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異世界魔王育成者 綺羅斗  作者: 柴見流一郎
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第一話:最強最悪ヤンキー綺羅斗参上! そこんとこ夜露死苦!!

アザとーさんの企画で今回の作品を手がけるようになりました。監修も行ってもらい、これからやっていこうと思います。異世界転生・転移ものは自分では書けないのでとてもワクワクしながら書いています。

今回は異世界へと飛ばされた主人公、前川綺羅斗の人となりを書いた紹介話でもあります。

そんな彼が魔王を育てる? 果たして一体どうなるのやら……?

 マジでたまげたぜ……こういうモンは夢うつつ、って思ってたからなあ……。


 今俺は相棒のバイクGSX400F……通称「インパルス」にまたがりながら、左右を見渡し状況を把握しようとしていた。

 だが、ここじゃあ俺の常識なんざ通用しねえらしい……。簡単に言えば、ゲームで登場する王様がいる部屋だ。いわゆる「王の間」ってのにいる……。


 薄暗い室内は石畳とレンガで組まれ、壁には紋章らしき絵が描かれた垂れ幕がある……族で言うところの旗ってやつか。どれぐらいの身分かを現すことだけはなんとなく分かった。


「で、そこの」


 玉座の側に立っていた一人の女が冷たい声で俺を呼ぶ。結構マブい顔立ちと中々のスタイルだ。これだけありゃ週刊誌のグラビア狙えるんじゃねえの? って思えるほどだが俺なら買わねえ。

 肌は青白く蜘蛛の巣のようなタトゥーを左の頬に入れ、その耳は俺が知ってる耳じゃねえ……まるで魚のひれだ。オコゼを連想させる。毒でも出すんじゃねえかってほどとんがっていやがる。


「そこの、か」


 俺はGSXのエンジンを空ぶかしし、本来なら静寂に満ちるはずの玉座にご機嫌な甲高いアクセル音を張り上げた。音はこだまし石で出来た箱の中で派手に暴れ回り、音の大洪水となった。それに青い女は露骨に顔をゆがめる。



「ああ、悪りぃな。あんたの上から目線がちょいウザかったんでよ……相棒に口なおしを頼んだのさ」

「き、貴様……人間風情が!」


 よほど耳が堪えたらしい。ひれのようなものを塞ぎながら、不快感をむき出しに叫ぶ。人間、と。


 そう、人間。俺は人間だ。

 生まれと育ちは茨城で、元ヤンの親父とお袋からもらった名前は「前川綺羅斗( キラト)」。イケた名前だろ? 俺も気に入ってるんでね。

 そんな俺はいつもの通学路を相棒にまたがって走ってた。家の前はスクールゾーンだからほとんど徐行状態だが、側を集団下校するガキどもには相棒の格好良さは伝わってる。なのに教師どもは全く分かろうとしねえ。

 柔軟な思考ってやつが子供の未来を育てる……俺は教育ってのをそう思ってるがね。


 スクールゾーンを抜けると二車線の国道が延びている。朝の通勤時間帯だってのに車道は混雑してねえ。まあ、ほとんどのリーマンは電車通勤だろうがよ。

 だが、ここは家の前のスクールゾーンから学校に行くまで、快く相棒と疾風( かぜ)になれるわずかな瞬間だった。制限速度は60キロ。

 っへ、一番腕が試されるコースだと俺は思ってるぜ。限られた時間内で可能な限り相棒と吠える工夫をこなす。ただ転がすだけが単車の見せ所じゃねえ。


 そんな幸福に満ちるわずかな間だった。奇妙なことが起こったのは。

見通しのいいはずの車道は急激に光を発し、俺は驚いてエンジンブレーキで滑りそうになった車体をなだめた。

 エンジン音がどくどくと血管の胎動のように響く。

 晴れた朝の風は消え雲一つもない晴天は全て石造りのこの部屋へと成り代わった。


「いえいえ、これは大当たりではないですか、ギミン」


 そう穏やかな口調で言う「人間じゃないやつ」は王座を挟んで立っていた。ギミン、と女の方を呼んだこの男も……青年といえるがやはり顔色は青く右頬に蜘蛛の巣のタトゥーを貼り付けてる。


