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19.音楽との出会い

 

 それから時間はかかったもののパン半分と目玉焼き半分を食べた。


「アンジェ、自分で食べれたな」


「うん、おなか、いっぱい。つぎは、立つれんしゅう」


「アンジェは本当に努力家だな。一生懸命するのが苦にならないからこんなに色んなことが出来るようになってきてる」


「うん、がんばってる」


 よしよし、と頭を撫でてあげると嬉しそうに笑った。


「いつもはどうやって練習してるんだ?」


 最初の1回以降、俺はアンジェと一緒に練習出来ていない。

 イリーナにやり方は教えたが、あの時よりも確実に筋力がついているし、その分やり方も変わっているだろう。




「いす、ひっぱって?」


 立ちやすいくらいになるように、少し椅子を引いてあげると、自分でテーブルに手をついて立ち上がった。


「ね、ひとりで、たてるの。すごい、でしょ?」


「すごい、すごいよ。ついこの間まで俺と一緒じゃないと立てなかったのにな。

 アンジェはどんどん1人でなんでも出来るようになってるな」


 やがて、すとんと腰を下ろした。


「まいにち、やってるの。

 イリーナは、しんぱいして、よこに、いてくれる、けど、わたし、ちゃんと、できるんだよ?」


「イリーナも俺もアンジェに怪我して欲しくないから心配しちゃうんだよ」




 そうやって他愛ない話をしながら練習していると、正午を告げる鐘が鳴った。


「ごめんな、アンジェ。

 もう仕事に行く時間だから、あとは1人で頑張って。

 夕方の鐘が鳴る頃には帰ってくるから」


「うん。おしごとは、だいじ。ばいばい」


「いってきます」


 手を振ってアンジェが見送ってくれるだけでめちゃくちゃやる気が出るな。

 半休もらっちゃったし、午後からは頑張るぞー!




 *****




「アンジェお姉さまいらっしゃいますかー?」


 立つ練習で疲れた足をブラブラさせている所にティアリスが入って来た。


「いる」


「セトスお兄様がお仕事に行ったそうなので遊びに来ました。

 お姉さまは何をするのがお好きですか?」


 突然の訪問に驚くアンジェに構わずに話を進めるティアリス。


「すき?」


「普段は何してらっしゃるのかな、と思って」


「ふだん……音とか、きいてる?」


「お姉さまは、目が不自由な分、耳がとても良いと聞いています。

 音楽がお得意なんですね!」


「おんがく?」


「失礼ですが、口を挟ませていただきます」


 2人の会話があまりにも噛み合わないことを見かねたイリーナが間に入って解説する。


「アンジェお嬢様はご実家では廊下から漏れてくる会話を聞くなどしておられました。

 特に音楽などは聞いていらっしゃらなかったので……」


「あら、そうなの?それではお暇でしょう?

 これからお時間があるのなら、私の部屋へ来てピアノを聞きませんか?」


「ぴあの?」


「とっても楽しいんですよ?

 私は幼い頃から嗜みとして練習していたんですけれど、あまり楽しくなくて、サボってばかりだったんです。

 でも最近になってなんだか楽しいと思えるようになって来たんですよ。

 今は『乙女の祈り』を練習してるんです。聞きに来てくださいません?」


「たのしそう。いく」


 先ほどまで練習していたように、テーブルに手をついて立ち上がると、イリーナが車椅子に変えてくれる。


「ティアリスさまの、ぴあの、たのしみ」


「あら、私が妹なんですから、気軽にティアと呼んでください」


「わかった。ティア」


「そうです。お姉さまとは仲良くして欲しいんですからね。じゃあ、ピアノの部屋へ、レッツゴー!」



 ティアリスのテンションに若干ついて行けていない部分もあるが、アンジェは基本的に好奇心旺盛なので未知のピアノが楽しみだった。


 この家ではお茶会や食事会の時に楽しめるように1階のサロンにピアノが置かれている。



「では、さっそく聞いてください!」


 ティアリスの性格を現すかのような、派手だが柔らかい響き。

 アンジェはリズムをとるように身体を左右に揺らしながら聞き惚れていた。


「すごい、とっても、きれい」


「ありがとうございます!

 ちょっと間違えちゃったんですけど、結構上手く弾けました。お姉さまも、ピアノを習ったらいいのに。

 一緒に連弾とかしてみたいですわ」


「ちょっとだけ、さわって、いい?」


「もちろんです!動かしますよ?」


 ここまで来るのはイリーナが押していたが、それを見ていたティアリスは車椅子を軽く押してみた。


「すごいですね、この車椅子って。

 セトスお兄様が特別に作らせたものだと言っていましたが、私でも簡単に動かせますよ」


 ピアノ椅子をどけて車椅子を止めて、アンジェの手を持って鍵盤に導く。


「ここに、こうやって音が出る所が並んでいるので軽く押してみてください」


 アンジェがおそるおそる手を動かすと、ポーンと軽く音がなった。


「すごい。鳴った」


「ピアノは誰でも簡単に音が鳴らせますからね」


「これ、れんしゅうして、ティア、みたいに、なりたい」


「私みたいにって言ってくれたら照れますよー。

 一緒に練習して、上手になりましょう!」


「うん。やって、みたい」


「ああ、でもピアノ以外の楽器をするのも楽しいですよ?バイオリンとか、フルートとか、楽器は色々ありますから」


「そう、なんだ。何するか、セトスさまに、きいてみる」


「お兄様に決めてもらいましょうか。

 私としてはピアノで連弾したいけど……

 でも、バイオリンを習ってもらって2人で協奏曲を弾くのもしてみたいです!」



 自分の身体が不自由なことを気にせずに接してくれる人は今までいなかったから、ティアリスと一緒にいるのは楽しかった。


「ティア、また、あそんでね?」


「もちろんですよ、お姉さま!今度は何して遊びますか?」


途中から視点変更になりましたが、違和感はありましたか?

セトスがいない時のアンジェちゃんを描写するには三人称視点にするしかないので、しばらくはセトス視点と三人称視点が入り交じることになるかと思います。

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