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無限スキル使いの男〜クソザコだけど幼女と世界を救います〜  作者: ちゃこる
僕の夢への第一歩です!【大闘技会編】
35/63

Accidental Petition

四回戦、Cチーム、ウォンvsフィリア。

歴史を揺るがすこの出会いは、呆気(あっけ)なく終わった。

開始と同時にフィリアが脚を水素に錬金。

術式結界により実際には脚は無くなっていないものの、再起不能と判定されウォンが敗北した。


しかしそんなことはウォンにとってどうでも良いことであった。

ウォンはクレア王国に連れ去った金の民の、逃した一人を探すためにディーム大陸中を駆け回った。

捜索資金を使い果たし、途方に暮れたウォンは、そのままクレア王国に戻るわけにも行かず、こうして大闘技会に参加したのだ。


試合を終えたフィリアは、実に余裕な顔をしていた。


「なによ、後悔するとか言っておいて、後悔したのはあなたじゃない」


煽り口調のその言葉を聞いて、ウォンは口元を歪め、不気味に笑ってみせた。


「うへぁ。やっと見つけたぁ」


フィリアは怖気(おぞけ)を感じ、すぐに退場した。


ーーー


「フィリア。おつかれ。それにしてもなんかやばそうな奴だったな」


俺は相手のウォンという男を観察していたが、全く戦う意思がないように感じていた。


「…ともあれあたしは一足先に五回戦出場決定だし!ミオもあとでボコボコにしてあげるから上がってきてよね」


実に楽しそうにそういうと、休みたいと言って娯楽施設のある方へとプラプラ歩いていってしまった。


ーーー


娯楽施設に来たフィリアは、先程食べたフルーティーパフェを再び食べるべく、フードコートへ向かった。


みちすがら、先程戦った気味の悪い男に話しかけられた。


「な、なに?」


嫌な気を感じ、後ずさる。

ここには術式結界が貼られていない。

錬金すれば本当に脚を奪うことができるのだ。


「君さ、金の民だよね」


逃げる。

会場の方向へ。


恐らく彼が村の人達を隠した犯人だと勘づいた。

そうとしか思えない一言であった。


フィリアは恐怖感から逃れるように、美扇に助けてもらえるように、必死で逃げた。


その試みも虚しく、地面に叩きつけられた。


「あうっ!」


ドンと胸をうちつけ、肺が圧迫される感覚を覚えた。


「苦しいかよ、なぁ!?」


大闘技会の試合後、負けた腹いせに勝者を痛めつける事件は多いが、今回はそのどれとも違い、勝敗関係なくフィリア自身を狙っているようだった。


「やぁぁっと見つけたぜぇ…手間かけさせやがって…でもこれでバルトさんに怒られずに済むぅ」


ウォンはこの一ヶ月近くで随分と衰弱し、精神もすり減っていた。

何もおかしくはない。

常に重圧を堪えてきたのだから。

金の民の生き残りを捕まえなければバルトに何をされるかわからないが、この広い世界で一人を探すのは実に無理難題であった。


「このガキが!手こずらせやがって」


動けず、抵抗もしないフィリアの顔を平手打ちするウォン。

『過去の写鏡』を通過し、神の御加護を得たフィリアだったが、無論ウォンも通過していたため、効果は見られなかった。


「いたい!やめて!」


悲痛な叫び声をあげるも、歓声にかき消されて誰も気づかない。


その後も身体中を殴り、満足気に立ち上がった。


「ま、こんくらいにしとかないと死んじまうから…なっ!」


脇腹を蹴り上げ、フィリアは仰向けになる。

既に意識は消えかかっていた。


ウォンが確実に眠らせるための一撃を決めようとした。


ドゥン!


爆風がウォンの身体を吹き飛ばし、術式結界を貼られていないウォンの身体は骨を歪に曲げ、壁に衝突し、床へと倒れた。

スキンヘッドからは流血していた。


「うぅ…うぁ…ひぐっ」


姿を現したのは中年男性。

太い体を太い脚ががっしりと支えている。


「大丈夫…ではないようじゃの。超回復」


超回復(スーパーリカバリー)』。

レアスキルの一種。

スキル書の中でも特に高価な上級スキル書から得ることが出来るスキルで、『回復(リカバリー)』の五倍の効果を有する。


フィリアの身体は元通りになった。

しかし恐怖心は拭えず、また、脳裏に焼き付く痛みは記憶されている。


「うわぁぁぁん」


「もう大丈夫じゃ。遅れてわるいの」


「ひぐ…だれ?」


男はにっこり笑いかける。


「わしはブロウ・タービュランス。ただの宿屋の店主じゃ」


フィリアはその声と顔を知っていた。

美扇とフィリアがエフォートビレッジに滞在していた時に使っていた宿屋、サン・インの店主だ。

名前までは知らなかったが、その大柄な身体は覚えていた。


「もしかしてボルダーおじさんが言ってたのって…」


「おぬし!ボルダーを知っているのか!」


「うん…あたしと同じパーティーにいて、今日もここにいる」


「そうかそうか。またあいたいのぉ」


閑話休題。

ウォンについてだ。


「あやつの狙いはお主じゃ。もっとも、もう気づいとるかもしれんがな。最近金の民は挙って村から消えた。恐らくクレア王国がなにか企んでいるんじゃろう」


フィリアはこれからヘヴン海域を渡る際、クレア王国を通過することになっていた。

話によるとその国は無法地帯。

犯罪は日常茶飯事で、今のラディアンスがそこを抜けるには『過去の写鏡』を使う必要があったため、先日受けてきたところだ。

その証に、頬には模様が刻まれていた。


「この前お主がわしの宿屋で見つけた杯は『神杯』といって、ふたつの儀式を行える魔道具じゃ。ヤツはこれを狙っていたことから推測は確証に変わった。その儀式は『サーチング』、『マリオネットワールド』」


