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無限スキル使いの男〜クソザコだけど幼女と世界を救います〜  作者: ちゃこる
金の民救出作戦【クレア王国編】
53/63

五対五、其の壱

「お前、孤児か?」


何だこの男。

突然話しかけてきやがって。


みんな私を避けるのに。


「疫病神?なんだ、神様じゃねえか!おい、俺の軍門に下れ。いい思いさせてやるよ」


それから私はその男の拠点に行った。


そこには、とても多くの兵士たちがいて、その訓練姿は勇ましかった。


「お前の名前は今日からサーキュラーだ。今、我が軍には魔法使いが不足していてな。どうだ、やってみろ」


こうして、その男は私に居場所をくれた。


ーーー


「ここが、疫病の村か」


「はい。バルト様。死体も数体確認しています」


ティナシオスグループは、疫病が蔓延(まんえん)するのを食い止めるため、病人を片っ端から殺していた。


回復系のスキルや魔法使いが居ないのだ。

仕方がない。


「おいおいサーキュラー。様付はよせ。むず痒いだろ」


サーキュラーは頭を下げる。


「それは出来ませぬ。恩人を呼び捨てになど」


バルトは悩む。


上に立つものが、果たしてそれでいいのか。

威厳は重要だ。


「うむ。わかった。それでいい」


バルトを先頭に、村の中央を馬で駆ける。


「おい、ちょっと待て」


バルトが急に立ち止まると、隊は戦闘態勢になる。


「まあ待て、お前ら」


そこに居たのはやせ細った少年。

見るからに疫病にかかっている。


「なあ、お前。病気にかかっているそうだが動けるのか?」


少年はぼさっと起き上がる。


「うるさい」


少年の腕から無数の糸が伸び、(たちま)ちバルトを(まゆ)で包んだ。


バルトはそれを軽々と引きちぎると、少年は驚く。


「な、なんだお前。あっち行け!」


バルトは、今にも折れそうな少年の腕を掴んだ。


「スキル持ちか。この疫病は貴様のスキルだな?どうやってスキル書を手に入れた」


少年は驚いた顔のまま答えた。


「し、商人が来た時に偶然…そ、それ以外は知らない!」


「ま、そんなことはよい。それより、お前のスキルで何が出来る」


少年は渋々答えた。


「く、蜘蛛の糸。それと、毒が使える。これは副産物みたいなもんだ」


「その毒が疫病の正体か。うむ!貴様、我の軍門に下れ」


サーキュラーは驚きを露わにする。


「き、危険です!バルト様。こんな刃物のような少年を…」


「よい!我が決めたことだ。貴様は今日からウェブと名乗れ」


こうしてウェブは強引に基地へ連れていかれ、殺人術を叩き込まれた。


毒は兵器に利用された。

ウェブにとって必要とされている状況が、たまらなく愛おしく思えた。


ーーー


「バルトさん!朗報です。上級スキル書が手に入りました!どうぞ」


「ふむ」


上級スキル書。

初めて見たな。

通常のスキル書と比べると分厚く装飾も華美だ。


上級スキル書を作れる職人は極少だ。


「おい、パティを呼んでこい」


「へ?り、了解しました!只今!」


パティはバルトの軍の古参で、誰もが知る英雄である。


「なんだどん。親分」


「パティ。これをお前が使え」


「こ、これは!いいのかどん?」


パティは言われるままに上級スキル『超振動』を手に入れた。


「励め」


「仰せのままにどん」


ーーー


「巷で、魔法使いとやらが粗相してるらしい。どうだ。一度会ってこようか」


バルト率いる軍は、その魔法使いが籠城していると言われている古城へと向かった。


古びた門。

今にも崩れそうな廊下。


ただ臆せず進む。


進む先に、隙間から光が漏れているのが見えた。


「あそこだな」


思い切り扉を蹴り破ると、そこには年端もいかない少女の姿。

そして大鍋。

中には大量の、死体。


「その死骸、我が兵ではないか。貴様何をしている」


「し、しょうがないじゃない!こうするしかあの闇渦は避けられないんだから!」


「闇渦?ツェツェルコアトリプスか」


ツェツェルコアトリプスは天空の害獣。


数年に1度、地上に訪れてはその固有スキル『闇渦』を使って大量の人を連れ帰る。


大天災だ。


「貴様は一人でその厄災に立ち向かうと(のたま)うか」


魔法使いは無表情のまま大鍋の中身をかき回し続けた。


「貴方の兵士には悪いと思ってるわよ。でも、こうでもしなきゃまた私の仲間達が殺される。そんなのもう嫌だから」


涙を堪えているのか。


「そうか。ならば我が兵達も本望であろう。そして手伝おう。我々から災害を退けようなどと考える良識人一人に重荷を担がせるわけにはいかぬからな」


