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53.パーティーの準備

 


 アンジェはある程度歩けるようになったし、叔父の家やお店へ行ったり庭へ出たりと、1人で動くことにも問題がなくなってきた。

 もうすぐ結婚式、というころ。

 それまでの間にやらなければならないことができた。



「アンジェ、パーティー行ってくれないか?」


「えっ、パーティー? 行ってみたい! キラキラしていて、綺麗なんでしょ? 美味しいものも、いっぱいあるんでしょ?」


「まあ、それはそうだけれど。アンジェが思ってるほどいいとこじゃないと思う」


「嫌なところなの?」


「気を使うし、面倒事も多いんだけれど、どうしても行かないといけない用事ができてしまった」


「でも、わたしと会ってからは、パーティー行ったことないよね?」


「アンジェと会ってからはそんなに大事な集まりもなかったしな。

 俺はそれまでの間も結構断りがちな方だったから、そうそう招待が来るわけじゃないんだ。次男だから兄に招待が行くことの方が多いし」


「だから、行くこと無かったんだ」


「でも今回は、昔からの付き合いがある第8王子の誕生日を祝うパーティーだから、行かないわけにはいかない。

 それに、こういうパーティーには男女のペアで行くのが普通だから、アンジェに来てもらわないとちょっと困るなぁと思って」


「いいよ。行く。行きたい。

 けど、わたし、大丈夫なのかな?」


「あんまり長い間いる気もないから、基本的なことだけ覚えてくれたらいいかな。

 母上にも話を通しておくからしばらくマナーの練習をしてくれないか?ある程度は出来てるから問題ないとは思うんだけど」


「わかった。わたしにできることだったら、がんばって練習する」


「ありがとう。悪いけどちょっとだけ頑張ってほしい」





 その次の休日。

 母を交えてアンジェのマナーレッスンが始まった。


「今回は軽い会だし、立食形式のパーティーだそうだから、多分アンジェちゃんがご飯を食べなくても済むと思うの。

 配膳とかが大変だから今回はなるべく食べないように頑張りましょう。セトスもなるべく早く帰ってきてね」


「もちろんそのつもりだ、長居をする気はないから大丈夫」


「だから、アンジェちゃんは基本的にセトスの隣に居て、微笑むのがお仕事かしら。

 応対は全部セトスに任せたらいいから」


「はい」


「まず、2人でいる時の立ち方の練習よ。

 普通は、セトスの左手の肘に、アンジェちゃんの右手をかけるんだけれど、アンジェちゃんは両手で持ちましょう。

 そうしたら片手にワイングラスを持たなくて済むからね。そのまま歩いてみて?」


 指示通りに歩いてみるが、こういう場に出る事も見越して普段の歩き方を考えたから、ほとんどいつも通りだ。


「普段とほとんど変わらないで歩けるでしょう?」


「うん」


「アンジェちゃん、笑って? ニッコリ」


「こうですか?」


「うーん、まだ硬いわよ。ほら、もっとセトスに褒めてもらった時みたいに」


「セトスさまに、褒めてもらった時みたいに……こんな感じ?」


「ええ、そんな感じよ。とっても可愛いわ」


 残念ながら俺の真横にいるからアンジェの可愛い笑顔が見えない。

 覗き込むようにアンジェの顔を見てみると、気配で伝ったのかふわっと顔を赤くする。


「そうそう、そういう可愛い笑顔を浮かべてたらいいわ。若い女の子は誰でもその場の癒しになれるから。

 それで、相手の人に何か言われたら『はい』って言ってればいいの。

 答え方がわからなければ黙ってたら、セトスが相手してくれるから、本当に気楽に考えて大丈夫よ」


「はい」


「うん、アンジェちゃんが一番大事なのは笑顔でニッコリ笑ってること、それだけよ。頑張って!」


「ほんとに、大丈夫かなぁ?」


 普通にするべき事はほとんど出来ているのに不安げなアンジェ。


「大丈夫よ。たかだか1時間くらいだろうし、セトスもいるし、こんな時のために可愛い水色のドレスを仕立てたんだから。

 あのドレスを着たらアンジェちゃんは誰よりも可愛いからね。可愛い女の子はそれだけで強いものよ?」


「はい、分かりました。できるだけ、頑張ってみます」


「そうよ。そういう軽い気持ちの方がね、失敗しにくいの。

 あとは、そうねぇ……

 欲を言うなら、立つときに少しだけアンジェちゃんは右足に重心が寄ってしまってるから、セトスの方に体を寄せるんだけど、自分で立つっていう風にした方が綺麗に見えるわよ」


「はい、気をつけます。

 こんな感じ?」


 少しだけ俺とは逆側に重心を傾ける。


「そうよ。感覚としてはちょっとだけセトスと逆側に寄るくらいの感じね」


「分かりました。気をつけます」


「でも、リラックスが1番大事よ。今回はただ呼ばれていくだけだから、大きな失敗なんてしようがないんだからね。

 練習としてはちょうどいいわ。初めてが自分の結婚式のパーティーじゃ怖いもんね。どんなものか見るだけで入ってきたらいいと思うわ」


 それでも少し不安げなアンジェ。

 知らないところに行くというのだから、当然なんだけれど。


「今回の主催者は俺の昔からの知り合いだから、そんなに固くならなくても大丈夫。

 失敗したところで、誰かに怒られることもないし」


「むしろ心配なのはセトスの方よ」

 母は軽く笑ってそう言った。


「えっ、何でですか?」

 いきなり俺に話が回ってきて驚いた。


「だって、変なのに絡まれないようにアンジェちゃんを連れて行って戻ってこなきゃいけないんだから。

 誰かに絡まれても逃げなさいよ?」


「子供じゃないんですから大丈夫ですよ」


「まあそうね。でもあなた、ああいう社交的なところ苦手じゃない」


「得意じゃないからこそ、とっとと逃げる方法は覚えてますね」


「心配するほどの規模じゃないから、気楽にいってらっしゃい」


 俺と母が気楽にしてていいと言ったのが効いたのか、アンジェの緊張は少しほぐれたようだった。

 パーティーは明日の夜、アンジェを初めて社交場へ連れて行くのが楽しみで仕方がなかった。





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