#23 屋台メシと亜沙美メシ
神社に初詣に来た二人はお詣り帰りに屋台で何か買おうと見て回っていた。
「……やっぱりたこ焼きかなぁ」
「いや、広島風お好み焼きも捨てがたい…」
二人は悩んだ、直人が口を開いた。
「亜沙美、提案なんだけど…」
「乗った!」
「まだ何も言ってないけど頼んだ!」
直人はたこ焼き屋、亜沙美は広島風お好み焼き屋にそれぞれ向かった。
そう、直人が提案と言ってきた時点で亜沙美は半分この事だとわかった。何故なら自分も考えてたから。
亜沙美は自分が言おうとしたときに直人が先に言ってきたので何も聞かずに話に乗った。
直人も亜沙美ならわかってくれてると思い、何も話さずに頼むことにした。
これは長い間、職場で教育係と新任から上司と部下の関係で共に働いてきた強固たる信頼関係が恋人同士になっても続いている証でもある。
事実、職場では亜沙美の直人への指示出しは短く簡潔だが直人はそれに附随することまでも成果として出す。それは周りから見ると奇妙に映る時もあるが二人にとっては信頼関係が強すぎるが故のごく普通の事だった。
そしてそれは逆の立場でも同じなのである。
ここまでわかってくれるだろう、ここまで必要としているだろう。お互い相手の事を理解しようと行動してたからこそ、今の関係になっている。
それは元々二人の間に愛がなければ成立しない事でもあった。
直人がたこ焼きを買って先ほど別れた場所に戻ってくると数秒後亜沙美も戻ってきた。
「あっちに座れるところあったから行こう?」
「うん、ありがとう」
亜沙美が見つけた場所に二人で座った。
「はい、お箸」
「はい、楊枝」
二人の間にたこ焼きと広島風お好み焼きを置き、食べることにした。
「はい、あーん」
亜沙美は一口サイズに切り分けたお好み焼きを箸で持ち、直人に食べさせようとした。
「ちょっと恥ずかしいよ」
「えっ、嫌なの?」
「いただきます」
亜沙美からの圧を感じ直人は素直に従った。
「じゃあたこ焼き食べさせて」
「はい、熱いから気を付けて」
亜沙美は一口で食べてしまったが為にハフハフと色々忙しくなった。
「ハハハッ、だから熱いって言ったじゃん」
直人が笑うと自然な形で亜沙美が睨んできた。そして悪い顔になった。
「ナオ、あーん」
案の定たこ焼きを食べさせようとした。しかし直人はフーフーと息を吹きかけてから食べた。
「むぅー」
亜沙美は不満そうにむくれた。
「だって、わかってるから」
「えー、あえてノッてくれればいいのに」
「亜沙美のむくれた顔が可愛くて好きだからノらないよ。あっ、でもノってたら笑顔が見れたのか」
「えっ?ちょっと何言ってるの?」
亜沙美は少し照れながら直人の腕をバンッと叩いた。
少し陽が傾いてきた頃、二人は食べ終わった空容器をゴミ箱に捨てて家に帰ることにした。
「ねぇ、このあと夕飯だけど大丈夫なの?食べられる?」
「ん?大丈夫だよ、なんか新年明けてから食べちゃうんだよね」
「それ、典型的な正月太りするパターンじゃん、買ったスーツが入らなくなっちゃうよ」
「うっ……、気を付けます。明日は節制かな」
「明日は何か予定あるの?」
「いや、特に無いよ。家でゴロゴロしてようかなぁって、亜沙美は?帰るのは二日までって言ってたよね」
「うん、ただ明日の午前中にお父さんの着替えを持って行きがてら会って、それから帰ろうと思ってる。あっ、直人はまだ会っちゃダメだよ、まだキャラ設定完成してないみたいだから」
クスクスと笑っている。
「どんなお父さんなの?」
「優しいよ、うちはお母さんが厳しかった分お父さんは優しかった。多分それでバランス取ろうとか思ってたんだろうね、でも御存じの通りよく飲みに行ったりしててお母さんから怒られてるのも見てたな」
