないんだね」

「モ、モテないよ。まだモテ期来てないし」

「ほー、それが来たら存分に楽しむと?」

「そこまでは言ってない。僕は亜沙美一筋です」

「何だろう?急に胡散臭い」

二人は笑った。



二人が駅の近くに着いた時、直人は亜沙美の正面に立った。

「ん?どうしたの?」

「いや、お母さんの話を聞いて今まで好きって事は伝えてきてたけど、大事なことを言ってなかったなって思って」

「大事なこと?」

「うん、ほら初めの彼氏のフリして実家に来てって事の延長線で今日ここに来たみたいに思ったから改めて言わせてほしい事がある」

「な、何?突然……」

亜沙美は少し警戒している。


「竹下亜沙美さん、結婚を前提にこれからも僕とお付き合いしてくれませんか?」

「………」

「えっ?あれ?」

「………プフッ、ダメだぁ、ナオの真似しようとしたのに」

亜沙美は直人の言葉がとても嬉しかったがご飯の仕返しをしようと考えた。しかし嬉しい気持ちが強すぎて笑顔を堪える事に耐えられなくなった。

「えっ!?ちょっと何?」

「はい、よろしくお願いします」

亜沙美の笑顔の返答に直人はホッとした。


改札口

「それじゃ明日、待ってるね」

「うん、病院出たら一旦連絡するよ。それと家帰ったら」

「わかった。じゃあね、お母さんにありがとうございましたって伝えておいて」

「うん、わかった。じゃあね」

直人は改札を通り数歩歩いたところで振り返り手を振った。亜沙美も大きく振り返し、その後二人同時に帰路に向かった。



「フフフ、結婚を前提に、か。お母さんに話したら喜ぶかな」

亜沙美がふと気付いた。

「あれ?もしかしてそれもあって言ってくれたのかな?」

考えすぎかもしれないが、その直人の優しさに亜沙美は更に愛を深めていった。

「もうこれで決まったも同然よね」

亜沙美の足取りは軽かった。



竹下家

亜沙美が実家に着いた。

「ただいまー」

キッチンで裕子がイチゴを用意していた。

「お帰り、今いただいたイチゴ出すから食べましょ」

「うん」


裕子がテーブルにイチゴが盛り付けられた皿を出した。

「で?どうだったの?」

「どうだったって?」

「さよならのチューはしたんだろうね」

「…してない」

裕子は右手で額を抑え、うなだれた。

「もう、何してるの」

「…で、でもねでもね、今まで言ってくれてなかったんだけど、結婚を前提にこれからも付き合ってくださいって言われたよ」

「あら?じゃあ一安心かしらね、って結婚を考えてる彼氏って言ってなかった?」

「あ、あー、それは、そのー…」

あの時はでまかせだったことは今更言えなかった。


「自分で考えてただけって事だったの?」

「う、うん、そう!」

とりあえずそれでいいかと思った。


「…まぁ、いいか。直人さんからちゃんとそれ言われたんでしょ?」

「言われた、よろしくお願いしますって答えたし」

「じゃあいいわ。とりあえずお父さんがいるときにまたお呼びしないと」

「うん、安心した?」

「安心したけど、まだよ」

「えっ?」

「あなたがもう安泰だと思って気を抜かないかが心配」

「うっ…」

「図星ね?」

「……これで決まったも同然って思いながら帰ってきました」

「まだ何も決まってないのよ。向こうのご両親にも会ってないんでしょ?」

「はい…」

「最後まで気を抜かないこと!」

「はい、気を付けます…」



電車内


直人は智美に四日に亜沙美と会えるという事を連絡していた。

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