7.侍女の想い
遅くなってすみません(--;)
どうも皆様こんにちは。
アンジェお嬢様付きの侍女、イリーナでございます。
お嬢様のお傍にお仕えし始めて早10年。
私に与えられた仕事は、とても少ないです。
仕事に入る前、雇い主である旦那様に呼び出された時。
「アンジェが生きていればそれでいい。不要なことはするな」
そう命令されたから。
アンジェお嬢様は、幼少期はとても利発な子どもで、目が不自由ながらも他の兄弟の方と一緒に遊んでらっしゃったそうです。
でも、成長するにつれて目のハンデが大きく影響するようになり、5歳頃には誰とも関わらないようになってしまわれました。
その後、当時のお嬢様付きの侍女の引退に伴って私が新しくお嬢様付きとなりました。
私はこの10年間、自分ができる限り頑張ってお嬢様にお仕えしてきたつもりです。
少しは旦那様を怨みたい気持ちになったこともありますが……仕方がありません。
貴族というものは、外聞とか、体裁というものが大事なんだってわかっています。身体の不自由な家族がいたら、他の兄弟方の結婚にも差し障りますから。
特に旦那様はほどほどに野心のあるお方。お嬢様を利用しようとまではなさらないと思いますが、邪魔者扱いされるのも仕方がありません。
でも、私にとってはお仕えしているお嬢様が大切なんです!
自分のお仕えしている方に幸せになって欲しいと思わない侍女は、侍女を辞めた方がいいと思っていますから!
こほん、失礼。
取り乱してしまいました。
とにかく、私はできる範囲でお嬢様に快適に過ごしていただこうと頑張ってきました。
毎日髪を整え、華美ではないけれど清潔な服に替えて、お食事を食べさせる。
それくらいしかできないけれど、できることはなるべくしてきたつもりです。
その努力が、実る日が来るかもしれないのですよ!
お嬢様が、ご婚約なさったというのです!
しかもお相手は同じくらいの家格である、ミラドルト家の次男様。特に悪い評判のある方ではありませんし、期待に胸が踊ります!!
だというのに、いきなり旦那様からの呼び出しを受けました。
この10年何も仰らなかったのに、今ってことは婚約者様のことですよね……?
「失礼します」
そっと扉を開けて、旦那様の執務机の前に立ちます。
ちょっと足震えてませんか?大丈夫?
「明日、アンジェの婚約者が来る」
「はい」
なるべく心象はよくしたいですからね。
大きな声ではっきりとした返事は基本です。
「なるべく何もするな。何も言われないようなら下がっていい」
「……はい」
うぅ、やっぱりそうですよね、面倒事を起こすなってこと……
「わかったらいい。以上だ」
「失礼致しました」
有無を言わさぬ圧力に屈してトボトボと部屋を出ると、待ち構えていた家令に捕まって細かい事情を説明された。
婚約者様は、アンジェ様の目が不自由だと知らないこと。
なるべく何もせず、穏便に帰って欲しいこと。
縁談を受けたもののできれば結婚になる前に破談になって欲しいこと。
破談になって欲しいって、放っておいたらなりますよ!
「なんでお嬢様の目のことを隠したまま婚約したんですか?」
これはめちゃくちゃ疑問です。
相手に失礼過ぎませんかね?
「様々な事情がある」
……これは回答放棄ではありませんか!?
ですが、こう言うということは私に理由を教えてはもらえない、ということです。
「以上だ」
これ以上何も言う気はない宣言を受けてとっとと退散しました。
なぜなら、私にはここで家令を問い詰める前にするべきことがあるからです!
そう、お嬢様への事情説明です。
ミラドルト伯爵家次男様であること、社交界での評判など、私が知っている限りのことをお伝えします。
こんなことは考えたくありませんが、お嬢様の目のことを知ったら暴言を吐いたりするかもしれません。
ああ、いい人が来てくれたらいいのにな……
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翌日
よかったですよ!
少なくとも、すぐに破談にはならなそうですし、お嬢様のことを可哀想に思っていただけているようでした。
それに、また来てくださるようです。たぶん。
私は旦那様の言いつけ通りにしか動けませんが、精一杯のおもてなしとして、香りのいいお茶を淹れました。
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びっくりしました!
本当にびっくりです!
婚約者様は、とってもいい人でした!
いい人、なんて軽い言葉では表せないくらいです。
お嬢様を気遣ってぬいぐるみを買って来てくれましたし、優しく、とても優しく接してくださるのです。
理想の殿方と称して差し支えないかと思うんです!
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お嬢様、本当によかったですねぇ……
私は本当に嬉しいですよ……
ばあやみたいな感想だけど、仕方がないと思うんです!
だって、お嬢様が、立つ練習をなさるというんですから!!
ミラドルト様に教えていただいて、私でもお嬢様の補助ができることが分かりました。
毎日朝と夜に欠かさず練習するように、とのことなのでしっかりお助けしたいと思います。
この家のなかで、お嬢様の味方と言えるのは私くらいでしょう。
味方というにはあまりにも攻撃力が低いですが、全く何も出来ないわけでもありません。
私、イリーナは、旦那様の言いつけを破ろうとも、お嬢様の恋路を応援することを誓います!
これから忙しくなるぞー!頑張ろー!おー!
侍女さんを介しての背景説明回でした。
イリーナさんの性格をバッチリ当ててる方が感想欄にいらっしゃってびっくりしました。
この侍女さん、設定上は結構初期からいるんですが、短編版の時点で気づいてくれる方がいて「読解力やべぇ……」ってなってました