#16 スーツを買いに来ました
二人が家を出たあと直人は
「このまま智美の家に一度行こう」
「何で?」
「挨拶してないから」
「やだ、ちょっと。直人そういうのはまず本人からでしょ?」
「ん?」
「突然親に娘さんをくださいなんて挨拶、もう!」
パンッと直人の背中を叩いた。
「無視しまーす」
「こら、ノリが悪いぞ」
「智美がすぐ悪ノリしすぎなの」
「あっ、でも直人!」
「ん?」
「あけましておめでとうございます」
「あっ、あけましておめでとうございます」
「ね?本人にしてなかったでしょ?」
「はい、そうでした」
智美の実家の呼び鈴を押すとはーいという声と共に一人の女性が出てきた。智美の母親だ。
「あら智美。…えっ?直ちゃん?」
「ご無沙汰してます」
「あらあらすっかり大人になっちゃって」
「ハハハ、あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いしますね」
「こちらこそよろしくお願いいたします」
「ちゃんと挨拶まで出来るようになって…智美!見習いなさい!」
「当人同士では私の方から挨拶してるもんねー」
「ったく、あっ、そうそう職場が一緒になるんですって?くれぐれもよろしくお願いね」
「はい、任せてください」
一連の会話を聞いた智美は直人の肩を抱き
「よろしくお願いしますわ、先輩」
「君、先輩に対する態度じゃないね」
そのまま肩をおもいっきり握り締めた。
「痛い!」
「ごめんねー、新天地を前に気合い入っちゃった」
「き、気合いが入るのは良いことだね……」
「智美!バカやってないでちゃんと直ちゃんの言うこと聞くのよ!?」
「はーい、じゃあこれからスーツ買いに行ってくるから」
「はい、行ってらっしゃい。直ちゃん、智美の事お願いね」
「はい、じゃあ行ってきます」
智美の家をあとにした二人は幹線道路沿いにあるスーツショップを目指した。
「直人は職場まで何分の所に住んでんの?」
「三十分くらいのとこだよ」
「じゃあ同じぐらいだね、どこ?」
「文京区」
「えっ?ちょっと!!」
「ん?」
「私も文京区!」
「はっ!?そうなの?」
「ちょっとー、真似しないでくれない?」
「そっちの方が全然あとからでしょ」
「ハハッそうでした、なんだー、じゃあ昨日は直人んちでイチャついてたの?」
「なんか言い方が引っ掛かるな」
「大晦日に彼女と一晩中いてイチャついてなかったら直人やばいよ?」
「はいはい」
「ねぇ…私と一晩中一緒にいたら、直人どうなっちゃう?」
「すぐに熟睡すると思うよ」
「ほー、そのケンカ買ってやってもいいんだぞ?」
智美は握りこぶしを作った。
「いや、もう何を求めてそういう事言うのかがわからない。智美といると安心するからよく眠れると思うよ」
「…まぁいいでしょう、ひとまず合格です」
「何にだよ」
二人は笑いながら歩き続けた。
「しかし智美の母さん、相変わらず綺麗だったね」
「えっ?ちょっと、私のお母さん狙うのはやめてよ、直人がお父さんになるなんて…」
「そういう意味で言ってない、智美も歳取ってもああいう風に若くて綺麗なままなんだろうね」
「……」
「ん?智美?」
直人は智美が横からいなくなったことに気付き、後ろを振り返った。
少し赤面した智美がいた。
「どうした?」
「な、何でもない。ちょっとムカつく…」
「えっ?何で」
「なんかそうやって意識して言ってないですよ感がムカつく…直人ってそういうとこあるよね、女を勘違いさせるところ」
「話が見えない」
「見えなくていい、とりあえずありがと」
「…?」
不思議そうな顔をしている直人の背中を叩き
「ほら、行くよ」
智美は直人にバレないように笑顔で歩いた。
スーツショップに到着した二人はレディススーツコーナーに向かった。
「とりあえず店員さんに声をかけよう」
「ん?まず見てからじゃない?」
「採寸してもらってからじゃないと合うサイズのデザインがあるかわからないじゃん」
「あっ、そっか。さすが先輩」
「我を先輩と崇め続けなさい」
智美は直人に肩パンチした。
「すみませーん」
「はい、ただいま」
「スーツ買いたいんですけど、ちょっと細かなサイズがわからなくて」
「かしこまりました、それでは採寸させていただきますね」
「お願いします」
智美が採寸してる間、直人は店内を回っていた。そういえば自分が着てるスーツもそろそろ新しくした方がいいかもと思い始めたので智美が終わったら自分も買おうと決めた。
気が付くと智美は採寸が終わりスーツを選び始めていた。
「智美、俺もついでにスーツ買いたい」
「ん?いいよ、でもまず私からね、どういうのがいいの?」
「派手じゃなければ大丈夫だよ、でも智美は背が高いからパンツスーツとか似合うんじゃない?」
智美は身長が168cmあり、体型も細身でいわるゆモデル体型と言われるような容姿だった。
小学生の頃から大きかった為、男子からは巨人等とからかわれていたが高校に上がる頃にはそのからかっていた男子達を惚れさせていた。
智美は店員のおすすめを数着持ち試着室へ入り、一着ずつ直人に見せた。
やはり直人の言うとおりパンツスーツが一番しっくり来たのでそれを買うことにした。
「すみません、今度はこっちのスーツ買うのでお会計は待ってもらってもいいですか?」
「はい、かしこまりました」
「こっちって言うな」
二人はメンズコーナーに向かった。
「直人はどういうの買うの?」
「ん?俺は黒でいい、サイズもわかってるし時間かからないよ」
「えっ?つまんなくない?」
「何が?」
「今着てるのは?」
「黒」
「買おうとしてるのは?」
「黒」
「つまらねぇ男だな」
「失敬だな」
「私が選ぶ!」
「嫌な予感しかしないから嫌だ」
「選ばせろ」
「いーやーだ」
「彼女に色々言いふらしてやる」
「智美さんのセンスで選んでください」
「よろしい、では」
結局智美がスーツを選ぶことになり、その時間は智美がスーツを買う時間よりも長くなった、何着も試着させられた直人は少しうんざりしていた
「智美さん、そろそろ決めてもらえませんか」
「んー、じゃあこっちにしよう!これください」
「はい、では改めて丈を測りますので試着室へ」
「はい」
結局買ったのは黒になったが若干ストライプが入ったシルエットもスリムに見えるスーツを智美は選んだ。
二人は会計に向かった。
「お支払はご一緒にしますか?別々にしますか」
「一緒で」
「えっ?ちょっと直人!」
「いいから、お祝いと餞別。新天地で頑張る智美にプレゼント」
「いいの?」
「いいよ」
「ありがとう!」
直人は財布からクレジットカードを取り出し会計を済ませた。
店員から伝票を貰いその後三日後以降に受け取りになる事を伝えられた。
「じゃあそれは私が受け取って直人に渡しに行くから」
「ん?うん、わかった。よろしく」
二人は店を出た。
「ね、直人。商店街行こ?」
「あまり店開いてないんじゃ?」
「それでも!行くよ!」
二人は商店街に歩いていった。




