クレア王国道中、其の参
ラディアンスは金の民救出のため、依然クレア王国に向かっていた。
一行は今、レアドとボルダー、そして今は亡きメルティアが住んでいた家に滞在していた。
そこで出会った新たな日本人、そしてその仲間のアリス。
彼女たちもまた、別の悲願を求めていた。
ーーー
「私は旧王都の貴族、シュバルツァー家の娘。でもある日、現在の王都の支配者が私たち貴族をその玉座から引き摺り下ろした。中には殺されちゃった人もいる・・・」
アリスは悲しげに、憎らしげに語った。
あの日の災難と悲劇を。
「王都の現状は悲惨で、急に変わった王制に度重なる戦争、横暴ともいえる貴族の振る舞いも国民を苦しめてる。そんなの許されるはずがない!」
悔しそうに下唇を噛み締めるアリス。
「・・・王都直属の騎士たちはどうしてるんですか?」
レアドは純粋な疑問を抱いた。
自分の憧れでもある騎士は、その現状を知ってか知らずか、横暴な王都にも従順見えた。
「王都の犬どものこと? 当てにならないわよ。 地位さえ守れればそれでいいと思ってる奴らよ」
「・・・そうですか」
騎士に憧れるレアドにとって、その現状は複雑に思えた。
「とにかく、私たち元貴族は王都を取り戻すために裏で協力して、バレないようにバラバラになって王都に向かっているの。決まった日に暴動を起こすつもりよ」
「なるほど・・・。それだと王都にクレア王国での作戦を手伝ってもらうのは難しいかな」
現王都は非常に国民を卑下しているらしい。
そんな連中が俺たちに親切に手を貸すはずがない。
「グーラさんもなんとも思ってないのかな・・・」
「もしかしたら快くは思ってないけど何かしらの理由で屈服させられているだけかもしれないけどな」
ーーー
「アリスさん。相談なんだけど、俺たちに協力してくれないかな。もちろん、王都での暴動にも参加する。キマイラ中枢国家の一つがそんな有様じゃ安心できないからな」
俺はなんとかして、金の民救出作戦の協力者を増やしたかった。
アリスから話を聞いて、王都から潔い手助けがもらえない可能性を感じたからだ。
一応王都にも協力は呼び掛けたいが、協力者が多いに越したことはない。
勿論、リモ電で全員に協力を呼びかける予定だ。
決戦の時が近づいていることをひしひしと感じていた。
ーーー
「おはよう諸君。今から作戦会議を始める」
天気のいい朝。
「まずはアリス嬢ちゃんにクリカ嬢ちゃん。協力に感謝するよ。それから今、リモ電を用いてできるだけ多くの人と王都に協力要請を出した。アリス嬢の話を聞く限り王都の方はあまり期待できそうにないが、それでも、王都直属騎士、冒険者のグーラくんとブレアくんに来てもらえると幸運だ」
「周辺の島や村からも協力者を募ろう。クレア王国に不信感を抱くものは多いはずだから」
「決行日はいつですか」
「一週間後だ。それまでに準備を整える。旧友ブロウがクレア王国について、様々調べておいてくれた。大武闘会で最大戦力の一人、ウォンも死亡が確認されていた。しかしわかっているだけでも強力な敵は多い」
ボルダーは何枚かの写真を取り出した。
そのうち写っているのがウォンと思われる写真にはバツが描かれていた。
「クレア王国には傭兵団が一つしかない。それがティナシオスグループと呼ばれる軍団だ。トップはバルト・ドクトル。残忍で強力なスキルと体技を持ち合わせる男だ。そして副団長。ウォンが抜けた穴に誰かが入ったはずだ。その下に虹剣と呼ばれる七人の幹部がいる。そのうち正体が割れているのは、ウェブ、ムース、サーキュラーだ。他四人は分かっていない」
「軍団は全員でどれくらいなんです?」
「恐らく五千人ほどだと言われている。レアドの話からメリーナとの戦いの際、敵は五千人いたと聞く。それを参考にするといい。それと、クレア王国は市街地、守城、龍の塔によって構成されていて、鉱石採集などは龍の塔地下にあると言われている。金の民が幽閉されているとしたらそこしかあり得ない」
「ようするに、そこを襲撃すればいいってことね」
「簡単に言うとそうだ。難関は二つ。入国と救出。もちろん、治安が悪いから市街地でも気が抜けないがな」
「具体的に準備は何をすれば?」
「スキルのレベル上げはもちろん、できる強化はなんでもしよう。当日は隠密行動の為、木の葉スーツを着ようと思う。ボウズはその服脱げないんだっけか」
「風呂に入る時とかは消えるんですけど脱ぐのはできないみたいで」
「そうか、それは後で考えるとして」
ボルダーは視線をアリスと九里香に向けた。
「二人の使えるスキルを教えてくれるかな」
「いいわよ。それに、詳しい自己紹介もまだだったしね」
アリスは立ち上がり小さな胸を張る。
「私はアリス・シュバルツァー。使えるスキルは『歯車武器作成』と『香調合』。体技と魔法はぼちぼちよ。よろしくねっ」
「わ、私は長月九里香です。スキルは『複製』他者のスキルをコピーして使えます。体技とか魔法はできません・・・すみません」
「ん?ちょっ待って。『複製』? それってさ、どんなスキル?」
「えっと・・・私今レベル29なんですけど、コピーしたスキルは全部レベル29の状態で使えます」
「ま、まじか!」
俺は思わず九里香の手を握り締めてしまった。
「ち、ちょっと美扇さんっ! どうしたんですか」
俺はこの世界に来てから一番の興奮を覚えた。
「俺のさ・・・!俺、全スキル使えるんだよ! もしかしたら俺ら最強になれるかもしれない」