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無限スキル使いの男〜クソザコだけど幼女と世界を救います〜  作者: ちゃこる
金の民救出作戦【クレア王国編】
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金の民救出作戦、其の玖

五十螺旋剣(ごじゅうらせんけん)


ミーヤから放たれたカマイタチの如き斬撃。


既に崩れている廊下をさらに抉り、地面が抜けた。


その斬撃の矛先のグロウが無事なはずがなかった。


「あ…が…」


「ふぅふぅ…貴様がいけないのだ。クズよ」


ミーヤは気が晴れたのか、顔色が戻っていく。


「うーん。何が起きたのぉか」


ラフィールも続け様に起き上がる。


「ラフィール。お前だらしないぞ。本当に九つの神の一柱か?」


二人は立ち去る。


残党を駆除するために。


ーーー


ボロボロのラディアンスの元に、戦闘班と特別班が手助けに参じた。


「ほぉー。お前がクレア王国国王、バルトか。ボスフォア上層部に言われて偵察(ていさつ)に来た(ついで)に作戦に参加したけど、まさかこんなに大事になるとはね」


ブレアは王都直属冒険者のパーティー、ブレッシングズのリーダー。

特例を受けることもしばしばだ。


「うむ。貴様は王都の犬。ブレアだな?ふふ。話には聞いているぞ」


バルトの方も、当然のようにブレアのことを認知していた。


「我としても、今王都と事を起こそうとは思わん」


一触即発。


両国の権力者の直接対面。


下手をすれば国同士の戦争に発展しかねない。


「そんじゃ。仲間を返して貰えないかな」


「それはできん。こやつらはもう我の軍門に下った」


勝手なことを。


バルトは確かに強い。


だが、こいつの下につくくらいなら死んだ方がマシだ。


「嫌だ」


「ミオウ?」


主張せずにはいられない。


いつ以来だろうか。


自分の主張を口にするのは。


「嫌だ!」


動け。

動け、俺の身体。


矜恃(きょうじ)のみで持ち上げる。


立ち上がる。


「フィリアが待ってる」


天が大きく(うごめ)いた。


これは。感じたことの無い力。

一歩間違えれば邪悪に染る。

そう感じた。


「ミオウ!」


「お前を許さねぇええぇぇえ!」


光球。

ではない。

闇の塊が飛来。


俺に(まと)わりつく。


邪悪なる力。


勇者邪念撃(フルブレイバー)


意識が飛ぶ。


あ、ダメだ。


ーーー


ーー



「ミオウ!」


なんだあれは。

光球(ラディアンス)とは真逆の存在だ。


俺っちにあんな邪悪を見た記憶はない。


魔王軍。

憎しみに満ち溢れた貴族。

黄金教徒。


そのどれとも違う。

絶対的悪。


「ミオウダメだ!落ち着け!」


これ以上暴走が激化すれば、俺っちでも止められなく。

それどころか、七大腕・王都直属騎士団・王都直属冒険者が束になっても厳しいだろう。


「もう意識はないのか!ブロウさん。もう俺たちで止めるしかない」


だが、どうすれば止まる?

ミオウは全スキルを有している。

急激な怒りがその力を最大に引き上げるという。


流星(メテオ)!」


一際大きな隕石を直接叩き込む。


が、闇は隕石を飲み込んだ。


「なんだこれ!?闇渦か?」


(はるか)上空に生息するツェツェルコアトリプスの固有スキル『闇渦』。

周囲の物質を塵として吸い込むという。


「そんなら儂らにゃ手の出しようがないぞ!」


バルト。


あの化け物でもこの闇を恐れるのか。


ふと、自分の体が引き摺られていることに気がつく。


「まずい!みんな逃げろ!」


吸い込まれたら死ぬ。


バルトは踏みとどまっているが、それでも徐々に体が動く。


「うぬ。ぬぁ…ぉぅ」


声が吸われた。

そこからは早かった。


「おいおい」


気づけばバルトは消滅していた。


「ウガァァアァアアァギギギギギギ」


なんという音。

細胞が悲鳴をあげている。

本能的に恐怖を感じている。


ふ…


なんだ陰が。


人影。


「あ…」


クリカ。


吸いこまれ…



ーー


ーーー


なんだここ。


俺は自分がどこにいるのか分からなかった。


果てしない闇。

まるで過去の写鏡を覗いた時のようだが、性質が違う。

禍々しい闇だ。


「よお」


バルト。


なんでお前がここに。


バルトはいつも通り冷静。


「貴様が我を呼び込んだのだろう」


呼び込んだ?

