クレアの地、最後の戦い。
ムースはフランキスから受け取った剣を振りかざす。
動きは素人同然だが、剣の切れ味は別格だ。
「その剣、お前には相応しくないな」
バルクレアはムースを挑発しつつ、すべての剣を防いでいる。
「黙れ。バルト様の仇!」
先ほどの余裕と打って変わって、怒りを露わにした。
「お前達はなんにも。何にもわかっちゃいない!バルト様が望んで人々を苦しめてると思うのか!」
バルクレアも怒る。
「どんな理由があろうと、苦境を打破しようとするのが人間だ。自分達を神と偽り、情報を一切提供しなかったお前らが、今更なにをほざこうと知ったことか」
バルクレアは、旅の途中で、沢山の人を見た。
殆どの人は、大国の脅威に抗えずに衰退するものであった。
「何年も何年も、我は苦しむ人々を見てきた。今のホルダーがリトーになる前からずっとだ」
剣戟は勢いを増す。
「バルト様は私を救ってくださった。他にも沢山の人が救われた!」
「それは他者を切り捨てることの言い訳なのか!」
拮抗する戦いも、儚い金属音で突然終わった。
パキン。
ムースの剣、正しくはフランキスの剣、ベルラセポネが折れたのだ。
「クソッ!」
バルクレアは我に返ったように語り始めた。
「その剣は、過去に我がアルバドール・フランキスに与えたものだ」
ムースは膝から崩れ落ちた。
「我は昔から、我が信じたものには剣を与えてきた。我は剣の武器精霊。当たり前と言えば当たり前だが」
ムースの体がシュワシュワと音を立て始めた。
「奴はその力を持ってして、沢山の人を殺めた。そしてそのことをずっと悔やんでいた。もう殺したくない、だが、やらなくてはならない、とな」
「ああ、ああぁあ」
ムースはジュワジュワと溶けていく。
「奴が殺さなくては、奴の家族は殺される。今までのお前らのように。だが奴は、どちらも救いたいと考えた。結果、奴は家族もろとも自国の爆弾で爆破されたが、奴の行動があって、沢山の人が救われたんだ」
ムースの肉体は、ほぼ消え去った。
「そんな奴を、貴様が使ったことが許せん。それも、自分の身しか考えぬ貴様が!」
そこには透明のアンロックキーだけが残り、そのキーもパキン、と音を立てて割れた。
バルクレアは、消えていく自身の剣、ベルラセポネに別れを告げると、拠点へと足を向けた。
ーーー
閑散とした戦場で、一人、女が微笑む。
「あら。誰もいなくなっちゃったわ」
彼女は右手を掲げると、何かを詠唱。
手元にはリモ電がある。
「もしもし。私よ、わ・た・し。クレア王国は何者かによって陥落。全く見たことのない方々ばかりでしたわ。でもその渦中には、やっぱりあの子。ウヅキ ミオウちゃん。後ついでにナガツキ クリカちゃんもね。ふふ、アリス・シュバルツァーもいたかしら」
彼女は詠唱で生成した黒い空間を突き進む。
「アリスちゃんったら、クリカちゃんが死んだことにも気付いてないのね。それにしても、ミオウちゃんの暴走みたいなやつ、なんなのかしらね。あなたにすんごく似てる」
彼女はもう遠くになった戦場を横目に歩き続けた。
「ね、サツキ様」