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16.熱

 

 翌日。


 俺が起きたら、隣のベッドで眠るアンジェの顔が真っ赤だった。


「アンジェ、大丈夫か!?」


 慌てて額に手をあてると、とても熱い。


「イリーナ、いるか!?」


 イリーナとナティが飛んできた。


「身体がすごく熱いんだ。熱があるみたいで。

 たぶん昨日無理させすぎたせいだと思うんだけど。

 医者を呼ぼう、それから身体を冷やすものを持ってきて」


「旦那様、少し落ち着いてください」


 イリーナに強めの口調で注意された。


「ごめん、でも」


「大丈夫です。ここは私達におまかせいただいて、旦那様はお仕事の準備をなさってください」


「……わかった」


 ナティは若いがしっかりした侍女だし、イリーナもいる。

 看病に自分が役立つとは思えないから、ここは彼女達に任せるべきかな。


 それは分かっているけれど、アンジェが辛そうなのに放っておいて仕事にいくのは……


 

 とりあえず朝食を食べて、一旦職場に向かうことにした。



「イリーナ、とりあえず仕事に行くが、今は秋の報告も終わってあまり忙しくない時期だから家でできる書類仕事を選べば帰ってこれると思う。

 少し時間がかかるかもしれないが、アンジェがもし起きたら俺がそのうち帰って来ると言っておいてくれ。

 昼までに戻れるようにする」


「かしこまりました。今お医者様をお呼びしておりますが、結果はご連絡したほうがよろしいですか?」


「うーん……いや、お医者様の結果を聞くまでいるよ。そんなに時間はかからないだろうし」


「アンジェ様は安心なさると思いますが、お仕事は大丈夫ですか?」


「大丈夫だから、いる」



 そんな会話をしているうちにお医者様がやってきた。


 診断は、疲れすぎだろうとのこと。

 普段ほとんど動いていないのにいきなり動き回っていろんな人に会って話して、俺たちは普段に出来ることだから気にもしていなかったことがアンジェにとってはすごくストレスになっていたようで。


「わかりました。気をつけます」


「だが、あまり気をつけすぎて過保護になるのも良くない。あくまでもほどほどが大切じゃ。

 倒れるまで無理をするのはいかんが、多少無理をすることで体が鍛えられるからな」



 重病ではないことがわかったところで、一旦職場に向かった。


 よほど俺が焦っていたらしく、部下も無理に引き止めようとはしなかった。

 むしろ積極的に休ませようとしてくれて、書類も持って帰らなくていいと言ってくれたが、看病とは言いつつ俺にできることがほとんどないのは分かっているから持ち帰れる分を持って帰った。




「アンジェは起きたか?」


「いえ、まだお目覚めにはなっておりません」

 今はイリーナが付いているようだ。


「それなら、俺がここで仕事するから、下がってていいよ」


「失礼ですが、旦那様は看病をなさったことはありますか?」


「いや、ないが」


「それでしたらおまかせするのは少し無理があるかと思います。家のことはおまかせいただいて、お仕事をなさってください」



「いや、俺がやる。アンジェもできないことをできるように頑張ってて、その結果こんなふうに苦しんでる。

 俺もできることはやらないと」


 はっ、と顔を上げたイリーナ。


「申し訳ございません。お嬢様のことを考えてくださっているのに、でしゃばったことを申しました」


 手に持っていた桶を俺に渡す。


「とにかく身体を冷やすことが大切ですので、こまめにタオルを濡らして常に冷たいタオルが額にあるようにします。そして、汗はなるべくこまめに拭きます」


「なるほど。それくらいなら充分俺にもできる」


「早速してみましょうか」


 タオルを絞ってかえて、汗を拭う。

 至って簡単なことだが、欠かさずやることが大切だという。


「イリーナ、やることはわかったから下がっていていい」


 一礼してイリーナが出ていくと、部屋のなかにはふたりきり。

 朝は真っ赤な顔をしていて、息が荒かったけれど少し落ち着いてきているみたいだった。


 アンジェのめんどうをみながら合間に書類をこなしているうちに穏やかな寝息が聞こえるようになった。





 アンジェが不意に手をあげて、何かを探すみたいにフラフラとうごかした。


「アンジェ、起きたのか。どうした?」


 宙をさまよう手のひらを握ってあげると少し表情が和らいだ。


「セトス、さま?」


「ああ、そうだよ。大丈夫か?身体は少しマシになった?」


「…………わたし、なにしてた?」


「気づいてなかったのか。昨日の夕方に疲れて寝てから、ずっと寝ていたんだ。

 今日の朝には熱もあったし」


「それで、しんどかった」


「今は?」


「たぶん、だいじょうぶ」


「そうか。それでも、しばらくは大人しくしてような。

 何か飲むか?水を飲まないと」


「だいじょうぶ」


「いや、大丈夫じゃないから。ちょっと待ってて、何か持ってくるから」


「……ぃや、セトスさま」


 ぎゅっと手のひらに力を込めた。

 離れないで、と訴えるように。


「イリーナ!」


 アンジェの手を握ったまま少し大きめの声で呼ぶとすぐにイリーナが来た。

 外で待機していたのかもしれない。


「いかがなさいましたか?あっ、お嬢様起きられたのですね!」


「砂糖水を持ってきてくれ」


「かしこまりました!」


 ほとんど待つこともなく砂糖水が運ばれて来た。

 事前に準備していたのだろう。


「アンジェ、砂糖水だよ。飲めるかい?」


「のめる。ちょうだい」


「飲ませてあげるから口開けて」


「じぶんで」


「今はダメ、病人だから。練習は治ってからね」


「……わかった」


 少し納得いかない口ぶりだが、俺が譲らなそうなのを感じて諦めたのか、素直に口を開いた。


 ほんの少しだけコップを傾けてアンジェの口に注ぐ。


 むせないように、ほんの少しずつしか飲めないから時間はかかったけれどなんとかコップ1杯をのみ切った。


「まだ身体がだるいだろう?栄養と水分はとったから、もう少し寝なさい」


「……はぃ……」


 大人しく寝るかと思いきや、まだ何か言いたげなアンジェ。


「どうした?」


 言うまでだいぶ考えていたようだけれど、ぽつりと零れるように言った。


「……つぎ、おきたときにも、セトスさま、いてくれる?」


 こてん、と首を傾げてそう尋ねる様は……


 マジで天使。やっぱりアンジェは俺の天使だ。


「もちろん。ずっとアンジェのとなりにいるから大丈夫。安心して寝て」


「……ありがと」


 はにかむように微笑んで、俺の手を握ったまま、また彼女は眠りについた。


 明日には元気になってるかな。





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