10.一緒に出かけるためには
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ありがとうございます。
次の休みの日。
ディスカトリー伯に面会し、アンジェをなるべく早い時期に俺の家に引き取れるように交渉しに行った。
結果としては
「いつでもいい好きにしてくれ」とのこと。
自分の娘のことなのに無関心すぎないか?とは思うものの、アンジェを俺の元へ連れてくることができるならいいかと思い直した。
アンジェが今まで家族にもらえなかった幸せを、俺が与えてあげればいい。
ディスカトリー伯に挨拶したその足でアンジェに会いに行く。
「セトスさま!!」
歓声のような声を上げて、キラキラの笑顔で迎えてくれた。
俺の方に手を差し出す様子は抱っこをねだる幼子のようで。
その手に応えて軽く抱きしめてあげると満足そうに微笑んだ。
新しいアンジェの部屋には2人掛けのソファが欲しいな。
椅子の肘掛けが邪魔でしかたない。
「アンジェを家に呼べるようになった。うちの父もアンジェの父上も説得した。
うちの家の離れをもらえるから、準備ができたらアンジェの都合がいい時においで。いつでもいいから」
「ありがとう、ございます。すごくうれしい」
「喜んでもらえて良かった。今日はこれからいろいろ準備があるからもう帰らないといけないんだ。ごめんな?」
「うぅん。ありがと、またね」
本当に顔見に来ただけになってしまって申し訳ないんだけど仕方ない。
あっ、そうだ。忘れてた。
「侍女さん、お名前聞いても?」
「はい、イリーナと申します」
「アンジェは、たぶん今週中にはうちの家に来てもらうことになる。
もちろんこちらでも人は手配しているが、もし良かったら来てほしい。
もちろん無理は言わないからね」
「はい、もちろん行きます!」
「ありがとう。頼りにしてるよ」
侍女さんの話もついたところで、彼女に聞きたいことが山のようにあるんだ。
「アンジェが部屋の外に出るときにはどうしてるんだ?」
「そのようなことはあまりありませんが、どうしても出なければならないときには台車の上に椅子を乗せてそこに座っていただきます」
「えっ?危なくないか?」
「少し安定性には欠けますが、動かすことはできます。
あまり遠くへは行けませんが家の中であればなんとかなります」
「ちょっと知り合いに頼んで道具を作ってもらったほうが良さそうだな。
あと、アンジェの身の回りの物なんだが…………」
それから細々としたことを確認して帰った。
次に向かうのは幼なじみの道具屋。
家に出入りしている店で、親について来てたからよく遊んだ。
「アル、いるかー?」
表から呼ぶとひょこっと顔を出したのは、絵に描いたような“普通”の商人。
ほどほどに小綺麗な格好だが、今ひとつ垢抜けない幼なじみだ。
「おっ、誰かと思ったらセトスか。久しぶりだな」
アルは平民で身分の差があるとはいえ、お互いほとんど気にしていないので言葉は気安い。
「秋はやっぱり忙しくてな。遊ぶ暇なんてなくて」
「そうだろうなぁ、おつかれ。今日はどうしたんだ?」
「リリトアと別れて、他の人と婚約してな」
「その話は聞いてる。大変だったそうだな?」
「別れること自体は別にいいんだが、次の相手が目が不自由な女の子だからな」
「ああ、それでミラドルト伯があんなに怒ってたのか」
「そうなんだよなぁ。でも、めちゃくちゃ可愛い子なんだよ?」
「おおっ!珍しい、セトスがそんなに惚気るとは、そんなにお気に入りなのか」
「リリトアとは全然違うタイプで、笑顔がめちゃくちゃ可愛い」
「ま、幸せそうでなにより。探してるのはその子の贈り物か?」
「いや、婚約者はアンジェっていうんだが、歩けないんだ」
「そりゃあ大変だな。結婚して大丈夫か?」
「父も心配してるんだが、結婚は絶対する。それに、なるべく早めに家に来てもらおうと思ってるんだ」
「そんなに焦ってるなんて、セトスの頑固さが出てるなぁ」
「父にもそう言われてしまったよ。自分としてはそんなつもりはないんだけどな」
「セトスは昔っからそうだからな」
「それで、台車に椅子を乗せたみたいな、歩けない人を運べる道具が欲しいんだ」
「なるほどな。ちょっと待ってくれるか?変わったものを作ってる変人がいるから、その人なら何か知ってるかも」
そう言って、奥に通してくれた。
アルの母が淹れてくれたお茶をありがたくいただく。
「ひとっ走り行ってくるから、ちょっと時間かかる!」
言うなり、飛び出して行った。
俺の頑固さが変わらないと言っていたが、あいつのそそっかしさも変わらないな。
「セトス、あったぞ!」
自分でも変なものを頼んでいると思っていたが、世の中にあったのか……
「まだ完成はしていないそうなんだが、職人と途中のものを持ってきた」
「ワシを持ってきたなどと言うな」
ああ、見ただけでもわかる。
このじいさんは変人だ。
身だしなみには全く気を使っていない服装にボサボサの髪とヒゲ。
「アハハ、すいませんね、ネストさん。
で、これが作りかけで放置されてたやつなんだけど」
「ほっといたんじゃないわい。単にほかのもんを作ってただけじゃ」
「まあなんでもいいや。セトスが思ってたのはこういうものであってるか?」
「そうそう。こういうのが欲しかったんだよ」
「2、3日あれば出来上がる。また取りに来い」
そのまま帰っていってしまった。
「俺、お金の話とか細かいこと一切言ってないんだけど……大丈夫か?」
「ああ、あの人に頼んでおけばたぶん大丈夫。
生活力は全くないけど腕は確かだから」
「アルがそう言うなら安心だな。ありがとう」
「あっ、使うのが女の子だって言ってないな!
目の不自由な女の子だって言ってくるよ。
じゃあな、セトス!出来たら持っていくから!」
相変わらずそそっかしいやつだなぁ。
とにかく、アルのおかげで大きい問題がひとつ片付いた。
よーし、アンジェのために頑張るぞ!