#15 気を使わない関係
直人の実家付近
自宅最寄り駅に着いた直人は商店街を歩いていた。年始の為閉まっている店もあったが惣菜屋等は営業している店もあり、人で賑わっていた。
「ここの商店街もすごいよなぁ、こんなに盛況なんだから」
直人の実家はこの商店街を抜けた先にあった。
商店街を抜けて少し歩くと住宅地が広がり一軒家からマンションとファミリー向けの住宅が並んでいた。
実家に着いた直人はキーケースから鍵を取り玄関の扉を開けた。
「ただいまー」
返事が無い、しかし奥からは笑い声が聞こえる。
「単純に気付いてないな?これ」
直人は靴を脱ぎ、居間へと向かった。
「ただいま」
「あら、おかえり。あんた玄関でただいまって言いなさいよ」
「言ったけど誰も気が付いてなかったから直接来たんだろ?」
「あらそうなの?全然聞こえなかったわ」
直人の母 圭子は多少がさつだが面倒見がよく近所の人達との交流も盛ん。その証拠に毎年年末年始は世話になりましたという人達からお土産をもらい、それがテーブルに並ぶのが藤堂家の正月の光景だった。
「直人!」
呼ばれた方向を向くと一人の女性が座っていた。
「智美?」
「そうだよ!久し振り!!」
島崎智美 二十八歳
二十一歳の時に職場の先輩と結婚、その後すぐに夫の転勤で高知に住んでいたが、昨年十二月に離婚。その後は東京に戻り一人暮らしをしている。
「いや、久し振りすぎて色々とわからなかった。なんていうか変わったな、ちょっと」
「どんな風に?」
「大人っぽくなった」
「そりゃあそうでしょ」
「そっか、もうアラサーだもんな、ハハ」
「それ、自分もだからね?」
「あっ……」
「あっ、じゃないよ。何それ」
智美は爆笑した。
二十一歳の時に出席した結婚式以来に会った二人だったがその関係性はすぐに昔に戻った。
お互い小さい頃から知っている分、気を使わない。とても楽な関係だった。
「直人、雑煮は食べるの?」
「食べるよ、餅は二個で」
「はいはい」
圭子は台所へ向かった。
「で?離婚したんだって?」
「ストレートに聞くね」
「まぁ電話で聞いてるからね、話したくないならいいけど」
「いや、話させてもらいますよ。それでストレス発散する」
「はいはい、どうぞ。原因は?」
「向こうの浮気」
「ありがちなやつ」
「それな。職場の女と毎週会ってやがった」
「毎週?気付かれてないとか思ってたのかね?」
「思ってたんじゃない?バカだから」
「あれ?子供は?」
「いないよ」
「そっか」
「あれ?狙い目って思った?」
「思いません」
「あ?」
「ごめんなさい」
「よし」
「色んな意味で」
「………」
「痛っ!」
直人は無言で頭を叩かれた。
「懐かしい。よく直人の頭叩いてたね」
「そこにノスタルジー感じるのやめてもらえます?」
「はいはい、はしゃぐのはそこまでにして。ったくいくつになっても変わらないんだから」
圭子が雑煮を持ってきた。
「ハハハ、ごめんなさい」
「いただきます」
直人が餅を食べようとすると智美がジッと見ていた。
「…何?」
「いいなぁ」
「食べてないの?」
「ん?さっき食べた」
「じゃあいいじゃん」
「直人が食べてるといいなぁって思うよね」
「思い出した……それで弁当のおかず取られてたな」
「直人の物は私の物だからね」
「ガキ大将な性格は直しなさい」
「まぁまぁ、とりあえず」
智美は直人の肩に手を回し、大きく口を開けた。
「マジで食べるの?」
「うぅ…」
智美は頷いた。
「わかったよ、はい」
直人は箸で持ってた餅を半分食べさせた。
「んー、美味しい!」
「はいはい、よござんした」
