金の民救出作戦、其の陸
ボルダーさん、フィリアにはとてもすまないことをした。
でも今、傷ついている人を放って置けない。
「頼む!間に合ってくれ」
すぐ横の窓に飛び込む。
ガラスが飛び散り、軽い痛みが襲う。
「くそっ!」
「回復」
傷は瞬時に塞がった。
俺と九里香は向き合って、笑った。
「行けるぞ!」
向こうでは爆発めいた衝撃音が鳴っている。
俺達は最速でそこに向かう。
俺たちが見たのは、異常な光景だった。
城下の大きな一本道を九人が闊歩している。道の横には夥しい人。
それも全員が土下座、否、祈っている。
口を揃えて呪文を唱え、九人を神と敬っている。
そこに場違いな集団が飛び込んでいる。
俺たちの仲間だ。
「一番槍のホライゾン!貴様の首いただいたぁ!覚悟ぉ!」
そのうちの一人が飛び出し、九人のうちの一人の大男に切り掛かった。
「んぉあーばくばく」
「く、喰われた!?」
一同は皆、驚愕。
そして祈る人々は斉唱。
「ああ!我らが九つの神の一人!ラフィール様よ!何と偉大!何と豪快!我らに寛大なる救済を」
「いやだね。小汚い」
そういうとラフィールと呼ばれた大男は、街路で祈る数人を掬い上げると、その人達もまた、飲み込んだ。
なんて奴だ。
「おい!九里香!行くぞ!」
「はい!」
距離は百メートル以上はあるだろう。
だが、届く!
「分子破壊!」
「分子破壊!」
「電子移動!」
「電子移動!」
「いけっ!破壊光線コンボ!」
二つのスキルは合わさり、一つになると、轟音を立てて九里香から放たれた。
一閃。
破壊光線は真っ二つに裂かれ、空を弾けた。
「な、なに!?」
初見でこのコンボを見切るなど、考えられない。
「ああ!我らが九つの神の一人!ミーヤ様!何と美しき剣技!美貌!我らに慈悲ある一振りを!」
ミーヤと呼ばれた長身の女は、お望み通りと言わんばかりに、剣を横一文字に振り下ろした。
当然、真横で祈りをあげていた人々はバラバラに切り裂かれ、街路は鮮血に彩られた。
「何だあいつら!自国の民を!」
俺は怒りが抑えられなかった。
来る。あれが。
「ウアァァァァァ!!!」
天はトグロを巻く。
光が一直線に俺に降り注ぐ。
光球が俺を包み、極大な力が流れ込む。
「あ?なんだぁ?」
九人の真ん中に立つ男が振り返った。
「オメェこそなんだよ」
俺の体は『瞬足』でその男の前に移動。
大量の『悪毒』を体内から生成。
残り八人は四方八方に飛ぶ。
『念動力』で近くの人々を城内へ移す。
ミサイルの如き大爆発を起こし、追撃として鉄槌が無数に降り注がれる。
怒りは限度を超えていた。
こいつのせいで仲間は死んだ。
こいつのせいでたくさんの人が苦しんだ。
こいつのせいでフィリアは泣いた。
『流星』を降らせ、『切風』で周囲を切り刻み、『刹那斬』で大地を裂く。
天変地異と見間違うスキルの嵐。
敵の姿はすでに見えなくなっていたが、それでも俺は止まらなかった。
いや、止まれなかった。
なんだこれ。
どうなってる止まらない。
このままじゃ全部壊してしまう。
怖い。
怖い怖い。
誰か助けて!
「美扇さあぁぁぁぁん!」
九里香?
九里香は俺のスキルを複製しては放ち、放っては複製し、を繰り返し、ついに光球を割った。
俺は眩み、倒れ込んだ。
今まで暴走したことなど一度もなかったのに。
九里香は俺のそばに来ると、倒れ込んだ。
「九里香・・・。ごめん。大丈夫か?」
俺も動くことができない。
「う・・・ん。平気。でもみんなは?」
周りは瓦礫だらけ。
しかし住民や仲間はみんな避難させたはずだ。
「多分平気だ」
俺たちは笑った。
とてもそんな状況ではないが。
グザッ。
聞いたことがないような音が響く。
「九里香?・・・九里香ぁ!おいしっかりしろ!」
体が動かない。
「あぁ。なんて獰猛なんだ。こりゃいいや」
「うぐっ」
痛む体を何かが持ち上げた。
「だ、誰だ」
おい。
なんでこいつ生きてんだよ。
「先の攻撃。なかなかであった。我はクレア王国、直属傭兵団ティナシオスグループ団長、及びクレア王国国王。バルト・レジナンテだ」