五体五、其の肆
この世界に於いてもなかなか珍しい、互いがアンロックキーを用いたバトル。
この世にはこの状況に熱狂する輩もいるだろうが、こっちは本気だ。
ワクワクなどしない。
「人間の英雄。それもキマイラ帝国建国時の軍隊長」
「これは手強いわね」
バルクレア、スピノスは、彼を直に見たことがあった。
例のキマイラ帝国建国時代、二人は武器精霊として存在していた。
その頃の所有者など覚えていないが、彼、アルバドール・フランキスが理不尽に強いことは覚えていた。
ムースが口を開き、二人は身構えた。
「そんなに怯えないで頂戴。私はこのヒーローキーについて教えたいだけ」
二人は構えた武器をそのままに聞いた。
「ヒーローキーはもちろん英雄を呼び出せる。ただし、ただ呼び出せるだけじゃないの」
ムースが手を差し出すと、フランキス軍隊長はその手に彼自身の武器を預けた。
「彼は私に絶対服従よ」
フランキスは命じられたように目を鋭くさせる。
その眼光に、武器精霊たる二人でさえ、慄いた。
殺意。
純粋で、重々しく、受け止めきれない。
「スピノス、こんな奴倒せるか?」
「お生憎様、私はキマイラ帝国軍派だったから剣を交えたことはないわね」
空気が強張る。
「それじゃあ、そろそろやっちゃいなさい。フランキス」
「ああ」
フランキスは目を見開き、跳躍。
そのまま空中に止まると、彼を中心に大きな黒い球体が出現した。
「あれなに?」
「我にはわからぬ」
黒々とした物体は急速に落下。
地面に到達すると、そのまま勢いよく爆ぜた。
「フハハハ。私はアルバドール・フランキス!キマイラ帝国軍隊長。國爆破の男である!」
「彼の異名!國爆破!思い出したわ。私の契約者の隊の隊長で、圧倒的な火力で、相手に認知される前に爆破し戦いを終わらせた男!」
「よく知っているではないか。爆破とは力!力とは爆破である!」
絶え間なく爆弾は投下され続けた。
「クソ!手出しができないではないか」
「もー!しょうがないわね!人間の癖に」
スピノスは手を掲げた。
その動きに呼応するように、スピノスの周囲から幾千本の槍が生成された。
「行きなさい!我が眷属よ!」
槍が不規則に射出され、フランキスは少し焦るが、流石は國爆破の男。
全てを爆破し、相殺した。
「なんて火力!勝てっこない」
スピノスが槍で応戦する間、バルクレアは考えていた。
「あの爆弾はムースとかいう女の魔力から生成されている。さらに言えばフランキスも。ならば、先にあの女を倒すのが先決だな」
即決すると、躊躇なしにムースの元へと飛んでいった。
「ふうん。ちょっとは魔法に詳しい奴がいるのね」
「こんなの初歩だろうが。馬鹿にしているのか?貴様」
一方、スピノスは拮抗した状況を覆せずにいた。
劣勢に回っているわけではないが、彼の上に行かなくては爆弾を喰らい続ける羽目になる。
レアドとは魔力の相性が良く、低コストの活動エネルギーで契約できているが、それでもまったく魔力を消費していないわけではない。
何千も槍を生成すれば、もちろん、レアドへの魔力の負担が大きい。
下手したら、レアドの魔力切れで現世との繋がりが途切れてしまうこともある。
少ない手で、強敵を倒さなくてはならなかった。
「ククク。槍の本数の減少が顕著だな。もう疲れたのか?そこの」
スピノスはキッとフランキスを睨むと、深呼吸。
「第二隔壁解放。スピノス・レイジ」
詠唱すると、スピノスの桃色の衣服が弾け、新たに灼熱色の羽衣が生成された。
「ゆけ!我が眷属たちよ!」
生成される槍は、一本一本が先ほどよりも鋭く、熱く、怒りを纏っている。
熱気が、フランキスが生成する爆弾に触れ、爆弾はすぐに爆破した。
「ぬあっ」
「うああああ!」
スピノスが咆哮し、最後の一槍をその手で投げた。
「槍乙女の怒り!」
爆弾はフランキスの眼前ですべて爆ぜ、槍がその体を突き抜けた。
「フグっ。我が二度目の余生、こんなにも儚いとはな」
そう言い残すと、フランキスは白い光の断片となって消えた。
「な!そんな、嘘でしょ?」
一連を見ていたムースは目を見開いた。
「ふん。馬鹿め」
バルクレアが嘲笑すると、スピノスもまた、白い光の断片となっていった。
「あはー。ちょっとやりすぎちゃったかなー。後は頼んだよ、バルクレア」
そしてスピノスも、散り、消えた。
「ふ、ふふふ。おあいこね。おあいこならまあ、いいわね」
ムースは余裕を取り戻して笑って見せた。
ムースの手には、先ほどフランキスが手渡した彼の愛用の剣。
ベルラセポネ。
「その剣。そうか、そうだったな」
バルクレアがふっと笑うと、それを不愉快と思ったムースは怒った様子だ。
「なによ。理解したような口ぶりで」
「そりゃしたさ。まさか、こんなところで出会うとはな」