「今気付いたけど、直人、彼女いるね?」
「えっ?」
「ネックレス、微かに匂う香水、朝までイチャついてたな、この野郎」
「あら?そうなの?何で連れてこないの!」
「ちょ、ちょっと待って、お前すごいな」
「もう忘れた?旦那の浮気を暴いた女だよ?」
「そうでした」
「もうちょっと痕跡を消さないとこのラブ探偵智美は誤魔化せないよ?」
「何だよラブ探偵って」
二人は爆笑した。
「で?で?」
「ん?」
「どんな人?」
「職場の先輩」
「先輩!?歳上?」
「そう」
「そうか、職場の先輩か」
智美は直人の肩をポンポンと叩いた。
「私と同じレールへようこそ」
「ちょっとやめてくれない?」
「ハハハ、でもそういう所も同じとはね」
「も?」
「あっそうかまだ言ってなかった、圭子おばさんから聞いたけどアレコレウールで働いてるんでしょ?」
「うん、そうだけど」
「私、今月中旬からそこで働くから」
「はっ!?店で?」
「うんにゃ、本社で」
「募集してたんだ、どこの部署?」
「総務部、前働いてた会社も総務だったから同じ職種で探してたの。そしたら受かったんだぜぃ」
智美は直人の顔に当たるか当たらないかの距離でピースした。
直人はその手を静かに払った。
「ついてきてほしいってのは本社?」
「本社は面接で行ったからわかってるよ、スーツ買いに行きたい」
「スーツ?」
「うん、ほらどんなスーツで皆働いてるのかとかわからないから、直人に見てもらおうと」
「あぁ地味すぎても派手すぎても浮くからね」
「それ!だからその雑煮を早く食べて私に付き合いなさい」
「何目線だよ」
「いいからいいから」
「はいはい、ちょっと待ってて」
「食べてあげてもいいんだけど?」
「…太るよ?」
「………」
「痛っ!!」
直人はまた頭を叩かれた。
「いやぁ、でも働きだしたら直人の彼女に会えるのかぁ」
「変なこと言わないように」
「なに?変なことって、私の裸を見た事とか?」
「!…っ、ゴホッゴホ。それは小学一年とかでしょうが」
「あぁ具体的に覚えてるんだ……引くわぁ」
「いや、もうそういう事、そういう事を言わないように」
「言うつもりなかったけど、そう言われちゃあなぁ」
「マジで怒るからね?」
「はーい。ってかどの人かは教えてね?ほら知らずに知り合っちゃうと変なこと言っちゃってるかも」
「いや、もう。すぐわかるよチーフだから」
「チーフ!?えっ?チーフの人と付き合ってんの?」
「だから何で今日連れてこないの!!」
圭子は会いたがっている。
「向こうは向こうで実家帰ってるの、まぁ明日俺も行くけど」
「えー、すごい進展してるじゃん。いつから付き合ってるの?」
「ん?年末」
「えーっと、一昨年の?」
「いや、去年の」
「まだ一週間経ってないじゃん!それで彼女の実家行くの!?」
「三十日にお母さんとは会ってるんだよね、その時にそういう話になって」
「ちょっとそういうことは早く言いなさい!!」
圭子は台所へ向かった。
「ん?何?どうしたの?」
「お土産を持っていかなきゃダメでしょ!」
「いや、買ってるからいいって」
「藤堂家からのお土産よ!今日あんたがうちに帰ってるの知ってるんでしょ?」
「うん、まぁ」
「だったらお土産を持たせなかったら家の恥じゃないかい!!」
「あぁ、うーん、わかったよ」
「今、良いの見つからないから、とりあえず智美ちゃんとスーツ買ってきなさい。あんたが夜帰るまでに用意しておくから」
「ん、わかった」
直人は雑煮を飲み干した。
「そんじゃ行くか」
「ほーい」
二人はスーツを買いに出掛けた。




