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無限スキル使いの男〜クソザコだけど幼女と世界を救います〜  作者: ちゃこる
金の民救出作戦【クレア王国編】
39/63

クレア王国道中、其の弐

「すみません。勝手にお風呂入らせてもらっちゃって…」


「それに関しては構わない。風邪を引いてもらうともっと困るからね」


俺は日本人にしか理解できない漢字でナガツキの名を書いてもらい、長月 九里香と表記することを知った。


「長月さんはどうしてここに?」


九里香はハッとし、慌てる素振りを見せた。


「はわわわわ! そういえば忘れてました! 私、お友達を助けに行かなきゃ」


「お友達?」


「はい! 大闘技会にも一緒に参加したんです! その子が王都ボスフォアに行きたいって言うからお供してたんですけど、この島ではぐれちゃって…」


ボルダーは顔を曇らせた。

ボルダーの妻、メルティアは、このバルボンド島で謎の集団に襲われ亡くなった。

その不安がまさによみがえってきたのだった。


「…クリカ嬢ちゃんの友達。早めに合流した方がいいぞ。私も行こう」


「じゃあ僕もお父さんについて行きます」


レアドもまた、目の前でメルティアを殺された悲劇の子供であった。

不安はボルダーと同じであった。


残り組は夕飯の支度をするように頼まれた。



ーーー



「島中探していないとなると…あとはこの山ですよね」


そこは母、メルティアが命を落とした山だ。

ボルダーとレアドは固唾を飲んだ。


「アリスちゃーん! どこなのー!」


高い方に向かって歩いていく。

じわじわと、メルティアの死地が近づいていた。


「…アリスちゃん!」


「うわあん… って、クリカぁ…」


アリスと呼ばれた少女は涙ながらに九里香に抱きついた。


「よかったぁ…一時はどうなることかと思ったよ。この人達もアリスちゃんを探すの手伝ってくれたんだよ」


「ぐす…ありがとぉ」



ーーー



九里香とアリスの再開の後、二人には先に帰るように指示したボルダーは、レアドと共に、メルティアの死地へと向かった。

いつの間にか雨が降っていた。

傘もささずに山を登った。


「レアド。お前のお母さんはここで命を落とした。不運な事故だった。彼女を救えなかった自分を今も恨めしく思っているよ」


レアドは静かに聞いていた。


「幼い頃、お前を守ろうとしてメルティアは死んだ。私がお前を助けていれば、メルティアが死ぬこともなかった」


ボルダーはレアドの前であの日以降初めて涙を流した。


「どうして私は二人を助けられなかった…」


ボルダーの言葉は自責に満ちていた。

メルティアとレアド。

メルティアは死に、レアドは深く傷ついた。

助けられなかった。

その一心で。


「お父さん。ごめん」


ボルダーは意表をつかれたような顔をした。


「僕…いや俺、全部覚えてるんだ」


時間が止まった。

ボルダーは息もせずに聞いた。


「あの日…お母さんが俺を庇って死んだ日…とても辛くて、母さんを殺したヤツらが憎くて、お母さんの言いつけを守らなかった俺が憎かった。思い返しては何度も嘆いた」


「違う! お前のせいじゃない!」


「いいんだ!」


レアドは振り絞るような声で告げた。


「いいんだよ。お父さん。…俺は愚かだ。敵討ちのために自分の体さえ呪った。メリーナと戦った時、死んでたかもしれないんだ。お母さんが守ってくれた命を…自ら絶とうとした」


レアドは泣いた。

声を震わせて。


「…全部覚えてるんだ。お母さんの優しさも、幸せな過去も、自分の重ねた罪だって」


「罪なら私も背負ってやる!」


ボルダーはレアドを抱きしめた。

大きな声で泣いた。


「私がお前を守る!もう二度と傷つけないがら…。わだじを…わだじにたすげさせてくれええ」


レアドも泣いた。

大声で。


「ごめん… ごめんなざい…お母さん…」


二人は崩れ落ちた。


側に咲く一輪の花、小さな墓標。


運命に呪われた二人は、夕焼けと雨の中、互いを支え合っていた。



ーーー



「私はあの時から時間が止まっていたみたいだ。お前があのことを覚えていたなんて」


「お父さんこそ」


二人は山を下る。


「お前のことは私が守る。メルティアの分も」


「僕はもう成人だよ。必要ないさ」


「む。そうか。それでもまあ…息子の夢の果てくらい見たいさ」


「なら、ついてくるしかないね。ラディアンスに」


「ふふ。元よりそのつもりさ」


「それと、自分のこと、俺、っていうの違和感あるから、これからも僕って言うと思う」


「お前らしいじゃないか」



ーーー



「遅かったな真面目親子。なにしてたんだ?」


「いえ、特に」


「まあいいけどさ!ご飯食べよ。あたしお腹すいたー」


「はいはい。お子様プレートどうぞ」


「お子様じゃない!」


暖かい雰囲気。


「僕…ラディアンスの一員になれて良かったです。これからも…その…よろしくお願いします」


「なんだよ改まりやがって!レアドのくせに!」



ーーー



「そういえばアリスさんはなんのために王都へ?」


宴もたけなわ。

フィリア、リトー、九里香は既に眠りについていた。


「あたしぃはね。実は元貴族の娘なの。色々あって今は街人だけどね」


「なにか王都に忘れ物でも?」


アリスは厳しい表情で答えた。


「下克上っす」

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