俺、村を発見
「ぐあ〜。疲れた〜。元引きこもりにこの仕打ち…憧れていた異世界は俺に優しくないなぁ〜」
こんなに汗をかくことなんて、今まであまりなかったのではないだろうか。
「みおにい、情けない」
いつの間にか、みおにいちゃんから、みおにいへと省略されている。
俺達の心が徐々に近づいている証拠…
であれば良かったのだが…
「しょうがないだろ〜。俺は最近まで全く運動してなかったの。疲れても仕方ないの〜」
自分より五歳年下の少女に言い訳をかます。
縋り付くように少女が錬金した水をがぶ飲みする。
「あまり一気に飲まないで!錬金するの疲れるんだから!」
少女、名をフィリアは、この数日ですっかり俺と接することに慣れ、恐れを知らない強気の口調で言い放つ。
しかしこの責め立てには返す言葉もない。
あれ。
なんか俺が思ってた性格と違う。
なんかもっと優しくて麗しい女の子だと思ってたのに。
なんか、冷たい。
少女の冷たさがこの猛暑帯の中で際立つ。
「失礼しました」
思わず謝ってしまった。
『錬金』にどれほど体力を使うかはこの数日で嫌というほど体感した。
ーーー
数時間前のことだ。
「キャァァァぁぁ!フィリア様たぁすぅけぇてぇーーーーー!」
情けない声を上げる俺。
「ッ!錬…き…」
倒れるフィリア。
「フィリア様ァァァァ!?!?!?」
俺を追いかけているのはでかいサソリ。
ところでまずい!
フィリアは倒れたため俺が劣りになる作戦が通用しない。
とはいえ俺に一発で巨大サソリを倒すスキルはない。
「カマイタチ!カマイタチィッ!」
鋭い風で敵を切り裂くことが出来る(はずの)スキル『切風』を発動させる。
が、落ちこぼれパワーの俺では傷一つつけることが出来ない。
すると、手前に砂キリバスが見えた。
キリバスギリギリで横に避けるぞ!
横に避けるためキリバスギリギリで右足に力を入れた時。
ざざざざっ!と砂が音を立てて振動し、キリバスが割れ始めた。
ひぃぃぃぃ!こんな崩れやすいの!?
俺はどんどんと広がる穴に引き摺り込まれていった。
巨大サソリは体重が俺よりも重いため、俺よりも早く落ちていった。
気づくとキリバスは円状の広い穴となり、その中心には巨大サソリ以上あるサイズの巨大アリジゴクが待ち構えていた。
真っ先に落ちた巨大サソリは巨大アリジゴクのもとへ滑り落ち、昆虫類とは思えない程の大口を開けた巨大アリジゴクに飲み込まれた。
やばい。
本当に死ぬ。
ここで終わりか…。
その時、走馬灯のように思い出した。
異世界は思ってたのと違うし。
寿司Tシャツ盗られるし。
闘技場と思しき場所で巨大イノシシと戦わせられるし。
テレポートでは位置がわからない乾燥帯に来ちゃうし。
やたらとでかいモンスターに襲われて死にかけるし。
もう散々だ。
このクソみたいな世界、消えちまえ
刹那、俺は再びあの光に包まれた。
闘技場で巨大イノシシと戦わされた時に突如現れたあの光だ。
プリズム反射のような光が、俺を包んだ光の天頂から巨大アリジゴクを目掛けて一気に発射される。
その光は巨大アリジゴクと呑み込まれた巨大サソリ諸共貫き、砂も一キロメートルほど割って薄れていった。
その後身体は宙に浮き、雪崩落ちる砂の淵へと戻った。
「なんだよ今の」
この体験で俺のスキルについて大まかに推測できた。
俺は心の底からの怒りが沸点に達すると、自動的にスキルがブーストアンドリリースされ、窮地から脱するとこができるのだ。
あくまで推測だが。
それが本当だとすると、超パワーを使える場面が限られる。
もっと簡単な動作が鍵ならばよかったのに、と、落胆した。
本当に不便だ!このスキル!まあ助かったけど!
その後フィリアに『体力付与』を唱え続け、十分に回復してから再びあるかも分からない村へと歩き始めた。
ーーー
フィリアにばかり頼っていられない事実とともに、最後の切り札を知ってしまった。
しかも、怒りがなければ発動しない。
それも偽りのない怒り。
本気の怒りとは案外起こりにくい。
その旨はフィリアにも伝えた。
「不便だね」
最高の笑顔。
こいつ…完全に舐めてやがる…。
今すぐ怒りの超パワーで陵辱してやろうかと目を光らせた。
するとそれを察したのか、フィリアがすっと手を差し出し、昼食用のパンを砂に戻そうとしたので急いで謝った。
ーーー
「また一日が終わっちまうぞ〜。本当に何も見つからないな」
もういっそ諦めてしまおうかと思ったその時。
「…みおにい。あれ見える?」
んん〜?
目を凝らすが、よく見えないので『千里眼』、と呟き続け遠くを覗く。
あ。
「ある。見える。見えるよ!あそこに村がある!」
できすぎた話だとは思ったが、ひとまず歓喜した。
フィリアと手を合わせて飛び跳ねて喜んだ。
「って!気安く触るなぁー!」
マセガキ、フィリアに手を弾かれた。
ーーー
「村人がいる…」
久しぶりの人混みに、引きこもりで人見知りの俺でも涙が出そうになった。
「ねえねえ、みおにい。お腹すいたね」
そう言えば昼食にパンをかじった以来何も食べずに砂場を歩き続けてきたのだ。
商店街と思しき通りを歩きながらめぼしい食べ物を探す。
「みおにい、見てみて!これ!おいしそう!」
フィリアが指さしたのはサクッと揚がったコロッケもどき。
「ここ、これ、にこくらはい…」
人と話すのに慣れていない俺は変な声を出してしまった。
死にたい…。
「はいよ!50マントルだ」
「ありがとうございます」
って、え?
50マントル?
「あの〜、まんとるって〜?地球内部のマグマ溜りのこと?…ではないですよね…」
「なんだい兄ちゃんたち、お金、持ってないのかい?」
「は、はい」
「んじゃ、これは売れないな。帰れ帰れ、冷やかしはゴメンだ」
ーーー
作戦会議だ。
どうやらあれがこの世界の通貨みたいだ。
「おい、フィリア。あれ、錬金できるか?」
「材質がわからないとできないよ」
くっそ〜、スキルってのはところどころ不便な能力だな!
しょうがない、あの手を使うか…。
ーーー
「ねえねえ、おにいちゃんたち。あたしあれがほしいのにおかねがないの」
幼女の上目遣いに頬を染める青年二人組。
「ちょうだい?」
上目遣いプラス涙目の効力が発揮された。
ーーー
「貰ってきた」
悪い顔でお金をちらつかせるフィリア。
あーこいつ。
悪い女に育つぞ。