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フェイクマイナス  作者: 海鮮メロン
10/77

#10 急な連絡

十二月三十日

直人と亜沙美はランチを食べに来ていた。


「明日の準備は大丈夫なの?」

「!…」

亜沙美は口いっぱいにパスタを頬張っていたため、話しかけられたことで吹き出しそうになってしまった。

「あっ、ごめん…」

直人は謝りつつも笑っていた。

「もー。…準備?あぁ、旅行に行くわけじゃないし、服とかはまだ実家にいくらかあるから持っていくのはいつものカバンだけかな」

「そうなんだ、ところでこの後お土産を買いに行きたいんだけど何がいいとかある?」

「お土産?」

「挨拶に行くわけだから」

「あっ、そうか。うーん」

亜沙美は考えたが特に何がいいとかは思いつかなかった。

「好きなお菓子とかそういうのは?」

「あっ、ゼリー!お母さんもお父さんも果物が入ったゼリーが好き」

「じゃあ、それ買いに行こう」

「うん!デパート行けばあるよね、きっと。……ねぇ、ナオ」

「ん?」

「私、ナオがいっぱい食べてるところ見たいなぁ」

「そんなわかりやすい罠ある!?」

「やっぱり?」

「まぁ食べるけど」

直人は口いっぱいにパスタを頬張った。


「ねぇ、ナオ!」

直人は冷静にパスタを飲み込み

「なに?」

「…つまんない」

亜沙美はむくれた。

「そりゃそうでしょ、知ってるんだから」

「だよねぇ」



店を出た二人は少し歩いたところにあるデパートに向かった。

歩いている途中で亜沙美のスマホが鳴った。

「あっ、電話、ちょっといい?」

亜沙美は繋いでいた手を離しスマホをバッグから取り出した。

「お母さんからだ。もしもし?えっ?お父さんが!?うん、うん。わかった!」

「ど、どうしたの?」

「お父さんが病院に運ばれたって!」

「え!!何か大きな病気で?」

「わからない、そこまでは聞けなかったし、お母さんも慌ててる感じだったから。とりあえず来れるなら来なさいって」

「うん、すぐに行こう!!」

「えっ?いいの?一緒に来てくれるの?」

「当たり前だよ、僕も行かないと」

「ありがとう!じゃあ一緒に来て」


二人は亜沙美が母親から聞いた病院へ急いだ。

電車の中で亜沙美は不安な顔をしていた、状況がわからないという事が大きかった。

直人は大丈夫と言おうとしたが根拠も無い上軽々しく言うものではないと思い、何も言わずに亜沙美の手を握り目を合わせて頷いた。



病院の入り口に近付いたとき、横から亜沙美を呼ぶ声が聞こえた。

「亜沙美!」

「…お母さん!」

亜沙美は駆け寄ると焦る様子で

「お父さん、お父さんは!?」

「あぁ、大丈夫大丈夫。悪いねぇ呼んじゃって、私も焦っちゃって」

亜沙美とは対照的に母親は落ち着いていた。

「えっ?どういうこと?」

「階段を踏み外して手首骨折ですって、全く昼間から酔っぱらって、その帰りに店の階段から落ちるなんて」


父親は連休にかこつけて昼間から近所の人達と馴染みの店で飲んでいた、ただそこの店は建物の二階にあり、酔っていたことも災いし踏み外してしまい数段転び下半身は何ともなかったが手をついた時の衝撃で右手首骨折。本来救急車で運ばれていたら救急隊員から連絡が入るが飲み仲間が直接病院に連れていった為、連絡も説明不足で母親も焦って亜沙美に連絡してしまった。

「えっ?じゃあ大丈夫なの?」

「まぁ大丈夫ではないけど、焦って連絡する事もなかったかなぁ、なんて」

「もう!すごく心配したんだからね」

その時母親が亜沙美の後方にいる男性に気が付いた。

「そちらの方は?」

「お付き合いしてる藤堂直人さん、明日一緒に来る予定だったからお土産とか買いに行こうとしてたんだよ」

「おやまぁ、えっ?本当にいたの?私はてっきり強がりでウソついてるのかと……」

直人が近づき

「初めまして、藤堂直人と申します。亜沙美さんとお付き合いをさせていただいております」

「あらあら、まぁご丁寧に。母の祐子です」

直人は自分で驚いていた。明日の事を考えて色々と緊張しており上手く挨拶出来るか心配していたが、今までのドタバタで緊張がどこかにいっていたため自然としっかりとした挨拶が出来た。


「先程亜沙美さんにご連絡があった時に一緒にいたもので自分も行かなくてはと思いまして、突然で申し訳ありませんがお伺いいたしました」

「いえいえこちらこそ急にお出でいただく事になってしまって」

直人と祐子がお互いにお辞儀をした。


「今お父さんは?」

「寝てる、酔ってたからね。手術が必要みたいだけど4日の入院で大丈夫そうよ」

「じゃあ今回は見送ろっか?今の状態で話しても、ね。お父さんも今の状態で来られても嫌でしょ」

「多分ね、お父さんの中で娘の彼氏に会うときの事とか想像してただろうから」


祐子はクスクス笑いながら。

「ほら、ドラマみたいな事言いたいとかあるでしょ」

「お前に娘はやらん!みたいな?」

亜沙美もクスクス笑いだした。

「まっ、そういうことだからお父さんが万全の時にでもまたいらしてちょうだい。直人さんわざわざ来ていただける予定がこんなことになってしまってすみませんでした」

「いえいえ僕は全然大丈夫なので」


「あー、でも私は正月来ようかな。お雑煮とか食べたいし。ナオはいつも正月何してるの?」

「元旦だけ午前中から帰ってその日の夜には家に帰ってるよ」

「あっ、そういえば実家どこ?」

「ん?北区」

亜沙美は吹き出して笑った。

「近いじゃん、じゃあじゃあ元旦の夜にうち来て泊まりなよ。お母さんいいでしょ?」

「ちょっとそんな勝手に決めるんじゃありません。ほら、直人さん困った顔してるじゃない」

「あぁ!いえいえ僕がというよりも急にお邪魔して泊めていただくのも何か悪いですし」

「んー、じゃあ二日に来るっていうのは?」

「僕は大丈夫だけど…」

「あら、うちも大丈夫よ?」

「じゃあ、決まりね!じゃあ私は一旦お父さんの様子見てくるよ」

亜沙美はそのまま病院内へ入っていった。


「…大変でしょう、あの子と付き合うのは。振り回されていませんか?」

「いえ!そんなことはないですよ」

「どうかあの子の事、よろしくお願いします」

祐子は頭を下げた。

「こちらこそよろしくお願いします」

直人も頭を下げた。



帰り道

「あぁーもう、骨折とかびっくりしたよ」

「でも骨折でもリハビリとか色々と大変でしょ、しばらくは動かすのも大変だろうし」

「うん、そうなんだけどね」


紫がかった夕焼けを見ながら電車に揺られていると直人の肩に亜沙美が寄っ掛かりそのまま寝てしまっていた。

直人はなるべく身動きを取らないように体を緊張させた。


降りる駅が近付いたとき亜沙美を起こした。

「あっ、ごめん寝ちゃってた」

亜沙美のその顔を直人はとても愛しく思い、毎日毎朝見れたらどれだけ幸せか。より一層亜沙美の事を大切に想うようになった。


「ん?大丈夫だよ」


そのまま亜沙美の手を握り電車を降りた。

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