76.朝のおさんぽ
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大幅に加筆修正しましたので、ぜひお楽しみいただければ嬉しいです。
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翌朝。
「む〜、おはよ」
目をしょぼしょぼさせながらも起きたアンジェは、普段とそう変わらなさそうだった。
「おはよう、身体は平気? 頭痛かったりしない?」
「たぶん、大丈夫。ちょっと変な感じだけど……?」
「初めてお酒を飲んだからね。二日酔いになってないかと心配で」
そんな俺の心配をよそに、ぐーっと力いっぱい伸びをして一言。
「ん、おきた。今日は、どこに行くの?」
「よし、じゃあ今日も遊ぶぞー!」
「やった!」
とりあえず、二日酔いにならなくて良かった。
昨日見せてくれた、お酒に酔った可愛い彼女の姿は俺だけのものだから、本人にも教えずにさらっと流す。
「今日も天気が良いからお外へ行こう! まずは、朝のお散歩へ行く?」
「行くっ!」
昨日の夜はアンジェのダウンがあまりにも早かったので、かなり早めに寝た。
その分早く起きたから、ごはんまでの間にも一遊びしたいのだ。
今日も一日穏やかになるだろうと思えるような、ゆったりとした朝。
アンジェの手をとって、彼女のペースに合わせて歩く。
「ちょっとだけど、霞みがかってるね」
「かすみ、って?」
「周りが少し白く見えて、はっきり見えなくなること、かな……? 説明が難しいね」
目で感じる現象をアンジェに口で伝えるのは案外難しい。自分がよく知らないことは特に。
「うーん、セトスさまも、わたしみたいに、見えなくなってる、ってこと?」
「そこまで濃くはないから見えてるよ」
「そっか。じゃあ、危なくないんだね、よかった。
わたし、なんでか分からないけど、音の聞こえ方が、いつもと違うの。だから、ちょっとだけ、怖くて」
聞こえ方が違うのが気になるようで、しきりに耳を触るアンジェ。
だけど、耳か目かの違いだけで、実は同じものを感じているのかも。
「それも、霞のせいかもね。原理に詳しくはないけど、細かい水の粒がふわふわ浮いてるから見えにくくなってるらしいんだ。
だから、音の反響の仕方も、違うのかもしれないね」
「なるほど! そうなんだ!
見えてなくても、セトスさまと、同じこと、感じてたんだね!」
思わぬ発見にすっかりテンションが上がったかわいいアンジェ。
霞のおかげか、他から隔絶されたような気分で、彼女と二人だけのおさんぽをまったり楽しむことが出来た。
そのまま遊びに行きたいと駄々をこねる彼女を無理やりホテルまで引っ張って帰り、朝ごはんを食べた。
ご飯要らないから遊ぶ、と言い張ってはいたが、いざ美味しいものを食べるとなるとしっかり食べている。
前はほんの少ししか食べられなかったが、最近では食べる量も増えてきて、今も小さなほっぺをぱんぱんに膨らませている。
「うん、とっても美味しかった! ごちそうさま!
ねぇ、今日は、何するの?」
たっぷりのミルクジャムを乗せたスコーンを飲み込んだ彼女は、早くも次の予定が気になる様子。
「昨日は雨で湖を満喫出来なかったから、今日はお外で遊ぼうかなと」
「やった! みずうみ!」
昨日も、湖の風の感覚がやけに気に入っていたようだったし、王都では味わえないことを感じてもらいたいんだ。
「観光客向けの貸しボート屋があるから、まずはそこへ行こうか」
「ボート、ってことは、昨日言ってたとこ?」
「そうだよ。昨日は雨が降りそうだったからやめたけど、今日は晴れそうだから」
「そうだねぇ。空気も澄んでて、キレイに晴れそう」
少しだけ開いた窓から入ってくる風を感じながらアンジェがそう言う。
「アンジェが言うなら晴れるんだろうな」
「うん!きっと! 今日は、ずっとおそと?」
「アウトドア系で遊ぶつもりだけど、ずっと外だとアンジェは疲れちゃうだろう? だから、休憩しながらのんびりしようかと思ってるよ」
ふむふむ、と頷いているから、納得してもらえたみたいだ。
「セトスさまは、速く動くのが、好きだもんね。でも、たまにはゆっくりしようね?」
「俺、そんなにせっかちかな?」
仕事は速くこなしたいと思うから職場の人に言われるのは分かるんだが、アンジェにまで言われるほどとは。
「んー、せっかち……? というより、順番をちゃんと決めて、全部をばばーって終わらせたい、みたいな」
「……効率重視、ってことか?」
話すことに慣れていないせいで咄嗟の言葉選びがまだ上手くいかないアンジェの言う事を何とか解読してみる。
「あっ、そう! そんな感じ! セトスさまは、効率重視、なんだよ。だけど、おうちでは、もっとゆっくりでも、いいと思うの」
「そうか、そうだよな」
「性格だから、無理に変えようと思わなくても、いいと思うのよ? でも、わたし、早くは動けないから。ちょっとだけゆっくりに、しよ?」
「生き急ぎすぎだ、って言われることもあるしな。のんびりしようか」
「うん!」
ゆったりふうわり、笑ってくれる彼女が隣りに居てくれるから、俺は心地よく息ができるんだろうな。