どういうことだ。


「貴様が暴想したせいだ。激怒の勇者よ」


激怒の勇者?

なんのことだ。


「もう我も死ぬ。いや、もう死んでおるな。これは残留思念のようなものだ」


死んだ?

誰がやったんだ?


でもこれで、フィリアは救われる。


「激怒の勇者よ。キマイラには八人の勇者が外界より召喚せしめられた。その内の一人が貴様だ」


バルトはどかっと座り、胡座をかいた。


「そしてもう一人が、クリカという女子だ」


九里香も勇者?


確かに、俺も九里香も日本から来た。

その点では腑に落ちる。


「そやつは模倣の勇者だ。そら、もう来るぞ」


もう来る?

どういうことだ。


「こんにちは。美扇さん」


九里香?

どうしてお前もここに。


「あはー。私も死んじゃったみたいです。でも、無理もないですよね。あんなに傷を負ってたし。私弱いから」


それも俺の暴走のせいなのか?


最悪だ。


「いいんですよ。美扇さん。私、楽しかったです。日本では鈍間(のろま)だった私が少しでも役に立てたのが、嬉しいから」


そんなの。

そんなのダメだ。

俺もお前がいなきゃ、強くなれない。


「いいんですよ。いいんです。あなたは充分強いじゃないですか」


…。


「おいおい。湿っぽいのは止めろ。我はそんなことを話にここにいるのでは無い」


(うるさ)いな。


「そう怒るな。いや、しかしそれが貴様の本性か。 なぜわれがこのことを知っているか。それは、神から忠告があったからだ」


神?


「神の写鏡。一国に一台置かれている。それから稀に、神という存在から交信を受ける。そこに記されていたのだ。八つの星。世界の流転」


そんなの聞いたことがない。


もっと簡潔に言え。


「まあ焦るな。貴様らには使命があるようだが、何分、神が多忙なようで、何も知らされていなかったのだな」


ああ。

気づけばこの世界にいた。


「なんと豪快な神々よ。わろけてくるわ」


笑ってる場合かよ。


「お前らのやることは、女神、レイラルタの救出だ」


レイラルタ?

聞いたこと無い。


「我も詳しくは知らぬ。神は豪快なのだ」


まったくわからん。


俺らは召喚された勇者ってことしかな。


それと、なぜお前らは金の民をさらったんだ。


「なんという訳もない。報復のためだ。我もボスフォアに一泡吹かせたいと思っていたのだ。丁度お前らのように」


そんなくだらないことで、フィリアを悲しませやがって。


「それが王の有り様だ。貴様の杓子(しゃくし)で測るでない」


…。


「もうそろそろ話も終わりだ。あとは二人で仲良く別れを惜しめ」


バルト。

消えた。


九里香。


「はい」


ごめんな。


「気にしないでください」


ありがとう。


「こちらこそ」


短い時間。

その中で幾度となく助けられた。

九里香なしで作戦など立たなかった。

ここまで来れたのも全部、九里香のお陰だ。


「そうですか。よかった」


ぽろぽろと涙が零れる。


しばしの沈黙。


「美扇さん。私もそろそろ行かなくちゃ」


…。


「最後に」



「あなたに会えてよかった。本当によかった」





「元のあなたに戻してあげます」










複製(コピー)ーーー











模倣の勇者。

彼女は勇敢な勇者の一人。

この世の森羅万象を模倣する者。


ーーー


俺は暗闇から解放された。


「ミオウさん!」


「九里香…九里香ぁ」


ここは…。


「ミオウ…」


周囲はやたら滅多らに破壊されている。


ブレアやブロウもボロボロだ。


「…九里香は?」


皆が顔を伏せる。


「…彼女は任務を全うしました」


リトーは肩を震わせながら告げた。


あまりにも酷い告白だ。


「ああ。そっか」


夢ではない。


「そっか。そっか。あぁ…」


咽び泣く。

嘆く。


嗚咽が響く。



俺は今日、仲間を一人殺した。

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