そうして魔法使いの魔術は完成し、バルトの軍の協力もあって、ツェツェルコアトリプスを追い払うことに成功した。


「貴様、身寄りはないように見える。どうだ。これを機に我が軍に入らぬか。我が軍は魔法使いが不足していてな」


魔法使いはにぱっと笑う。


「もちろんよ!私を理解してくれたのは貴方達が初めてだもの」


「そうか。なら、お前はムースと名乗れ。その名を空前の大魔術師として轟かせてみせよ」


ーーー


「ブレアさん、ブロウさん。副団長と思しきローブの女の情報はないから危険です。注意してください」


「ああ。言われなくても」


ブレアは洗練された動きで剣を抜いた。


ブレアの抜剣。

竜殺という異名を持つのは伊達ではない。

彼が剣を抜けば、敵は跡形もなく四散するとも言われている。


黄金の柄。

竜の造形を模した鍔。

スラリと光る純鉄の刀身。


優美で豪快な剣。

魔剣・ティルヴィング。


「行くぞ」


ブレアは己の筋力のみで戦場を駆ける。

これだけで十分超人だ。


ブレアが狙いを定めたのはパティ。

間接的ではあるが、既に複数の仲間を殺している。

そして上級スキルを持っていることも危惧の原因だ。


「儂も行くかの」


ブロウはその巨体に似合わない速度で跳躍。


「暴風!」


狙いはウェブだ。


「キリリ、蜘蛛の糸」


ウェブは上空に無数の蜘蛛の糸を放つ。

毒を持つ危険な糸。

ブロウはそれらを『暴風』で軽く吹き飛ばす。


「相性が悪かったのぉ。小僧」


ウェブは舌打ちをすると、『蜘蛛の糸』を使い、崩れかけの城へと逃げる。


「逃すかぃ!」


ブロウはそれを追った。


「グロウくん・・・だっけ?魔法かけてくれたの?何を?」


ダァハはどんな魔法をかけられたかわかっていないため混乱していた。

ダァハはただの狩猟民族なのだ。

無謀にさえ思える。


「まあいいや。とにかく、一発打ってみるかな」


簡素な弓をキリリと引く。


「お、筋力は上がってるな」


そして徐々に魔法の効果を自覚していく。


「やっ!」


放たれた矢は青い閃光を撒きながら、人が射ったとは思えない速度で飛んでいく。


矢先にはサーキュラー。


「円刃!」


サーキュラーは『円刃』で矢を一刀両断。

裂けた矢は二つの閃光に分裂し、やがて消えた。


「この人間風情が・・・」


「おおー。怖いなー。流石は神様」


ダァハがおちょくると神は癇癪(かんしゃく)を起こす。

その怒りのままに詠唱した。


「時空系第一隔壁、ディストーテッドルーム」


空間がぐにゃりと歪む。


「・・・なんだこれ。俺がおかしくなったのか?」


「いや、愚かな人間は真っ当だよ。これは私の尊き魔法。ディストーテッドルーム。空間を歪める魔法」


「そりゃ親切にどーも」


三組の戦いの最中、また新たな戦いは始まっていた。


「貴方達、武器精霊よね?私魔法使いだから分かるのよ。かくいう私も、アンロックキー。持ってるんだ」


そういうとムースは一本の透明な鍵を取り出した。


「な、なんだあれは。僕とリトーさんのアンロックキーとは全く違う!」


第一高等魔術学院首席生徒グロウは答えた。


「アンロックキーにも種類がある。一般に流通しているのはコモンキー。大闘技会の優勝商品だった破邪神のアンロックキーのような黒いものはエピックキー。そして透明なアンロックキーは、ヒーローキーだ」


「ヒーローキー?英雄の鍵?」


グロウは眉間にシワを寄せた。


「ああ。ヒーローキーは特殊だ。コモンキーでは武器精霊、エピックキーでは特異精霊を呼ぶことができるが、ヒーローキーで呼べるのは過去の英雄だ」


「例えば、ファルコブラッドとか・・・クレイ・バスケットさんとかですか?」


「ああ、恐らくな。でもこれは噂に過ぎない。俺も実物を見るのは初めてだからね」


ムースは詠唱を始めた。


「あいつにアンロックキーを使わせるな!」


グロウが叫ぶと、共鳴したように、バルクレアとスピノスは己の武器を手に取った。

二人が完全な人の姿となった所で、一気に間合いを詰めた。


ガイン。


金属音が響く。


「遅かったか」


出現したのは、人。

彼が英雄なのか。


「さあ、貴方の名前を言いなさい」


ムースが命じると、英雄は最も易く名を(つむ)いだ。


「私はアルバドール・フランキス。キマイラ帝国軍隊長を務めた者だ」


威圧。

流石英雄と言われるだけある。


それに、彼は一人で、バルクレアとスピノスの攻撃を受けていた。


「さあ、久々の戦乱よ。私を存分に楽しませよ」

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