【《執行者》ヴェルゴール】
二年の時を経て一話の前書きに誤字を発見するという恥ずかしい経験をしました(間抜け)
『ユニークモンスター【《執行者》ヴェルゴール】が出現しました』
立て続けにアナウンスが流れる。
【■世界の残滓】
【断罪の徒】
【孤独の咎人】
【停滞した刻よ/今廻れ】
【それがあなたの願いなら――】
『――我が名はヴェルゴール』
頭部を形成している黒い靄に白い煙のような双眸が尾を引く。
その見た目は正に首のない騎士。ただ馬や抱えてるはずの頭はなく。漆黒の剣を一振り、握っているだけだった。
『冠するは《執行者》』
(執行者って何だっけ? 確か処刑人やら裁判官とかの意味合いだっけか?)
中二心をくすぐる実に良い称号だ。めっちゃかっこいい。一つ問題があるとすればそれが俺の敵だということだ。いや、まだ敵だとは限らないな。アナウンスも出現としか言ってないし実は敵対しなかったり……。
『いざ――汝の首を断たん』
あっ、こいつガッツリ殺しに来てるわ。
名乗りを終えたヴェルゴールは左手を前に出し唱える。
アレはヤバいと本能が訴える。
直観が訴えるまま咄嗟に回避行動をとろうとするが。
『【Mano nel collo】』
「ほぇ?」
――……は? 目のまえにヴェルゴールがいた。いや、ヴェルゴールに引き寄せられた!?
ちょ、おいおいおいおいおいおい! 初手から読みあい拒否のワープ技とかふざけてんのか――
「よッ!」
首に向かって振り下ろされた剣を間一髪ハンマーの柄で受け止める。
少しでも反応が遅れてたら首が飛んでたんだけど!?
「ぐぅ……!」
『……受け止めるか』
ヴェルゴールは分が悪いと察し剣を引くのと同時に回し蹴りを放つ。
当然反応できる筈もなく。俺はそれをもろに腹に喰らって吹っ飛んだ。
「ぐぅ!?」
HPゲージが刹那の蹴りで4割以上が吹き飛んだ。
蹴りで4割だ。まともな一撃を喰らったら間違いなく死ぬ。
すばやく態勢を立て直しながら大雑把に情報をまとめて打開策を考える。
単純なパワーでも分が悪く、戦闘技術も相手が上。さらに全体的なスペックですら負けているのに下がった相手を強引に目の前にワープさせるアホが考えたふざけた技まで持っている。
俺の手札は【寂寞の凶狼】とほぼ空気と化している「紳士」のスキルのみ。
(……あーこれ完全に詰みですね。はい)
いやどうしようもなくない? まだ最初の町からも出れてない初心者ですけど俺? ねずみがライオンに挑むようなもんだぞ勝てるわけねぇだろああああああああああ!!??!??!
頬をギロチンの先が掠り、血の代わりに赤いポリゴンが散る。
それと同時に俺を通り過ぎて行ったギロチンが磔の山を破砕する音が聞こえる。
もう少しズレていたら間違いなく頭が横に真っ二つになっていた。
『……ほう』
(……ほう。じゃないが!? てかそのギロチンどっから出した!?)
ヴェルゴールを見ると右手に握っているものが漆黒の剣から錆びた鎖に変わっていた。地面に垂れ下がった鎖は俺の脇を通り後ろまで続いている。
……まあ、間違いなくさっき磔の山を粉砕してったギロチンに繋がってるでしょうね。いつ変えたん? 手品かなんかですか?
そんなことを思った瞬間、背後から磔の山を破壊する爆発音じみた破砕音が響いた。
ヴェルゴールが鎖を横に振るったのだ。さっきまで地面に垂れていた鎖の残像が見えたから辛うじて理解できた。
さて、横に振るわれた鎖、その先にあるギロチンはどこにあるでしょうか。
答えは上だ。
ヴェルゴールは己が腕力と全力の踏み込みでギロチンの軌道を強引に捻じ曲げ、空高く打ち上げたのだ。
シルンの瞳にはこれから自身に襲い掛かるだろうギロチンの姿が夕日によって煌々と照らし出されていた。
「……」
これののデザインした馬鹿だれ?
まるで流星のように迫ってくるギロチンを前にシルンはそう思わずにはいられなかった。




