ウィンクル学校
六ヶ月後。
「おはようございますっ!!!」
「おはよーございまーす」
俺とフィリアは、タミル村から十キロほど離れた、ウィンクル学校に通っている。
必修は、国語・数学・化学・基礎魔術・体術・キマイラ史。
選択で、俺たちは回復魔術にしている。
「次ってなんだっけ?」
「体術よ」
俺は嫌そうにしてしまう。
「痛いの嫌なんだよなー」
フィリアに背中を思い切り叩かれた。
「男の人がそんなこといってないの!情けないよ!」
五年間のブランクがきついんだよ…。
体術では、基本的な運動はもちろん、戦う為の体技の開発や、その対処、スキル持ちはその応用を学ぶ。
「次!ミオウとキャスベル!」
「よろしく、ミオウ」
「ああどうも」
畜生!やっぱ学生相手だとインキャ発動してしまう!
「始めっ!」
教師の掛け声で、会場は一気に張り詰める。
「シュッ!」
「うおっ!」
勿論俺は逃げ回るしかできない。
「はっ!」
「イダっ!」
キャスベルはしっかりと拳を握って回転をかけた拳を打ってくる。
こいつは優秀な生徒で、体技を既にいくつも完成させているが、俺相手には一度も使ったことがない。
「ウララララァ!」
「グハァ!」
キャスベルの連打の前に、俺は盛大に吹き飛んだ。
「そこまで!キャスベルの勝ち!」
「やった〜」
くっそ。
痛え。
「ミオ!大丈夫?」
フィリアにかっこ悪いとこばっかり見せてしまう。
「あ、ああ、平気平気!この通り。いて」
「もー!強がんないの。ミス・レイスィー。ミオウを医務室へ連れて行ってもいいですか」
「ええ、構いません。まったく。もっと鍛えなさい」
「はあ…」
やっぱり学校は嫌いだ。
ーーー
「っと、これで大丈夫!」
「ありがとう、フィリア」
俺は今、とてつもなく美人な女性と二人きりだ。
意識してみれば、フィリアはこの五年で色々と成長しており、ずばり、俺の好みにドンピシャなのだ。
が。
もう長い付き合いだ。
ドギマギすることはない。
中身はあの頃とさして変わらないのだから。
「五年前は大闘技会で勝ち進むくらい強かったんだけどなぁ」
「まあ、体術の授業じゃスキル禁止だし、高速詠唱もまだ完全じゃないからね」
あの時の栄光はいづこへ。
「それに、霊切刀もないしね」
あの戦いの後、俺はすぐに治療され、各地を点々としたらしい。
あの時の混乱のせいで、武器などは全て失った。
「おまけにお金もな」
「もう五年前だからお金はいいでしょ!」
それでも今あれば、と考えてしまう。
「そろそろ私の番だから。行くね」
「ああ、ありがとうな」
フィリアは照れ臭そうに医務室を後にした。
俺はベッドに倒れ込んだ。
これからは一応、フィリアと第一魔術学院を目指すことになる。
では、俺はこのままでいいのか?
体はこの通り貧弱。
国語はキマイラ語が読めずに最下位キープ。
理系科目もダメダメ。
「やっぱ。頑張んなきゃな」
キマイラの学校には年齢が関係ないらしく、俺とフィリアは同じように、一年目の刻印を押された。
通常、学校は三年で卒業のようだ。
「失礼しまーす」
突然の間延びした声。
「あれ?先客がいたか」
「どうも、体術でボロボロにされたウヅキです。よろしく」
声の主は、低身長の少女。
初めてフィリアと会った時くらいの見た目だ。
恐らく12歳くらいだろう。
「ごめんね。いいよ、ここ座って」
俺はベッドからどき、近くの椅子に座った。
「ありがと。ウヅキって、珍しい名前ねー。下の名前は?」
「ミオウだよ。ウヅキ ミオウ」
少女はパーっと輝いた笑顔を見せた。
「すっごい!すごい。初めて聞いた。うちはメスティー・バンクシャー。よろしくね」
そう言って、白く細い腕を差し伸べた。
「ああ、よろしく」
俺もそれを握り返した。
初めてフィリアと会った時の感覚が蘇った。
「それで、どこか痛いの?」
俺が尋ねると、メスティーはぺろんと制服をめくって、お腹を出した。
「ちょっ!?何してんの」
俺は慌てたせいで、メスティーが困った顔をした。
「お腹、痛い」
「そっか!ごめんごめん。先生呼ぶ?」
メスティーは涙目で答えた。
「いい。ミオウおにいちゃん何とかして?」
ふぁ。
こんな現場、フィリアに目撃されたら死確定だ。
だが、メスティーをこのまま放っては置けない。
「スキル、かけようか」
目が覚めてからは、全スキル習得のことは誰にも話していないが、仕方ない。
「そこに横たわって。時間かかるかもだけど」
メスティーが横たわると、俺は制服をグイッと上まであげた。
「ひやっ!」
手をメスティーのお腹に乗せる。
「急にごめん!でも、こうしたほうが早く効くから」
回復スキルをかけるのは初めてではない。
フィリアにも、エフォートビレッジで倒れてた少女にもかけた信頼と実績がある。
「治癒治癒治癒治癒治癒治癒治癒治癒…」
メスティーは少しずつ、安らかな表情になった。
キュルルルルル。
「あっ!」
腹の虫が鳴いた。
メスティーのお腹からだ。
「いやー。お嫁さんに行けないヨォ」
「だ、大丈夫だよ!ほら、俺とかもう、ずっとなってるから!」
下手なフォロー。
成長してないな…。