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フェイクマイナス  作者: 海鮮メロン
18/77

#18 オムライスの心残りは時を越えて涙に変わる

藤堂家 居間


「おじゃましまーす」

智美と智美の母 佳江が入ってきた。

「いらっしゃーい、どうぞどうぞ座って」

「圭子さん、これ、私の実家から送られてきたの、塩いくら」

「あらー、毎年悪いわね、これ美味しいのよね」

「いえいえ、こちらも毎年ご馳走になってしまって、しかも今年は智美が昼間から」

「いいのいいの、智美ちゃんは食べっぷりが見てて気持ちいいんだから」

「本当に昔から大食いで」

「直人に少し胃袋分けてほしいわ、ハハハ」


「そういえば本当にそんなに痩せてるのにどこの入ってるんだ?」

「食べたあとはお腹はぽっこりしてるよ?」

「そういや、高校の時見たな」

「体育の授業でしょ?」

「そう、昼休みあとの体育。授業始まった時はぽっこりしてるのに、終わる頃にはへこんでんの」

「食べた分すぐにカロリー消費したとか話になってたね」

「そうそう、あいつどれだけ動いたんだ?って」



圭子と佳江がおかずを全部皿に盛り付けてテーブルに持ってきた。

「わーい、コロッケ!」

「智美!!何してんの!!」

智美は手掴みで取ろうとしたがさすがに佳江に怒られた。

「…はーい」

「ったく、もう。いくつになったのあなたは!!」

「怒られてやんの、ハハハ、痛っ!!」

智美は直人の脇腹を指先で突いた。

「はい、小皿回して、箸持って」

「ちょっと待って今のは怒らないの?」

「今のはあんたも悪い」

「…納得いかない」

「まあまあ直人、はい、あーん」

智美はコロッケを食べさせようとして自分が食べた。

「んー、おいひー」

「まぁ、だろうなとは思ったよ…」

「もう拗ねないでよ、はい、あーん」

今度は本当に食べさせた。

「……美味しい」

「だよねだよね。はい、あーん」

「まだ口に入ってるから」

「智美様のあーんが受けられないってか?」

「だからまだ入ってるの!お茶ちょうだい」

「よし、じゃあお茶をいれてあげよう」

智美が悪い顔をしたのを直人は見逃さなかった。

「待った!自分で入れる!」

「まぁまぁ、座ってなさいって」

「いいって!」

「こら!二人ともはしゃがない!!」

圭子の怒鳴り声が響いた。

「……ごめんなさい」

二人同時に謝った。



家の電話が鳴った。

「はい、もしもし…あぁ、あんたかい。え?まぁ毎年の事だからもう何も言やしないよ。今佳江さんに変わるからそっちも変わりな。」

佳江は受話器を受け取った。

「お前毎年ふざけてんのか?あ?もう一生帰ってこなくてもいいんだけど?」

直人と智美はひそひそ話を始めた。

「智美の母さん、おじさんには厳しいよな」

「うん、まぁ毎年の事だからもういいんだけどね、お土産買ってきて仲直りしてるから」

「お前も将来ああなるのかな」

「直人とだったらならないと思うよ?」


「はいはい!!じゃあね!!」

佳江は受話器を置いた。


「さてと、直ちゃん何か言ったかしら?」

「ななななな、何も」

「智美?何を話してたの?」

「直人さっきお母さんの事、相変わらず綺麗だねって言ってたよ」

「あらやだ、この子は。いつからそんな褒め言葉覚えたの」

佳江の機嫌が一気に直った。


「でね、私見て。お前もいつまでも若くて綺麗なんだろうな。とか口説いてきてんの」

「ちょっとあんた彼女いるんでしょ!何してるの!!」

