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20.おちゃかい

 

「なによ、2人だけで盛り上がっちゃって!

 私も誘ってよぉー!」


 突然部屋に入って来た母に驚くティアリス。


「もう、母様、入って来るならノックくらいしてくださいよ! びっくりしたじゃない!」


「ノックしたわよ! でも2人とも気づいてくれなかったから」


「してた。ティアも、きこえてると、おもって」


「ええっ、お姉さまは聞こえてたんですか?

 私は全然気づかなかったなぁ。

 やっぱりお姉さまは耳がいいんですね!」


「ティアちゃんが聞いてないだけじゃないかしら?

 いえ、そんなのはどっちでもいいのよ!

 ティアちゃんのピアノが終わったのなら、みんなでお茶会しない?」


「おちゃかい!」


「あら、アンジェちゃんはお茶会好き?」


「わからない、けど、したい」


「それはよかった。

 今日はお友達も来ないから、三人でゆっくりお茶しましょ」


「それならお庭でしましょうよ!」


「うーん、どうかしらねぇ……

 今日はお日様は暖かいんだけど北風が強いから少し寒いんじゃないかしら?」


「やっぱりもう11月だものね。

 カレン、厨房に行っていい感じのお菓子をもらってきてちょうだい。

 アンジェお姉さまの初めてのお茶会だから、とびきり美味しいのがいいわ!」


「そんな無理言わないの。

 厨房にも都合があるんだから。

 適当でいいから何か見繕ってきて」


 カレンはティアリス付きの侍女だけど、サティと同じくらいの歳で仲が良い。

 だからアンジェの様子も少しは分かっているから、アンジェが食べやすいようなお菓子を選んできてくれるだろう。



 リサトータやティアリスにとっては何気ない日常の会話だけど、アンジェにとっては憧れだったのだ。

 漏れ聞こえる会話を聞いて空想を膨らませていただけの場所に、自分がいるなんて夢みたいで。


 何を準備するのか具体的にはわからないけどワクワクしながら2人の話を聞いている。



「お姉さま、動かしますよ?」


 ティアリスが車椅子を押して応接セットの横、ソファのないお誕生日席の所に停める。


 用意されたのは美味しい紅茶とクッキーとマドレーヌ。

 お菓子はどちらも手に持って食べられるもので、お茶も飲める。

 アンジェも楽しめるように配慮されたお茶会になっていた。



「美味しそうなクッキーとマドレーヌね、アンジェちゃんは甘いものは好き?」


「すき、です」


「じゃあ紅茶にもお砂糖とミルクたっぷり入れる?」


「こうちゃ……わからない」


「何も入ってないままでひと口飲んでみたら、分かるかしら?」


 こくん、と頷いてからアンジェの手のひらが宙をさまよう。


「あれ、テーブル、どこ?」



 応接セットのテーブルはソファに座って飲みやすいように少し低くなっているけど、アンジェはそれを知らないみたいだった。


「お姉さま、このテーブルはお食事の時のものより少し低いんです。

 ほら、ここです」


 ティアリスがアンジェの手を持ってテーブルのふちまで誘導する。


「ああ、あった。ありがと」


「右の奥の方にカップがありますよ。

 うーん、ちょっと遠いですね。

 お姉さまの椅子は高いですから、少しカップを前に寄せますね?」


 アンジェが車椅子から身を乗り出して倒れそうになっていたから、ティアリスが少し近づけてくれた。


 右手でソーサーを見つけ、そろそろと指先だけでカップを探す。

 手の全体を動かすとソーサーの場所がわからなくなる上にカタカタと音を立ててしまうから。



 少しずつ指先を動かしてようやくカップの持ち手にたどり着き、ゆっくりと持ち上げる。

 ソーサーの場所を見失わないように、左手を添えたまま。


「アンジェちゃんすごいわね!

 セトスにはなんにも出来ない子だって聞いていたけど……

 こうしていたら、普通の子ね」


 普通、と言って貰えるだけでアンジェはとっても嬉しかった。

 自分は何も出来ないと思っていたのに、『普通』に出来ると認めてもらえた。


「やった。ありがとう、ございます。

 ふつう、に、なれた」


「アンジェちゃんは普通になりたいのね。

 今の感じじゃあ本当に普通の子よ。まるで見えてるみたい」


 えへへ、と笑って紅茶に口を付けた。

 この場にいないセトスが悔しがりそうなくらいに可愛い笑顔で。


 でも、紅茶を口に含んだ瞬間、表情が固まった。


「あまく……ない!?」


「ああ、やっぱりアンジェちゃんは紅茶にミルクを入れる派なのね。

 今日は侍女がいないからわからないけど、自分の好みの量を聞いておいたらいいわ」


「わかり、ました。

 ちょっとだけ、いれて、ください」


 カップを持ち上げる前と全く同じ角度で戻し、ティアリスに砂糖とミルクを入れて貰う。


「これでおいしくなったと思いますわよ?」


「ありがと」


 ティアリスに礼を言って、またソーサーを探す所から始める。

 見えてる人より時間はかかるが、さっきよりは早くなっている。


「うん、おいしい。ありがと」



 ふわふわ笑うアンジェは、本当に嬉しかった。

 ピアノに触れたことも、憧れのお茶会に参加出来て、セトスがいない中でちゃんと楽しめたことも、普通と言って貰えたことも。

 全部がとっても嬉しくてたまらなかった。








冒頭が会話文オンリーになったしまいました。

読みにくい、読みやすいなどご意見ありましたら感想までお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 眼が見えないアンジェへの説明のために文章が長くなってしまうのは仕方のないことだと思います。個人的には読んでいて気になることはないのでこのままで大丈夫だと思います。
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