ブロウは少しずつウォンに近づきながら話し続けた。


「『サーチング』はその名の通り、スキル『捜索』を魔法で代用したものじゃ。フェイクスキルと言うやつじゃの。そして『マリオネットワールド』はスキル『操作』を魔法で代用したものじゃ」


『操作』にはフィリアも覚えがあった。


白金の山で対峙した一途 神谷というヘナヘナした男が媒介虫やマニューバー・サルを操作し、道行く冒険者に攻撃していた事件だ。

その経験からも、その魔道具の恐ろしさは十分に伝わった。


「体力を消費せずに、魔力の供給が途絶えなければ操作の対象は…」


フィリアの顔は青白くなっていった。


「そう、永遠に動き、そして…死ぬ」


フィリアは唖然とした。

もしかしたら村の人達が酷い仕打ちを受けているかもしれないのだ。


村の人達が消えてから、もう随分とたった。

抑えていた焦りが爆発する。


「そんな!じゃあみんなはどうなるの!?生きてるよね!?」


ブロウの履物の裾を掴み、縋り、祈った。

ブロウは困った顔をして告げた。


「正直、わしには分かりかねる。クレア王国に行ったところで情報は得られない。ほれ、これを見て見なさい」


そうしてブロウは、雑巾のように倒れたままのウォンの懐を探り、徽章のようなものを取り出した。


「これはクレア王国の唯一の直属傭兵団、ティナシオスグループの紋章。それも副団長の」


ブロウが何やら唱えると、ウォンの身体は脈動を停止した。


「もうこやつが起き上がることも無い。それと同時に異変に気づいたクレア王国は、大胆な動きもみせるだろう」


ブロウは手に持っていた徽章を力任せに破壊した。


「それに、今『神杯』は王都ボスフォアにあるだろう。先日、それをめぐって儂とそやつと竜殺のブレアで戦闘をしたんじゃが、勝ったのはブレアじゃった」


「ブレアさん達はそのためにこの大陸に来てたのね」


フィリアは落ち着いたのか立ち上がり、パンパンと服のホコリを払った。


「多分そうじゃな…。そして、儂にできることは最大限した。ボルダーに会わせてくれんかの。重要な話があるんじゃ」


ーーー


ウォンがフィリアに行った暴行、及び、ブロウがそれを止めたことはすぐに会場全体に知れ渡った。

念の為フィリアは大会から降ろされた。

フィリア自身も、自分の気持ちに整理をつけたいと、選手用宿泊施設に篭もりっぱなしだった。


俺達はフィリアをずっと気がかりに思いつつも、順調に試合を進め、明日の六試合に備えていた。

ボルダーさんはブロウさんという旧友と再会し、そこで何やら重要な話をしているようだった。

以前ボルダーさんが言っていたブロウさんがまさかサン・インのオーナーだったことには驚きであった。

しかしボルダーさんとブロウさんは、それ以上に、長年同じ村に住んでいて互いを認知していなかったことに驚いていたようだった。


『大闘技会』の裏側で、大きなことが動き出していることを、俺は肌で感じた。


ーーー


俺はドアをノックした。


「…どうぞ」


いつも以上に弱々しい声のフィリアが返事をした。


「俺は四回戦で負けちまったけど、みんなは勝ち進んだんだ…お前も変なやつに襲われたんだって?ブロウさんが助けてくれてよかったな。俺が助けに行けなくてごめん。明日はあいつらの活躍を期待して…」