「ハハッ、うちと同じかも」
「そうなの?」
「昨日も怒られてたからね、智美の親父さんとうちの親父が幼馴染で未だにしょっちゅう遊んでるみたいで昨日も麻雀やってから飲みに行って…」
「ねぇ、その智美さんって人とナオは本当に何もないの?」
「もしあったら亜沙美に会わせないよ。恋愛感情を持ってる女性を彼女に会わせるような男に見える?」
「………見えない」
「ちょっと今の間が気になったけど」
「………見えない、…プフッ」
亜沙美はわざと繰り返そうとしたが堪えきれず吹き出してしまった。
「こらこら、自滅しないで」
「ハハッ、ごめんごめん」
「不安にさせちゃってごめんね、何だろうな、僕の双子の兄弟みたいに思ってくれていれば大丈夫だから」
「本当に小さい頃から一緒なんだ」
「そうだよ、親父同士が幼馴染でしかも僕らが同じ年に産まれて。何をするのもどこに行くのも必ず二家族だったよ。だから僕らには母と父が二人ずついるような感覚かな」
「なんかいいね、そういうの」
「そう?怒られるのも二倍だよ?」
「ハハハ、そっかそうなるんだ」
亜沙美は何となく胸の中が少し軽くなった気がした。
いけないとは思いつつも気になってしまう、今までこんな事は無かった人生だった。
すこしづつ性格や精神が変わっていっているのを亜沙美は自覚していた。これが良いことなのか悪いことなのかはわからない。
だからこそもっと直人と一緒にいたいと思っていた、そうすれば何かわかるのではないかとも。
午後四時頃 竹下家
二人は家に着いた。
「ただいまー」
しかし、何の返答も無かった。
「お母さん?」
亜沙美はリビングに向かったが裕子はいなかった。
スマホを見ると裕子からメールが来ていた。どうやら買い物に行ったようだ。文面の最後に「友達とも会ってくるから夜まで戻りません、わかってるわね?」と書いてあるのを読み、亜沙美は意味を考えたのち赤面した。
「……えぇ、それって」
「ん?どうしたの?」
「わぁ!!ううん!何でもないよ」
「何でもない驚き方じゃないよ?」
直人は驚いている亜沙美の姿が少し面白く笑っていた。
「お、お母さん買い物に行って友達とも会ってくるって」
「そうなんだ」
亜沙美は自分がドキドキしているのに対して飄々している直人に少し腹が立った。なので直人もドキドキさせてやろうと思った。
「お母さん、夜まで帰ってこないって」
「そうなの?」
「うん、二人きりだね」
亜沙美は体をくねらせた。
「ん?足痛いの?」
「え?痛くないけど?」
「踵が床につかないようにしたから歩き疲れたのかと」
「あっ、今そういうのいらない」
「……何を企んでる?夕飯の準備なら手伝うよ?」
「…それもいらない」
亜沙美はムスッとした顔をした。
すると突然直人が亜沙美を抱きしめ
「愛してるよ」
と、耳元で囁いた。
数秒、そのままでいたが亜沙美はあることに気付き体を離した。
「ずるい!わかってたでしょ!」
「急にわかりやすかったから」
「もー、本当にずるい!」
おもいっきり直人の肩を叩いた。
「ごめんて」
「許さない」
「どうしたら許してくれる?」
「目を瞑って歯をくいしばって」
「いや、ビンタはやめて!?」
「じゃあ夕飯は私がハンバーグを作るから食べて」
「ハンバーグ?」
「うん、ハンバーグ、ナオ好きかなぁって思ってお母さんに教わったの」
「嬉しい、その気持ちだけで充分だよ」
「おい、食べないつもりか?味が心配ってか?」
亜沙美は直人の腕をつねり始めた。
「痛い痛い、食べさせてください、本当は楽しみなのに茶化しちゃいました」
「よろしい、じゃあ作り始めるから座って待ってなさい」
キッチンに向かう亜沙美の表情は言葉とは裏腹に少し引きつっていた。




