俺と幼女と休息と。
青年達から頂いた(奪った)金額は5000マントルほどらしい。
この世界にもロリコンはいるのか…
少し残念な気分になった。
そのお金を使ってころすけと呼ばれる先程の食べ物を二つ買い、二人で間食とした。
「なんだこの世界の食べ物!美味しいな!」
牛のような肉の旨みとほくほくとしたジャガイモのような根菜のじわじわ感が堪らないひと品であった。
ころすけを味わって心を落ち着けると、残りの4900マントルの使い道についてざっと考慮してみた。
宿泊にいくらかかる?
そもそも夕飯は?
無駄なお金使うくらいならフィリアに砂から錬金して貰うほうがいいよな。
フィリアが食事としてほとんどをパンに錬金するには理由があった。
他の物質を食料に変える場合、その食料を購入するのにかかる金額を働いて稼ぐほどの体力を使うらしい。
あまりに高価な、例えば高級ステーキなどを錬金すると、とんでもなく疲労するらしいのだ。
稼ぐ時間のボーダーラインは曖昧だが、この現象を俺らは『稼ぐ』と、称することにした。
今日は我慢せず、どこかのお店で美味しい料理を食べよう!
ーーー
レストラン・セントリアにて。
「お疲れ、フィリア」
「本当だよ。何回倒れたか数え切れないもん」
「8回だよ」
「数えないでよ気持ち悪い!」
やっと落ち着いて話が出来る状況になった。
何を話そうかまだうまくまとまっていない。
まずはオーダーを入れることにした。
「俺はこの、北クレセントのラビリトシチューと、お水をください」
「あたしはボイリングマンドラうどんと、柑橘ジュースがいい!」
この世界でやっと本格的な食事を取れることになった。
待ち時間そわそわするが、今後についてフィリアと話し合った。
「今日はこれから近くの宿屋に泊まろうと思う。さっき優しい青年達から奪っ…貰えたお金には限りがあるし、お金を稼ぐ為に職場を見つけることが必要だ。明日からは仕事を探す」
働くのは不本意ではあるが、生き残るにはそれしかない。
働いたら負けなどと言っている場合ではないのだ。
「あたしはどうすればいいの?」
そこだ。
フィリアはまだ12歳なので、働くことは出来ないはずだし、大人に何されるかわかったものではない。
「とりあえず、明日は宿屋で待機していてくれ。この世界で子供が働けるかはわからないが、明日で色々と学んでくるよ」
少し大人のふりをしてしまった自覚はある。
異世界という不測の事態は俺を微妙におかしくさせた。
「子供っていうなー!あたしはあたしでやるから!それに!村のみんなを見つけるために旅してるんだから、この村に居続ける気は無いからね!短期の仕事にしてよ!」
なんか違う。
なんか逞しすぎるよ。
もっとおしとやかな、俺を慕う少女だと思ってたよ。
「じゃあがんばれよ!俺はついて行かないからな!」
今世紀二度目、最高の笑顔を放った。
「おまちどおさま。シチューとうどんだよ」
食べ物とドリンクが届いたので、二人は会話を忘れ、一心不乱に貪った。
ーーー
「ふぅ〜、食ったな。俺の大好きなハンバーグがなかったのは残念だったけどな」
「はんばーぐ?なにそれ。聞いたことないんだけど」
「ハンバーグっていうのは、豚とか牛をぐちょぐちょにしたのをジューシーに焼く食べ物のことだよ」
どうやら、日本にあるものがなかったり、あっても名前が違ったりするものもあるらしい。
ちなみに俺達が巨大サソリと呼んでいたサソリはストッピードと言うらしい。
他にも巨大アリジゴクはバグイーター。
太陽をオリジンというらしい。
スキル書に使われている原石とは、同音異義語のようだ。
「ところどころ不便なんだよなぁ」
「なにが?ミオが無知なだけじゃん」
頭にくるが、たしかに、フィリアの方がこの世界をよく知っている。
頼る他ない。
「村の人達によるとここが村唯一の宿屋らしい」
その宿はエフォートビレッジの中では目立つ優雅な見た目だ。
派手に装飾されており、これもまた異世界を感じさせる。
2メートルほどある重い木製の扉を強引に押して入った。
ーーー
「3000マントルです」
「え?一泊で?」
「はい。一泊一部屋3000マントルです」
思わずあほ面になってしまった。
既にお金は2900マントルとなってしまっていた。
ーーー
作戦会議だ。
「おいフィリア!たった100マントル足りなくなった。どうにかしてとってこい」
「またあたしに頼るの?あたしがどれだけ疲れてるのかわかってるの?もっとあたしを楽させることを考えてよ!」
「バカ言うなよ。お前が旅できるようにサポートしてやってるのは誰だかわかってんのか!?お前がいなけりゃ当てずっぽうのテレポートで元の場所に戻ってる頃だぞ」
「はぁぁぁ!?旅に行こうとか気取って誘ったのミオじゃん!あたしを抱きしめて!正直ちょっと引いたよ!あ、やばいひとだ。と思ったよ!わかったら自分の力で何とかしてよ!」
あ、そうだ。
「すいません。このマントルって何で出来てるんでしたっけ?」
小太り老齢のオーナーに尋ねた。
「これはアクティビファイトから作られておる。どこかの大国の近くにある大鉱山で大量に採掘されているようじゃ。最近ここの宿にその大国から来た兵隊達が自慢げに語ってたわい」
「アクティビファイト、ですね!ありがとうございます!」
宿を出た。
「ちょっと!何してるのよ!早く100マントル見つけてきてよ!早くお風呂に入らせてよ!」
「よしフィリア。ちょっとこい」
ーーー
「あたしの有意義なスキルをこんなことに使わせるなんて許さないんだからぁぁ…ぁ」
「ありがとうございまーす!フィリア様!」
アクティビファイト。
材質がわかったのでできる限り錬金してもらったのだ。
「体力付与!体力付与!」
フィリアの体力を回復させてから、5050マントルに増えたお金を宿屋に持っていった。