俺は言葉を詰まらせた。

フィリアが肩をあずけてきたからだ。

肩に触れる温かさが小刻みに震えているのを感じた。


「…なにかあったのか」


「…あたしの家族、村のみんなが…酷いことされてるかもしれないの。あたしのせいで」


ドア付近のランタンが揺らめく。

その光をフィリアの頬が反射して見えた。


「あたしがあの時捕まってれば、みんな酷いことをされなかったのに…あたしのせいでみんなは…苦しんでるんだ」


ぽたぽた涙が零れた。

言葉は続かなかった。


「…だめだよ。泣いちゃ。俺、泣かせないって約束してるのに。あの時、俺たちが出会ったのは、金の村のみんなが助かるためだよ」


フィリアは思い当たる節があるように拳を握った。


「フィリアまで捕まってたら、今頃みんなどうなってたかわからない。でも、今ここにフィリアはいて、みんなを助けることが出来る」


フィリアは頷く。


「絶対にみんなを助ける。一緒に助けよ、フィリア」


フィリアは体を起こした。


「うん…うん…あたし、みんなが大好きで、1人だけこんなに報われてていいのかなって…あたし、もう泣かないから。またあたしを守ってね、ミオ」



ーーー


「ボルダーさん。話って」


「久しぶりだね、二人で話すのは」


ボルダーさんは椅子に深く腰をかけ、深刻そうな顔をしていた。


「フィリア嬢ちゃんのこと、もう聞いてるね?」


「ええ。それどころか、会場内の人全員知ってると思いますよ」


この事件については、風のように情報が拡散された。

あまりにイレギュラーな事件故だそうだ。


「なぜ、フィリア嬢ちゃんがクレア王国のウォンという男に狙われたかわかるか?それも、殺す訳ではなく連れ去ろうとした」


「…フィリアの『錬金』を求めたとか」


「惜しい。大筋あってる」


ボルダーさんは、これから長話をするような姿勢をとった。


「金の民は、一族全員が、あるインネイトスキル、生まれながらのスキルを持っている。それが『錬金』だ。これは常識だが、一つ隠されていることがあった。それは、金の巫女についてだ」


「金の巫女?」


「ああ、金の巫女。一世代に一人だけが神託により任ぜられる。その金の巫女は、証として、もうひとつのインネイトスキルを手に入れる。それが『宝珠』だ。ボウズもこのスキルは持っているだろうが、これはスキル書からは手に入れることの出来ないスキルで、長い間秘密にされていた」


「なぜです?」


「単純に、その力故だ。『宝珠』を使えば、如何なる金目のものさえも、見つけることが出来る」


「そういえば、サン・インに滞在していた時、フィリアは何かを感じると言って金の杯を見つけていました」


「そう、その力さえあれば、莫大な資金を手に入れることが可能だ。そして、ボウズも既に知っていると思うが、十数年前、王都ボスフォアとクレア王国間で、戦争が起こった。マントル硬貨の材料であるアクティビファイト鉱脈を巡ったものだ。勝ったのは王都。クレア王国は多額の賠償金と、土地の割譲を強いられた」


「それを改善することと、金の民になんの関係があるんです?」


「元来、クレア王国があるダム島には、大量の鉱石が眠っていた。しかし、クレア王国にそれらをほりだすほどの力と技術はなく、比較的鉱石を採取しやすい、王都ボスフォアのあるバード大陸に目をつけた。それが戦争の引き金だ」


ボルダーさんによると、クレア王国は島国の上、あまり恵まれた土地ではなかったため、随分と深刻な状況に置かれていたらしい。

募った不満が戦争へと事を発展させたようだ。

結局負けたクレア王国は、止むを得ず、自分達の不都合な土地から鉱石などを採取するほかなかった。

解決手段として金の民が狙われた。

金の民は全員インネイトスキル『錬金』を有しており、神杯の『マリオネットワールド』を悪用することで、金の民の命尽きるまで、貨幣の元となるアクティビファイトや、スキル書の材料である原石(オリジン)を錬金させることが出来る。

また、金の巫女を捕まえれば、都合のいい鉱脈も探し放題。

まさに私利私欲のための策略であった。


「そんなことが…許されるわけ…」


「ああ。メリーナ戦で悪魔の下僕が派遣されたということは、王都も神経とがらせてるってことだ。そんなことは知っているはずだ」


「じゃあなんで動かないんですか?フィリアたちがこんなに苦しんでいるのに」


怒りが込み上げた。

力を持つ王都が、今なお虐げられている者を見捨てることを許すことが出来なかった。


「まあ落ち着け。王都とクレア王国は、その戦争以来、緊張状態が続いてる。その上黄金教徒との戦争もあった。下手に動いて挟み撃ちにされちゃかなわんだろ」


「そりゃそうですけど…」


真相はシンプルで、クレア王国が国の為、金の民を虐げているということだ。

こんなに簡単なことなのに、何も出来ない。

そんな自分すら憎らしくなってきた。

一番辛いのはフィリアだ。

話によると、今神杯は王都にあるという。

今現在、金の民を操ってはいないということだ。

痺れを切らした奴らがどんな仕打ちをするか考えただけでも(むご)い。


今すぐにでも乗り込みたい。

と思ったことを察されたのか…


「行っておくが、今すぐには行けんぞ。ウォンが絶命したことは既にクレア王国にも報告されているだろう。ウォンが単体で行動してるはずがない。今もこの会場にスパイが侵入してるはずだ。下手なことをすればマークされる」


落ち着いた。

自分の命も狙われるのが怖くなったからだ。


「それで、どうすればいいんですか」


「ダム島には確実に足を踏み入れることになる。その前に…バルボンド島にも止まる。作戦はその時に、だ」


ボルダーさんも、胸中穏やかではないようだった。

フィリアの傷心に触れた俺は尚更だ。


金の民の皆は絶対に救う。

大闘技会編と並列して、『クレア王国編』への導入も進んでいきます。

色んな情報が入り乱れて伝わりにくい点があるかと思いますが、出来るだけ単純に伝えようと努力しますので、次回もよろしくお願いします。

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