メスティー先生の術式講座
「美しき可憐な花に…あー駄目だ。隔壁開放のイメージができねえ」
俺とフィリアは、自分たちよりも随分年下の女の子に、勉学の教鞭をとってもらっていた。
「あれー?なんでー?うちはこれでできんのにー」
天才タイプかな?
「魔術の術式短縮について、もっと具体的に教えてくれるかな」
メスティーは暫しの沈黙の後、語り出した。
「いまうちらがやってるのは術式短縮と術式変換のかけあわせでね、まずは短縮、その後変換っていう順番なんだよ」
「なるほどね。私達は言葉と術式を結び付けれていなかったってことね」
「そう!そうです、フィリアさん」
「なんだよフィリア。意外とついていけてんじゃん」
フィリアは満面のドヤ顔を披露した。
メスティーは枯れた花に手をかざし、よりわかりやすく実践してくれるそうだ。
「ミオウおにいちゃんたち、思い出してね。魔力の流れ。その初歩を」
俺は今まで魔術など使用したことがなかった。
ウィンクル学校に入ってすぐ、魔術未経験者に講習が設けられた。
俺とフィリアは、年下の集団の中、奇異の目にさらされながら参加したものだ。
その時に教わったのは、魔力をエネルギーとして捉えること。
魔術の世界においても、化学や物理学でいう質量保存、運動量保存などのように、魔力と魔術現象は釣り合っているそうだ。
大きな魔術になればその分消費魔力量が増える。
RPGなどでもお決まりのシステムだ。
その魔力のエネルギーを、発したい魔術のイメージへと変換する。
その過程で、魔術空間書斎ファントムに介入し、魔術式を書き込む。
それらの道程を経て、初めて現象が起こるのだ。
「確かに、できるようになってからはそんなに深く考えたことなかったな」
「私は今でも術式の書き込みは苦手だけどね」
みるみると、メスティーの手元の光は強まっていく。
「あ、あれ?さっきの授業の時のよりも眩しくない?」
なんか、危険な匂いがする。
キマイラでの短期間で大量の危険に出会した俺にはわかる。
これはまずい。
「おにいちゃんたち逃げてー!」
「バカ!メスティーちゃんをおいて逃げられないわよ」
フィリアと俺は、ありったけの知識を総動員して、今にも暴発しそうな魔力を押さえ込む。
「第一隔壁…クソッ早く開け!」
焦って第一隔壁すら開けない。
「ふー…第一隔壁……開放。第二隔壁…開放!」
「ふ、フィリア?」
この窮地に冷静でいられるとは。
フィリアは俺が思っていた以上に成長していた。
「回復系第三隔壁・エナジーエスケープ」
これは、今日の授業で習った回復系魔法の応用。
別名、負の回復魔法。
「フィリアすごいぞ!」
フィリアの魔術は急速にメスティーの放出する魔力エネルギーを放散させた。
光は徐々に弱まり、完全に消えると俺たちは尻餅をついた。
「はぁ…なんだったんだ今の」
メスティーは涙目で答えた。
「ごめんなさい。話すことに集中してたら術式に抜け穴ができちゃいました」
メスティーは肩を落として落ち込んだ。
「はは。メスティーでも失敗すんだな。俺、ちょっとほっとしたよ」
天才の振る舞いをするものの失敗は、俺のような凡人を時に安心させる。
「それってどういうこと?」
メスティーが不安げに聞いてきた。
「落ち込むなよ、メスティー。お前は俺らよりも凄い!けど、今回たまたま失敗しちゃっただけだ。それに、そうしてくれって頼んだの俺だし。ごめんな」
メスティーの顔に安らぎが戻る。
「てか、ミオウってば。肝心な時に役に立たないの。変わってないなー」
「お、おい!それどういうことだよ!」