今度は圭子が怒り始めた。


「そんなことはしてない!母さんもいい加減慣れてよ」

「でも言ったのは本当だもんねぇ」

「いやそんな感じの事は言ったけど、それとこれとは別だろ」

「ほら、そういうところ。意識しないで言ってますみたいなのがムカつく」

「お前は今でも美人なんだから歳取ってもそうなんだろうなって思うだろ。それを言っただけ」

「ほらほら聞いた?圭子おばさん」

圭子は直人の方向に座り直した。


「直人、あんたそれはいかんよ」

「何が?」

「女性を勘違いさせる言葉って事。彼女いるんなら気を付けなさい。修羅場になっても誰も助けてくれないんだからね」

「……わかった」

「付き合う前から彼女にそういうこと言ってたんじゃないだろうね?」

「言ってな……いや、言った」

直人はクリスマスイブの日の事を思い出した。


「かー、この天然の女たらしが」

「それ実の息子に言う?」

「まあまあ、今度からは私が近くにいますから、そんな感じの事を言ってたら報告します」

「報告するの!?」


「直人、女への褒め言葉は彼女だけにしなさい。他の女を彼氏が褒めていい気分になる女がいると思うかい?」

「…いないね」

「その逆もあるからね」

「わかった。気を付ける」


智美は直人の肩を叩き

「私の事はどんどん褒めなさい」

「何でだよ」

「だから褒めたい欲求を私にぶつければ他の女に手を出さないでしょ?」

「手を出すとか言うなって」

「ほら、今言ってみ?私を褒め称えなさい」

「……無い」

「背が高くてスタイル良くて美人だからパンツスーツが似合うんじゃない?って今日言ってたじゃん」

「言ってない言葉も混ざってるから。それは言ってない事にします」

「なんでうちの息子はこうも女たらしなのか…」

圭子は頭を抱えた。

「いや、おかしいって。母さん!」

「ほら、私を褒め称えなさい」

「お前は一回黙れって」



「別に褒めようと思って言ってるんじゃないの、ただ思ったことを言ってるだけだから」

「だからそれを気を付けなさいって言ってるの!」

「直ちゃん?女の嫉妬は怖いからね?」

「無意識な分、タチが悪いんだよなぁ」

居間には男は直人だけであり、一斉攻撃を食らっていた。


「わかったよ、気を付けます。思っても言わないように気を付ける」

「はい、そうしなさい」



外も暗くなってきた頃

「よし!じゃあ私が直人にオムライスを作ってあげよう」

「何?急に」

「オムライス好きでしょ?」

「うん、好きだけど。だから何故急に?」

「この私が作ってあげようって言ってるんだから黙って待ってなさい」

「……はい」

智美は台所へ向かった。


佳江が直人に小さい声で話し始めた。

「あの子、高校三年生の時に直ちゃんの誕生日にオムライスを作ってあげるんだって練習してたの。あの頃直ちゃんレストラン行くとオムライス食べてたでしょ?」

「えっ?うん、あの頃はオムライスが好きだったから」

「だけど全然上手く出来なくてねぇ、結局お菓子あげたのよ」

「うん、お菓子貰った。いつもと同じお菓子。これ好きでしょ?って」

「もうあれから何年も経ってるし作れるようになってるみたいなの。それに多分あの子の中で食べてもらえるのが今日しか無いと思ったんじゃないかしら。だから食べてあげて?」

「……うん」


智美は直人に彼女がいることを知り、いつか食べてもらうから今日食べてもらうに思いが変わっていた。恐らく直人の性格ならいつでも食べてくれるだろう、しかし現実的に難しい。

