表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無限スキル使いの男〜クソザコだけど幼女と世界を救います〜  作者: ちゃこる
それぞれの旅【第一高等魔術学院編】
58/63

五年。

夢だ。

またあの夢だ。


sss級クエストを終えて凱旋(がいせん)する俺の一団。

勇者の帰還だと叫ばれ、国は笑顔に包まれる。

心地よい、人々の有り様。

ずっと続けばいいのに、なんて思うけど。


俺はこれが夢だと知っている。


「どうしたの?美扇」


「ああ、フィリア。なんでもないよ」



ーーー



「ピピピッ。ピピピッ。ピピピッ」


カチッ。


俺は卯月美扇。

今日から高校二年生だ。


「ふわー。(まぶ)し」


豪華な朝ごはんを少し食べ、すぐに玄関へと向かう。


「ちょっと!美扇ちゃん。忘れ物ないの?今日から新しいクラスだけど憂鬱じゃない?体調は?お腹は痛くない?」


親バカな母だ。

毎朝これだから少し困るけど。


「全部大丈夫。行ってくるよ」


「いってらっしゃーい!」


急な坂道を自転車で下る。

この時の爽快感は筆舌に尽くしがたい。


「おはよぅ!美扇!」


「ああ、おはよう。皐月(さつき)


俺はテニス部に所属している。

全国にも行っているし、早朝練ははずせない。


「今日から新学年だってのに、ブレないよなーテニス部は」


始業式くらい休みになってもいいとは思うが。


「美扇くん、おはよ!」


「おはよー九里香」


こいつは部活もないのによくもまあこんなに朝早く学校に来るよな。


突然、皐月が(ひじ)でついてきた。

意味はわからない。


始業式が終わり、自分の教室を探した。


同じクラスに皐月も九里香おり、少し安心した。


ーーー


ん?居眠りしてたかな。


登校日初日から寝落ちしてしまうなんて。


「おはよ」


「うわっ!びっくりした!」


前の席に九里香が座っていた。


「待っててくれたのか?」


「いーや。皐月くんが見張ってろって。起きたらすぐに部活来いよってさ」


そうだ!部活!


は、確実に遅れたし、少し雑談しても平気か。


「そういやお前、新しい女友達できたの?」


「は。私が超人見知りのきょどり魔って知ってて言ってる?私基本的に知り合いとしか話せないから」


なんだか不安なことを言っているが。


「そういえばさ、今日の朝、変な夢見たんだよな。sss級クエストから帰還した勇者ー!ってやつ」


九里香が実におかしそうに笑う。


「ぷぷぷ。小学生の妄想みたいじゃん。まじ無理、笑い死ぬ」


「なんか恥ずかしくなってきたんですが」


夕焼けが刺す教室は実に幻想的で、一時的に思えた。


いつかはこの時も終わるのだと、告げていた。


「っと、そろそろ部活に行こうかな」


俺が席を立つと、九里香は袖を引いた。


「待って」


下を向いていて表情がわからないが、ドキッとした。


「待てない。俺は行くよ」


不思議な力が働いたように、俺は九里香の手を振り払った。


教室を足早に出た。


グワン。


廊下が歪んでる?


