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37.大きな手

先週更新出来なかったばかりか、今週も遅れてしまいました……

週一連載すらまともに出来なくて、読んでくださっている方々には本当に申し訳ないです。

更新頑張るので今後ともよろしくお願いします!



「がんばる。がんばるから、歩けるようになりたい」


 アンジェの気持ちはいつだって、目標に向かって一途で、一生懸命で、とてもピュア。

 その想いにまっすぐ応えてあげることが、俺のできることだと思うから。


「アンジェは今、その場での足踏みなら支えありで2、3歩はできるだろう?」


「うん」


「じゃあ、これからの目標は支えなしで足踏みが出来るようになることか、支えありで前へ進めるようになることかな。どっちが楽かな?」


 こてん、と首を傾げるアンジェ。


「言われても分からないよね。一旦やってみようか」


「わかった。コケるかもしれないから、支えててね」


「大丈夫。絶対俺は横にいるから。この間みたいに1人にしたりしない」


 仕事から帰ってきて倒れているアンジェを見た時には、本当に肝が冷えた。

 これ以上ないほど驚いて、あんな気持ちは二度としたくない。


「セトスさまは気にしてるけど、そんなに気にしなくても大丈夫だよ? こわかったけど、しょうがなかったって、ちゃんと、わかってるから」


 ふふふと笑って、アンジェはそう言ってくれる。


「ありがとう」


 気を遣って彼女がそう言ってくれたとしても、俺は二度とあれを繰り返したくはない。


「ねぇ、セトスさま、笑って? そんなに難しい声、しないでほしいな。

 わたし、見えてないけど、ちゃんと、どんな気持ちかわかるんだよ?

 だって、セトスさまは声の出し方とか、ぜんぜんちがうもん」


 そう言って彼女はふんわりと笑ってくれる。

 俺の大好きな笑顔で。


 俺もつられて自然に笑顔が零れた。


「ありがとう」


 少し無理やりだけど、笑顔を作ってそういうと、アンジェはぎゅっと俺の手を握ってくれた。

 その手はとても暖かくて。


 見えていないから、俺の手がどこにあるのかも本当は分からないはずなのに、声の位置から推測して俺の手を握ってくれる。

 こんな些細なことも、彼女がこの半年でできるようになったことの一つ。


「セトスさまの手は、こんなに大きいから、だいじょうぶだよね?」


 ふふ、とアンジェはそう言って笑った。


「じゃあ1回、支えなしで足踏みしてみようか」


「うん」


 アンジェが自力で立って、俺はその肘をしっかり握って支えてあげるだけ。


「出来たね。1回、このまま足踏みしてみよう」


 そう言うと、トントンとゆっくり、踏みしめるように足踏みをする。


「うん、ちゃんとできるよ? 毎日やってるもん」


「そうだな。じゃあゆっくり手を離してみるよ?」


「離すのはむり。ちょっとだけは、持ってて?」


 今は肘のあたりをしっかり握りしめるように持っているけれど、手を持つだけにした。

 いざという時には助けれるけれど、アンジェが自力で立つような風になる。


 すると、バランスを保持する力が弱いのか、途端にアンジェは左右に大きく揺れ始める。


「むり……こわい、こわいよ」


 1度転んだ記憶が蘇ってくるのもあるのだろう、アンジェは手を離されることをとても怖がった。

 俺の腕を握る指先と爪が真っ白になるくらい力を入れている。


「ごめん、怖かったね」


 そう言ってぎゅっと抱きしめてあげる。

 震えていた体も次第に落ち着いてきて、すっと俺の腕の中で力を抜いた。


「もう大丈夫か?」


 そう聞いてみると微かに頷く。

 だけどそれは、ただ俺が大丈夫かといったから頷いただけで、このまま練習を続けられるような状態ではない。


「ごめん、怖かったな」


 一旦椅子に座らせようとすると微かに首を振る。


「だいじょうぶ。できる」


 ほんのかすかな声だったけれど、アンジェは自力で恐怖に立ち向かってるんだ。


「本当に大丈夫?」


 念押しすると、今度はしっかりとした頷きが返ってきた。

 この子は強い。

 この強さにも、俺は惹かれてるんだろうな。




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