高校生の頃の心残りの一つ。それを果たすために智美は一所懸命直人の為にオムライスを作った。

叶わぬかもしれない想いも新たに込めて。


「出来たよー」

智美はオムライスを直人の前に出した。それはとても綺麗な形をしていて直人がお店で食べるのと遜色無い出来であった。

中央部分にはケチャップで真っ赤なハートが描かれていた。

「いただきます」

直人はスプーンを持ち、オムライスの真ん中の手前を掬った。食べてみてビックリした、今まで食べたオムライスの中で一番美味しいかもしれない。

直人はそのままがっつくように食べ進めた。

「美味しいよ!すごく美味しい」

「良かったー」

「今まで食べてきたどの店よりも美味しい」

「えっ?ちょっと言い過ぎじゃない?」

智美は笑顔になってきた。

「言い過ぎじゃないよ、こんなに美味しいのが作れるなんてすごいよ!」

直人は早い速度で食べ進め、すぐに完食してしまった。


「完食、嬉しい!!」

「いや、そりゃ食べちゃうよ。美味しいんだもん」

「良かった。いっぱい愛情込めたからね」

「うん、ありがとう。智美と一緒になったら毎日愛情いっぱいの美味しい料理が食べられるんだろうね。幸せなんだろうなぁ、そういう生活」


少し場の空気が悪くなった。

「圭子おばさん、こいつ反省してないです」

「本当に誰に似て、こんな女たらしになったのか」

圭子はまた頭を抱えた。


「ずーっと褒めながら食べて完食、そして口説き文句。気を付けろって言ったばかりなのに……」

智美はハーッとため息をついた。

「直ちゃん?おばさん嫌だよ?女から恨まれて刺されましたって事件をニュースで見るの」

佳江は心配そうな表情をしている。


「………面目ない」

直人は頭を下げた。



圭子と佳江は台所で片付けをしていた。

居間には直人と智美の二人きりだった。

「直人、本当に気を付けなよ」

「うん、わかったよ、さっきのですごく反省した」

「ほんとかなぁ」

「…なぁ、俺って女たらしなの?」

「たらしだねぇ、直人の場合誰にでも優しいってのがあるんだろうけど」

「自覚無いのやばい?」

「やばいからさっき皆で注意したんでしょ」

「だよね……」

「でも、そこが直人の良いところでもあるよ」

「ん?」

「だって私さっきすごく嬉しかったもん、だからそれを彼女に全部向けないと」

「そうだね」


智美は呟いた。

「ちょっと悔しいけどね」


「ん?何?何て言ったの?」

「んーん、何でもない」

「何だよその気になるやつ」

「まあまあいいからいいから」

智美は直人の隣に移動した。


「一つ聞いていい?」

「何?」

「あれ、本当は高三の時に食べてもらいたかったの…」

「う、うん」

「あっ、聞いた?なら話が早い」

「何?話って」

「もし高三の時にあのオムライス食べてたら、私と幸せな生活送ってたと思う?」


直人は考えた。

「……どうだろうな、食べる俺がガキだから美味しいって言いながら食べて終わってたんじゃないか?」

「…うん、よし!合格!!」

「あ、試したな?」

「怒らない怒らない、ちょっとトイレ行ってくるね」

「ほいよ」

智美は目に少し涙が出てきそうだったので、その場を離れた。


トイレに入った智美は涙を流したが、すぐに

「……うん!これでいいんだよね!私は」



青春時代の心残り、後悔。智美はずっと引きずっていた。結婚した相手が浮気したのもどこか自分の中でちゃんと愛していなかった部分があったからじゃないかと思っていた。ちゃんと決着をつけてから結婚すべきだった。あの頃は直人を忘れようとしていただけなのかもしれない。


だから今日、直人に終止符を打ってほしかった。

だが実際にその展開になると一気に悲しくなってしまった。

隣に座ったとき智美が言ってほしかったのは、「そうかもね」ぐらいの言葉でも良かった、諦めるためだったのに今日一日過ごして終止符を打ってほしくないという思いに変わっていた。少しでも希望が残ってほしかった。


二人は兄弟のように育ってきた。そばにいるのが当たり前だった。

智美はその先の関係でいたかった、本当の家族になりたかった。そんな青春時代の心残りが今、無くなった。



「私たちは兄弟のように過ごしてきた。そしてこれからもそれは変わらない。それでもいいか…フフ、あいつ情けないところあるからなぁ、幸せになれるように私が助けてあげなきゃ」

智美は再び涙を流したがその顔は笑っていた。



外からは他の家族の笑い声が聞こえた。本当の家族になれなくても自分と直人ならああやって笑い合える。そう思えたら少し心が強くなった気がした。

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