「この気性、筋、目つき、出で立ち……暴風のようで実はしたたか……。丁度いいと思いませんか? 我ら魔王の行き先を委ねることには」

「まおう……?」


 そういえば、さっきから俺は玉座の両隣にいる連中しか目にしてなかった。肝心な玉座に座る存在に改めて目をやる。


「すごい音するんだね! ねえねえ、もう一度聞きたい!」


 そうキャッキャと叫ぶのは……見た目通りの少女だった。歳はまだ中学にも届いてないのではと思える顔つきだ。体躯も特別変わったところがあるようには見えず、人間の子供と変わりない……俺の目にはそうとしか映らなかった。


「……まおう、てのは……アレか。人類の敵で魔物とか率いて皆殺しにくる、アレか」

「はい、アレでござます」


 青年の方がにこやかに答えた。視線を玉座の上に戻す。


「ねえねえ、それって何なの? お馬さん? 変わったお馬さんだね! でも首がないのにどこから鳴き声だしてるの?」


 あのギミンという女が王座に押さえつけてなければ、その輝いた目で今にも走り出しそうなテンションの高さだ。


「申し遅れましたわたくし、サギンと申します。ギミン共々魔王エンステラ=エレトリア様の補佐官でございます」

「え、えと……何だ、あ?」


 全く事態についてこれない俺をまた笑うように青年……サギンはクスクスと微笑む。


「生まれ故郷にて喧嘩無双。愛車であるバイクを違法改造し、容姿は今時もう見ないリーゼント。今お召しになっていらっしゃるものは特攻服」


 サギンはまるで歌うかのように俺を見つめ、流れる双眸には魔性めいた蠱惑を感じた。


「その背中の『無敗』の言葉が示す通り敵なし……一言で言えば悪。社会悪とも成り得ましょうその悪性こそが我らに今!……必要な素養なのです」

「……てめえらに必要な、素養……?」


 確かに。俺は不良、ヤンキーと呼ばれる存在だ。社会悪と言われても文句は言えねえ。

 学生服も着ず、魂のこもった特攻服で毎日のように通学し、授業はかじる程度であとは大体予習したものと同じだ。教科書通りなだけで、つまらなすぎて聞き流すことばかりだ。

 飲酒喫煙何のそのだ。ただ懐事情が寂しいものがあり、もう充電式の電子煙草にして久しい。酒にはうるさい。ノンアルコールとドリンク枠に入っているカルーアに少しでもアルコールが入ってみろ、俺の敏感な舌が確実に見抜くぜ。何せリキュールで倒れるほど俺はデリケートなんでな……。

 しかし。


「悪、ねえ……それがなんで素養となる。ろくなことにならねえぜ?」

「まさにその力が今! 今の我々の社会には必要なのです! どうかお力をお借りしたい! 悪を……魔となる悪を!」

「悪が必要とされる……?」

 

 懇願するサギンは歌を口ずさむように、しかし熱くほとばしるものを押さえようとせず、大きく腕を広げて声を上げた。


「その心、その精神の構造! その悪たる所以に! それを前にしてわたくしは明言しましょう! あなたなら、どうか我らが魔王を再び……再び!」


 歌うかのようにいうサギンはそこでぺこりと頭を下げ、魔王と呼ばれた少女にも頭を押してお辞儀をさせる。


「我が王を、魔王らしく悪人に育ててください」

「……」

「……」

「ねえねえ、お腹すいたー。ギミン~今日のおやつ何~?」

「ぱ、パンケーキ……をご用意しております」

「ほんと!? やったー!」

「……魔王に?」

「魔王に」


<第一話・終わり>


どうだったでしょうか。少しでも興味を持っていただけたら嬉しく思います。

こんな彼が送る痛快コメディ(のはず)を今後、約10話ほどを見込んで組み立てています。

短い間ですが、お付き合いいただけるのでしたら、これ幸いでございます。では次回も、そこんと夜露死苦。

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