世界から孤立した学生
「わかったぞ。根本的には、術式短縮を行い、余裕があれば、自分で考えた詠唱に。つまり、術式変換を用いて、イメージの増幅と、発動までの時間短縮をするわけだ」
メスティーから事細かに応用を聞き、ようやく理解した。
魔術はイメージが5割を占めるようなものだ。
その5割をいかにリアルに思い描けるか。
そして、そうするためのルーティーンがあるか。
「魔術に対する認識が変わったよ。ありがとな、メスティー。これは別の魔術にも当てはまるな」
俺とフィリアの目標は、一先ず第一魔術学院の試験を突破することだ。
少しずつ、着実に進んでいる。
まだ知らぬ目的のために。
ーーー
俺とフィリアは学生寮で暮らしている。
ウィンクル学校では年長者の俺らは、よく年下の世話を頼まれるものだ。
男子寮と女子寮は隣り合わせでありながら、別々の建物となっている。
俺とフィリアは、中央広場でよく待ち合わせをし、雑談をする。
俺の失われた五年間を補完するのに必要なのだ。
「アリスさんは、現王都打倒を目指してる筈だけど、未だに消息も動きもわからず、か」
九里香と共にバルボンド島で出会ったアリス・シュバルツァーは、旧貴族シュバルツァー家の一人娘。
彼女は権力のために両親を殺した現貴族派の一族をひどく憎み、同じ境遇のものと結託して、反乱を起こすことを目論んでいる。
俺たちは、アリス達に加勢することと引き換えに、金の民救出作戦に参加してもらったが、予測不能な出来事が重なり、それに乗じて消息を絶ったのだ。
リモ電でも繋がれないようだ。
「アリスさんはクリカさんが亡くなったことを知っているのかな。だとしたら私達、傷口を刺すようなことをしちゃったよね」
わかっている。
九里香が死んだのは俺が弱かったからだ。
元引きこもりがつけ上がった罰だ。
俺はそう思っている。
「俺たちにはやらなきゃならないことがある。それが何か、今はわからない。俺の中でバルトは言った。」
何かが起ころうとしている。
しかしそれを知るには、俺たちはあまりにも孤立しすぎていた。