俺氏と幼女と旅の支度
あれから数日間、毎日外壁工事を守る仕事を続け、貯金も大分溜まってきた。
そこで、次の旅への算段を立て始めることにした。
きっと、俺とフィリアの2人パーティーでは、ここからこの星の反対まで行くのは厳しいだろう。
それというのも、避けては通れない道や地域があるというのだ。
例えば、現世に未練を残し、道行く人々を襲い体を奪う悪霊が闊歩する霊道だとか。
オークやゴブリンなどが群れて生活している拠点だとか。
害悪昆虫型モンスターの住処のジャングルだとか。
下手したらすぐに死んでしまう。
エフォートビレッジで様々な情報を得ていくと、どの村や町にも、王都に向かって王都直属騎士試験に向かう者がいるそうなのだ。
彼らが集まるのは村の鍛錬所。
そこで共に旅に来てくれる良い奴は見つからないかと考えた。
情報収集を進めていくとともに、少しずつ人見知りが軽減されていくような気がした。
ーーー
「おはよう」
「ミオおはよ〜」
もうすっかりなれたこの挨拶。
この村に来てからついに15日が経過した。
今の所持金額は約35万マントル。
フィリアはどんどんと敵の弱点を見つけ、報酬金額をあげていくからであった。
きっと、何にも使わなければもう100万マントルは溜まっていたであろう。
それがなぜ35万マントルなのだろうか。
ーーー
「よう、ミオのあんちゃん!景気はどうだい!」
すっかりと仲良くなった野蛮な雰囲気の優しいおじさん、マルグス。
彼には普段から優しくしてもらっていて、俺達からするとおじいちゃんのような存在だ。
それでいて、たまにお菓子をくれるので、フィリアはすっかり懐いてしまった。
「ぼちぼちですかね。今日一緒にどうです?」
「いいね〜。ぜひフィリアちゃんも誘いなよ」
彼はロリコンではないが、フィリアに溺愛している様子だった。
フィリアが敵を倒すたびに歓喜し、拍手を欠かさない。
人柄はいいのだが、少しちゃっかりしているところもある。
ーーー
「ミオのあんちゃん、今日は奢ってくれや」
「え、ええぇ〜?そんなに景気良くないですよ?」
「うちの女房が怖くてよ〜、迂闊に金が払えねんだよ。なっ!頼むよ〜」
先輩が後輩に奢らせるという日本ではありえない光景。
そう、こんなことが続いて、俺らの貯金はあまり貯まらない。
いい人なのだ。
いい人なのだが…。
彼も一因となって、旅に出るための最低限なお金がたまらないのだ。
さらに、フィリアの欲しいものを買ったり、夕飯は毎日外食で、宿に止まり、挙句の果てに飲み会では払わされる。
この始末だ。
ーーー
「さて、今日も仕事頑張りますかね」
俺の仕事は体力が切れそうなフィリアに『体力付与』するのと、囮になることだ。
お陰様ですっかりと体が鍛えられてしまった。
「まだ眠たいよ〜」
フィリアの仕事は湧いた敵の排除。
もうそろそろ高速詠唱ができそうなほど、錬金のスキルを使っていた。
因みに言うと、フィリアのスキルレベルは30から35に上がっていた。
体力も前に比べると増えたようだ。
そんな中、俺は無限にあるスキルの使い道を考え続けていた。
ーーー
「お疲れ様〜」
ほぼ日は落ち、今日の仕事が終わった。
マルグスに捕まらないように、フィリアを連れてそそくさと帰る。
それと、今日はやりたいことがあるのだ。
換金所で8万マントルを受け取ると、エフォートビレッジの中心街へと向かった。
ーーー
「いらっしゃ〜い」
ゆるい声で入店を向かい入れる会計席のオーナーの他に、武器を並べ替えるスレンダーな女の子の姿があった。
そう、今日は武器を買いに来たのだ。
スキルが有効でないなら武器を使えばいい。
スキルが存在する世界で武器など、と思うかもしれないが、あくまでスキルは戦いや暮らしを有利にするためのものだ。
敵に致死的なスキルを持っている人は少ない。
それどころか、スキルを持っている人も世界の半数以下だという。
そのため、冒険者にとって、武器は必須アイテムなのである。
俺は店内を一周し、何を購入しようかと考えた。
その中で特に印象に残ったのは、ボイルドソード。
大剣であった。
金額は3万マントル。
全然買える!と思いつつ手に持つと、あまりの重さに肉離れを起こしそうになった。
ーーー
結局買ったのは20センチほどの簡易ダガーであった。
金額は4000マントル程で、チープではあるが、モルタルナメゴンくらいなら貫けるというので買った。
モルタルナメゴンとは、俺らの仕事でよく出没する巨大なナメクジである。
幾度となくこいつには食われそうになったので、少しは心強い武器を購入できたかなと思う。
「やっと異世界らしくなってきたな!」
止まらないワクワクを押さえつけて、スキップしながら宿へと帰った。
ーーー
「ただいま〜」
「おかえり〜。お腹空いた〜」
「今日は、外食はやめようと思う。なかなかお金が貯まらないからだ。さきほど新鮮な野菜や肉を買ってきたので、キッチンで調理しようと思う」
ま、料理経験はないが大丈夫だろう。
なんとかなる。
「じゃがいも人参ピーマン落花生レタスキャベツなめキノコ、マリ豚肉にとうもろこし!何が作れるの!?」
フィリアはチョイスに納得がいかなかったようだ。
フィリアは元いた村では何を食べていたのだろうか。
「普段何食ってたんだ?」
「うーん。ドマゴラスの親子丼とか、生霊レタスの漬物とかかな」
ナニソレシラナイ。
そんな奇妙なものがあるのかと困惑。
親子丼は食べてみたいが。
「フィリアはこの材料でなにか作れるか?」
「調味料があればなんとか作れるかも」
なにこの12歳。
めちゃ頼もしい。
逆に自分が恥ずかしい!
「早急に買ってくるであります」
3000マントル握りしめて宿を飛び出した。
ーーー
「これでいいでしょうか」
スパイスダウンというお店で様々買ってきた。
砂糖、醤油、わさび、塩、味噌、胡椒、唐辛子粉末、とうもろこし粉末だ。
「まあ及第点かな」
上から目線で飄々と評価された。
このマセガキ!
「それではよろしくお願いします」
「はい。今日はドマゴラスの親子丼を作りたいと思いまーす」
「いやドマゴラスないけどね!?」
唐突のボケに思わずツッコんでしまった。
「う〜ん。じゃあ野菜炒めかな」
野菜炒め。
それは、シンプルイズザベストな世界的料理である。
フィリアはキャベツとなめキノコ以外を上手く炒めて、馨しい野菜炒めを作ってみせた。
キャベツとなめキノコは味噌汁にしたようだ。
「とりあえず完成よ。食べてみて」
少しワクワクした目で見つめてくる。
いいコメントを返さなければ。
意を決して一口。
「おいしい」
うまい。
それ以外に言う事は無かった。
久しぶりの身近な人の手料理に感動した。
「このなんとも言えないしょっぱすぎる感じがいい!うん!しょっぱい!しょっぱい!」
フィリアは俺に向かって塩が撒いた。
どうやら「しょっぱい」は禁句だったようだ。
失敗した。
しかし、本当に美味しかったという旨を伝え、なんとかその場を収めた。
順番にお風呂に入ると、ふと、旅の途中に聞かれた俺の家族について話してみようかと思った。
さて、フィリアが引かないかどうか…。