43.雪だるま
アンジェを車椅子に座り直させてから。
「もう部屋に戻るか?」
「ううん、もうちょっとだけ、ここにいる」
ぼんやりした表情で、ただ座っているだけのアンジェ。
疲れすぎたのだろうかと、少し心配になってきた頃に。
「静かだねぇ……」
ポツリと独り言のようにそういった。
「そうだな。雪の日は、雪が音を吸収するから静かなんだって言われてる。俺にはあんまり違いがわからないけど」
「へぇー、そうなんだ」
それだけ言うと、また彼女は自分の世界に入っていってしまった。
俺といる時に、こんなに静かになる事はなかなかないんだけれど、疲れたのと、珍しい環境だからだろうと思ってしばらく放っておくことにする。
その間、俺はアンジェが喜びそうなものでも作ってあげるとするかな。
しばらく時間が経って、作り終わってから。
「おーい」
アンジェ声をかけてみる。
「ふぇ?……はい」
少し驚いたような反応。
「だいぶ時間が経ったから声かけてもいいかなーと思って」
「あの、ごめんなさい」
「いやいや、いいんだよ。だけどちょっとは俺の相手もしてくれないかなーって」
「ほんとに、ごめんなさい。せっかく連れてきてくれてるのに」
「アンジェのためにしてることだから、好きなように時間を使ったらいいと思う。でもその間に出来たものがあるから、アンジェにプレゼントしてあげようかなって。大したものじゃないけど」
「えっ、なになに?」
途端にキラキラした笑顔を向けてくれる。
「はい、これ。雪だるまっていうんだ」
アンジェがギリギリ片手で持てるぐらいの小さめの雪だるま。
「うん、冷たいねぇ」
そう言いながら片手で撫で回す。
「雪で作った人形なんだけど、わかるかなぁ?」
「人形ってことは……あっ、これが目で、これが手?」
「そうそう。手は小枝が刺さってるだけだからあんまり触ると壊れちゃうけど」
ちなみに目は穴を掘ってるだけだ。
見た目だと目だってわかりにくいけど、触ったら分かりやすいと思う。
「かわいいね、かわいいねぇ。
雪で、出来てるから、ゆきちゃんかな?
ゆきちゃん、ロッシュのお友達になってくれるかなぁ?」
「それはどうだろう? 家の中に入れてしまったら溶けると思うけど」
「あっ、そうか。溶けちゃうんだ! 忘れてた。
残念だねぇ、ゆきちゃん、すぐいなくなっちゃう……」
「玄関のとこだったら屋根があるから、光が当たらないくてちょっとは溶けるのが遅くなると思うけど」
「じゃあ、そこにいてもらおっか」
ほんの短い距離だけど、車椅子を押して玄関まで戻る。
手の熱で雪だるまが溶けて、膝が濡れてるのは気にしないことにしよう。
アンジェから雪だるまを受け取って、扉の右側に置く。
「ゆきちゃん、ここに置くからな。アンジェから見て右下の辺り」
「うん、セトスさまが、一番とけにくいと思うところに、置いておいて?」
「ここが一番陽が当たらないと思う」
「じゃあ、ゆきちゃんバイバイね。また来年の冬に会いに来てね!」
そう言って、ちょっと見当違いな方向だけれど雪だるまに手を振るアンジェはとっても可愛かった。
この雪が溶ければ、春が来る。
そうしたら、もっといろんな所へ連れて行って、色んなものを感じさせてあげられるようになる。
春が来るのが楽しみだ。