8.大事にしてやれよ
10000ポイント、150000PVありがとうございます!
今までにもらったことの無い数で本当にケタが違うので若干ビビっています。
これからもよろしくお願いしますっ!
「なあ、アンジェ。俺の家に来ないか?」
冬の足音も間近に迫ったある日。
俺はアンジェにそう提案してみた。
「俺は休みの日しか来れないから、アンジェと一緒にいろんなことを練習してあげれてないだろ?
もし、アンジェが俺の家に来てくれるなら毎日一緒に練習できると思って」
現状、俺は練習内容を考えるだけで実際一緒にすることは出来ていない。
主に時間的な都合で。
たぶんこの家のなかでは彼女の扱いがよくなることはなさそうだし、手伝ってくれてる侍女さんの負担にもなってるみたいだから。
「もちろん、結婚してからがいいと思うなら待つよ。まだ婚約してから日も浅いしね」
「……本当に、いいの?」
「ああ、もちろん。今から父や家族と話をするからすぐにとはいかないだろうけど、なるべく早く家に来れるようにする」
「ありがとう、ございます。そとに、いってみたい……」
今のところ、彼女の世界はこの部屋と、俺が来たときだけ庭に出れる程度だ。
歩けるようになろうと頑張ってはいるようだけど、目標がせいぜい自分の家の庭では、頑張る気にもなりにくいだろう。
でも、うちに来てくれるならいろんな場所へ連れていってあげられるから。
「俺はアンジェが家に来れるように頑張るから、アンジェは少しでも長く立っていられるように頑張ろう」
彼女は、強い意志を象徴するかのように、深く強く頷いた。
次の日から、俺はアンジェを家に連れてくるため、本格的に動き出した。
主に父と兄の説得だ。
まあ、兄は父が許可すれば何も言わないだろうから、父を説得すればいい。
いいんだが……
そもそも父はアンジェとの婚約自体あんまり賛成してないからなぁ……
自分が持ってきた縁談だろって突っ込みたいんだけどね。
「父上、失礼します」
夜、父の帰宅後に執務室へ向かう。
「珍しいな、どうした?」
俺と父の間は特に何の問題もない。
だけど別にめちゃくちゃ仲良しというわけでもない。
この歳の貴族としては普通の関係だと思う。
「少しお願いがあって、来ました。
婚約者のアンジェの話なんですが、実家ではかなり冷遇されているようなのでなるべく早めにこちらの家に引き取りたいと思っています」
「結局、彼女と結婚するつもりなのか?」
「はい、もちろんです」
「自分が持ってきた縁談にこんなことを言うのもなんだが、彼女は身体が不自由だと聞いた。
しかも家では教育も受けていないし、人と話すことも出来ないというが」
「はい、そうですね。
最近は話せるようになって来ましたし、自力でなんとか立てるようになりましたが、まだ歩くこともできません」
「そのような女と結婚しては、おまえが将来苦労するぞ。
もしも身体のことを知っていたら、こんな縁談は受けなかったものを。メラトーニに騙された」
吐き捨てるようにリリトアの実家を罵る父。
「確かにアンジェはいろいろ不自由を抱えていますが、俺が会ってからだけでも少しずつ良くなっています。
今後きちんと訓練して、教育を受けさせれば必ず役に立ってくれると思います」
「若さに任せた一時の恋に溺れたら、あとあと後悔するぞ。本当にいいのか?」
「俺は絶対にアンジェと結婚します。
彼女は全く話す相手がいないのに聞こえてくる会話だけで言葉を習得したようですし、なにより普通では考えられないほどに耳がいいです。結婚した後でミラドルト家に迷惑を掛けることはないかと思います」
「それなら、せめて普通の婚約期間を過ごしたらどうだ?まだ婚約してから3ヶ月くらいだろう。
1年か2年ほど時間を置いて、お互いのことを知る期間にしたらいいじゃないか?」
父が思ったより俺が本気だからか、徐々に譲歩してくれている。
もう少し粘って……
アンジェと共にいられる時間を手に入れないと。
「1年か2年してから結婚するためにも、今からいろいろ準備しないといけないんです。だからなるべく早めにこちらの家に引き取りたいと思っています」
「決めたことは譲らず、何があってもやり遂げる。
おまえのいいところだからな」
瞳に少しだけ諦めの色を浮かべながらも賛成してくれる。俺の人生の岐路でよく見た父の瞳。
俺は我が強いらしい。自分ではあまりそう思っていないのだが。
「好きにしろ。人手が足りなければ適当に使っていい。そもそも、そんなに大切にしたいならとっとと結婚してしまえ」
「俺としても結婚したいんですけどね。ある程度歩けるようになるまでは無理かなと」
「おまえ、本当に大切なんだな。もう少し顔を引き締めろ」
うわぁ、だいぶ恥ずかしい。
そんなにデレデレした顔してるのかぁ……
「そんなに気に入ってるなら、まぁ大丈夫だろう。離れを好きに使っていいから、大事にしてやれよ」
……大事にしてやれよ、と来たか。
父がそんなことを言うとはかなり意外だ。
社交界では妻にベタ惚れだと有名な人だけれども、俺たちの前でそんな雰囲気を出すことすらなかったのに。
「ありがとうございます」
自分でもちょっとニヤニヤしてるとわかるくらいに頬が緩んでいるだろう。
とりあえず、アンジェを迎えるための第一歩は踏み出せた。
これからはより過ごしやすい家になるように頑張ろう!
お父さんはアンジェが嫌いとかじゃなくて、息子の将来が心配なんだよ( ´∵`)