奥の方から崩れているのが見える。


「地震か?」


教室にいる九里香を呼ぼうと思ってみると、そこには誰もいない。


しかし耳元で何かが、





「 わたし もういないよ 」






ーーー




木組みの天井。


ゆっくりと上体を起こす。


「イデッ!」


神経に電流が走ったように感じて、強張った。


右を見ると、長身な女性が(たたず)んでいた。


「あんたは?俺を介抱してくれたのか?」


その女性はスッと立ち上がり、俺を抱擁(ほうよう)した。


「よかった。よかった…。おはよう、ミオ…」


聞き覚えのあるその声に、俺は驚いた。


「お、お前。フィリア?か?」


顔を離すと、女性はゆっくり頷いた。


「状況がいまいちよくわからない。教えてくれ」


フィリアは木の器に水を注ぎ、それを手渡してくれた。


「ミオってば、五年間も寝てたんだよ?」


「五年?ってことは俺は22歳で、フィリアは17歳?」


「うん、そう」


俺には聞かなくてはならないことが沢山あった。


「みんなは。作戦に参加したみんなは?」


「参加者はダァハさんを筆頭に、クレア王国の正常な復興を支援。新たな王が就いた。もちろん、ダァハさんたちはその後、自分の村に戻ったけどね」


「レアドとかリトー、ボルダーさんは?」


「いるよ、今はみんなそれぞれの旅に出てるけどね」


旅?


「レアドは、ブレアさんと一緒に王都に。多分、王都直属騎士になりに行ったのかな。リトーさんは時の村とホウル・ヴィルのあたりで修行中。ボルダーさんはつてのある所に挨拶に。世界中回ってる」


「そんで、フィリアは?ここは?」


木組みの家はたくさん見てきたが、こんなに綺麗な家を見たのは初めてだ。

まるで、地球にあったみたいな。


「ここはタミル村よ」


「タミル村!?フィリアに憑いてる悪霊のペザトリアは?」


「お、落ち着いて、ミオ。そもそも、この村の長老にペザトリアは勝てなかったのよ」


「長老ってあの白髭の?」


「うん、そう。私たちは、霊に対して物理攻撃をしてたせいで倒せなかったけど、彼は高度な除霊魔法を持ってて、ペザトリアは太刀打ちできなかったのよ」


「そんな、あっけなく」


「ペザトリア、私の中で言ってたわ。ここにいるやつ誰も知らないから呪う気も失せたってさ」


「確かに」


久々に二人で笑った。


「それで、俺の指名手配の件はどうなのよ?初めてタミル村に来た時、俺襲われたじゃん」


「それも大丈夫。指名手配はいつの間にか解かれてて、王都の手違いだって」


「なんだよそれ」


また笑った。


「俺ら、これからどうする?」


フィリアは腕を組んで考える。


「ちょっと思ったことがあるんだけど」


「お、教えてよ」


フィリアはあざとく笑う。


「二人で学校、行こうよ」


「へ?」


学校。

俺が地球で忌み嫌っていた若者の巣窟(そうくつ)

人の嫌いな俺を沢山の人が囲んだあの地獄。


「露骨に嫌そうな顔しないでよ。クレア王国での戦いの後、グロウさんが紹介してくれたの」


「グロウって、大闘技会でボルダーさんと戦ったあの白髪少年?」


「そうそう。そんでさ、試験に受かれば、キマイラ一の学院、第一高等魔術学院に通えるよ!」


「あのなー。受かればって。どんなレベルか知らないけど、一朝一夕じゃ無理だぞ」


「だから!その為の学校に行こうってこと」


「!なるほど」


フィリアがいう学校とは、即ち、日本で言う小中学校の事らしい。


「学校かあ。うーん」


「ミオが何を考えてるのか知らないけど、行けば案外楽しいよ」


うーん。


異世界の学校。

気になる。


「まあ行けたらな。それより先に、これをなんとかしなきゃな」


俺はガリガリの自分の腕を差し出した。


この世界に点滴などあるはずがない。

俺が五年も寝ていたとしたら、その間、魔法をかけ続けてギリギリだっただろう。


「ありがとうな、フィリア」


頼りない手で、あの時みたいにフィリアの頭を撫でた。


フィリアは泣きそうになり、ぐいっと涙を拭った。


「よし!それじゃあまず私のご飯を食べて!ドマゴラスの親子丼作ってあげる!」


「それってエフォートビレッジで言ってた!懐かしい」


扉を出て行こうとするフィリアにもう一つだけ聞いた。


「九里香は?」


フィリアはピタッと動きを止めた。


「あとで、一緒にいこ」


そう言って行ってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