脳筋紳士・ユニーククエストを受ける
「な……」
スタリと音なく地面に着地した謎の老人は乳母の周りにいたハウンドウルフを踊るようにステップを踏みながら瞬く間に粉砕していた。
私は一体何が起こっているのか理解出来なかった。
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とりあえず女性に襲いかかろうとしていた灰色の狼っぽいモンスターの頭を的確に粉砕した俺は地面に着地し、周りを見る。
(数は10体前後、一撃で倒せるのも分かったし問題ないな)
俺は即座に状況を把握、倒せると踏んだ上で狼型モンスターの殲滅に移る。
「さぁ、見せて上げましょう「紳士」のスキルの力を!」
俺は近くにいた狼モンスターの頭を吹っ飛ばした後、軽やかなステップを踏むことでモンスターの攻撃を躱しカウンターで一撃をお見舞する。ステップは止まらずひらりと躱し1発。時に素早いキレッキレのステップで敵を翻弄し戸惑って動かない隙に1発。ステップを踏みながら尋常ではないスピードで狼型モンスターを倒していく。
このステップこそが森の中でゴブリンの群れにエンカウントした時たまたま発見した『紳士たるもの常に高潔であれ』の紳士らしい立ち振る舞いに大補正の真価だ。
どうやらこのスキルの「紳士らしい立ち振る舞い」は細かい所作や言葉遣い以外にもこういった紳士の嗜むものにまで多大な補正がかかるのだ。なので踊りの経験などない俺でも気持ち悪いくらい華麗なステップが踏める。しかも補正が舞踏会で踊るようなクルクル回りつつ、ステップを踏む動きにより大きな補正がかかるようで結果、現在俺は鈍器を持ちながら回転し殺戮の限りを尽くす凶悪な殺戮車輪みたいになっている。
「さて、これで最後ですね」
俺はそう言いながら戦鎚を勢いよく振り最後の一体を光の粒子に変える。
「お嬢さん、お怪我はありませんか?」
俺は馬車の中でモンスターに襲われかけた女性の元に行き怪我がないか確認する。
助けに行った時、ちらりと見えた程度だったがこうして真正面から見てると……美しいブロンドのストレートの髪、柔和さを感じる少し下がった目尻にナビゲーターちゃんのような針葉樹を連想させる深い緑ではなく若葉のような薄い緑を宿した瞳。衣服の上からでも分かる肉感的な四肢。現実では滅多に会えないであろう美人だ。
「い、いえ貴方様のおかけで私は怪我をしていません。一体貴方は……」
「そういえば名乗っていませんでしたね。私の名前はシルン、少しばかり戦闘の心得があるだけの老人です」
「どう見ても戦闘の心得が少しあるだけの老人の動きではなかった気がするのですが……」
「では、貴方を助けられたのでこれで私は」
そう俺は言い放ちその場を去ろうとする。俺はあくまで紳士として悲鳴をあげる女性を助けただけだ。当然のことをしたまでなのにお礼を貰うなど言語道断だ。
「そんな! 私は命を救ってもらったのに何かお礼を!」
「いえ、お礼など必要ありません。何故なら私は1人の紳士として当然のことをしたまでで――」
俺がそう言ってかっこよく立ち去ろうしとした瞬間。
ドカンッ
突然馬車の床が吹っ飛び、床から豪奢なドレスを着た少女が現れた。
突然の出来事に絶句する俺をよそに気の強そうなつり目を輝かせながら少女が喋る。
「貴方のこと気に入ったわ! 一緒に町に行きましょう!」
『ユニーククエスト発生!『公爵令嬢と始まりの町探索』』
『このクエストを受けますか?』
YES/NO
突然のクエスト発生に俺は――
「わかりました喜んでお供しましょう!」
『――肯定と判定される言葉を観測。YESと判定、ユニーククエスト『公爵令嬢と始まりの町探索』開始します』
即効でクエストを受けた。
だってユニークだよ? なんか凄そうじゃん?




