金の民救出作戦、其の伍
俺と九里香は透明化のスキルを使用し、城内を堂々と走り抜けた。
勿論、その他多数のスキルをかけておいたが、九里香にここで体力を消耗させるわけにはいかないので、必要最低限だ。
「疲れてないか?」
「う、うん。平気。ボルダーさんとブロウさんに稽古つけて貰ってたからね」
俺は西の都市で、ステータスの存在を初めて確認した。
そこにはゲームのような表記はなかった。
代わって、俊敏性や力量などが可視化されており、それぞれがパワーアップする条件も記載されていた。
そしてそのことをラディアンスのみんなにも伝えたが、全くわからないという。
異世界召喚された俺特有のものと考えるのが自然だ。
そこで、九里香にも同様に教えると、九里香はステータスを見ることができたようだ。
そのステータス表示を生かし、九里香もまた、格段に能力値を上げてきた。
「ああ。心配ないな」
俺達は駆けた。
ーーー
「ふぃー。俺たちの仕事は終わり。後はボルダー殿達に任せますかねー」
自分たちの仕事が終わった捜索班は、砂浜の拠点に帰還し、各々休憩を取っていた。
拠点にはすでに九里香が結界を張っており、敵には視認できないようになっている。
「それにしても、ダァハ。お前すごいな。あんなに早く見つかるなんて思わなかったぜ」
「ん。まあな。俺の狩りの勘に任せりゃこんなもんよ」
ダァハはニカっと笑った。
しかしすぐにその表情は曇る。
「でも、これでいいんかな」
仲間が不思議そうにする。
「ボルダーさん達に全部任せて。俺たちもクレア王国が憎いのに。こんなんで満足して」
周囲には同意の声が広がる。
「それに。もうこんな機会は来ないかもしれないだろ。ここいらでクレア王国に報復するべきなんじゃないのか?」
徐々に中隊が賛成の声を上げる。
「いっちょクレア王国、ぶっ壊すぞお!」
歓声が上がる。
ーーー
「っ?」
「どうした?九里香」
九里香が突然驚いたような顔をするので問いただす。
「なんで・・・?結界から人の気配がなくなっていく。みんなが移動してる?」
不安が生じるが、今、作戦を止めるわけにはいかない。
「あの人達も一人一人が強い。きっと大丈夫だよ」
九里香がおどおどしだすので、元気付けようとした。
しかし数分後。
事態は急変する。
ーーー
「伝令!伝レェェェい!」
隠密行動中にも関わらず、大声で情報伝達班の一員が駆けてきた。
「なんだ!?静かにしろ!」
近くの兵に怪しまれたため、止むを得ず『睡眠』で眠らせた。
「す、すみません。けど、早急にお伝えしないと!」
「なにがあった?」
男は顔面蒼白。
早口で伝えた。
「ダァハを中心とした中隊が、神拝に乗り込んでめちゃくちゃに・・・!」
「な、なに!?」
九里香の不安が具現化した。
「やっぱり。あの時結界から出てたんだ・・・」
俺はどうすれば良いのかわからなかった。
しかし、ボルダー達は違った。
「おいボウズ!何止まってんだ!進め!」
いいのか?
あの人たちを放っておいて。
俺はさっき仲間を失ったばかりだ。
また失うのか?
それも見過ごす形で。
七剣が挙って参加する神拝に乗り込んで無事なわけがない。
これを放っておいたら見殺しにしたのと全く変わらない。
「美扇さん!」
俺は九里香に向き直った。
「放って置けますか?」
九里香も同じことを考えていた。
俺はここで止まっていいのか?
でも、助けたい。
俺たちのことは時期にバレるだろう。
ならいっそ、ここで正面から戦った方がいいのではないか?
「そうだな」
英断か、愚行か。
そんなこと、やってみなきゃわからないだろ。
「行こう」