金の民救出作戦、其の漆
「クソっ!九里香をどうするつもりだ!」
バルト。
作戦会議で聞いた名だ。
名乗っていた通り、こいつはここの国王。
危険な存在だ。
「あ?どうするもなにもー。もう死んでるんじゃない?」
ズブッ。
九里香の腕にナイフをゆっくりと押し込んでいく。
「きゃぁああああぁ!!」
「やめろおぉぉお!」
体が動かない。
なんで。
なんでだよ。
なんであの時俺は、作戦を無視しちまったんだ。
「ボウズ。クリカ嬢ちゃん…」
ボルダーさんの声。
助けに来てくれたのか。
「おいおい。これ以上役者はいらねぇ。とっとと立ち去ってもらおうか」
「そういうわけにはいかん。そこの仲間2人。きっちり返してもらうぞ」
ボルダーは剣を構える。
恐らく、先程の戦いを見ていたのだろう。
あれだけの猛攻を耐え抜いた男だ。
警戒するのは当たり前だ。
「即危険・駒切り」
目にも止まらない。
いや、そんなレベルではない。
時間を止めていたのだから、見えないのは当たり前である。
もちろん、バルトの体は細切りになった。
のだが。
「なんだ?」
バルトの肉片が蠢いている。
スライムのように一点に集まる。
そして、体は元通りとなった。
「はぁ。困るんだよなぁ。これだから外界は危険なんだ。それに。雇っていた黄金教徒。奴らは何をしていたんだ?」
妙な落ち着き加減だ。
何事も無かったかのように。
「貴様。どんなスキルを持っている」
「破壊と再生。死と生」
動く。
誰もがそう直感した。
「おうっ!」
「ぐはぁっ」
ボルダーは吹き飛ばされた。
体はねじれ、血が吹き出す。
数百メートル先でやっと衝撃が収まった。
「がふっ。…間に合わんかったか」
「ボルダーさん!」
バルト。
この男は俺を片手に持ち、あんな素早い動きを。
「何してんだよ!下ろせ!」
「チェンジ!」
浮遊感。
気づけばレアドの側にいた。
レアドが自身のスキル、『空間転移』を使用したのだろう。
「カマイタチっ!」
斬撃。
バルトは危なげなく避けると、突進してくる。
「リトー!避けろっ!」
あまりの速さに反応できない。
「チェンジ!」
レアドが『空間転移』を試すも、対象となる空間からバルトはいち早く抜け出した。
「駄目だ!止まらない!」
その速さをも凌駕する一撃。
数百メートルあるであろう地点から一直線に煌めきが飛んでくる。
「ぬぅあっ!」
とても静謐。
音のない一撃。
「塵」
突風。
いつしか雲は灰色に染まり、雨粒が落ちてきだす。
先ほど以上に細かく切られたバルトの肢体は、目に見えないほどであった。
その名の通り、塵。
バルトは塵と化した。
塵はボルダーさんの絶対秘体技。
必殺だ。
俺たちは一瞬緩んだ気を、瞬時に取り戻させられる羽目となる。
「…なんだ今の一撃。全く見えんかったぞ。そうだ。お前も我の軍門に降れ」
「…たわけ」
ボルダーはそのまま倒れ込む。
絶対秘体技なのだ。
これで倒せなければ、もう手はない。
ラディアンスは絶望した。
俺たちではこいつを倒せない。
「フィリアぁ…ごめんなぁ」
ごうっ。
風。
「謝るのはまだ早いんじゃないのか」
「そうだぜー。ミオウ。俺っち達がいるだろ」
「ブロウさん。ブレア。それにみんなも」
戦闘班、特別班のメンバーが異変を察知し駆けつけた。
「さあ。こっからは俺っち達との勝負だぜ。バルト国王殿よぉ!」