Struggle
『さぁ!今年もついに開催されます!大闘技会!試合は明日、今日は準備期間ですので、選手の皆さんも、観客の皆さんも!施設内の娯楽や食事を楽しんでください!』
恐らく『拡声』を用いて、スピーカーの如く大音量でアナウンスが響いた。
俺達は『破邪神の誕生地』に到着し、ほぼ開いた大扉を抜けて、内部の充実した施設を堪能していた。
「参加者は無料でサービス受けられるなんて、気前がいいよなぁ」
毎年開催される『大闘技会』には、多数の観客が訪れるため、相当儲かるという。
開催しているのは商会連合といって、多数の大派閥が協力している組織母体らしい。
こちらも黒い噂が耐えないが、それはどこの世界も同じだ。
金持ちに黒い噂は付き物らしい…。
「もうずっとここにいたい」
フィリアは受け取ったフルーティーパフェを実に美味しそうに食べていた。
レアドは明日の試合に向け『心眼』の更なる向上を、リトーはよいナイフを探したいといって別行動。
ボルダーさんは諸々の手続きを取ってきてくれているようだった。
『大闘技会』は5日間にわたって開催される。
今年の出場者は120人。
トーナメント制で行われる。
中には団体戦闘という項目があり、これはパーティー参加限定である。
『ラディアンス』はそちらにも出ることになっていた。
施設内には人が沢山いて、賭け事も行われているようだった。
『ラディアンス』の名前が聞こえなかったのは悲しいが、最近結成したばかりなので、認知度の低さも仕方ないと思う。
対戦相手はその日その日に随時発表され、事前に対策を立てることは出来ない。
スキル詠唱を沢山重ねなければならない俺にとってはシビアな条件だ。
「フィリアはこのあとどこか行くか?それとも選手用宿泊施設に戻るか?」
「うーん…本屋さんに寄ってみたいかも!」
俺はOKサインを出し、フィリアについて行くことにした。
ーーー
「いやぁ〜堪能しましたねえ」
試合前日とは思えないリラックスを感じていた。
とはいえ、施設内で強そうな人をちらほら見かけたので、少し緊張はしている。
初っ端から強いやつはやめて欲しい…。
「あとは特訓の成果をぶつけるだけだ。私達なら五回戦までは簡単にいけるだろう。これも運次第だがな」
いまから『幸運』かけておこうかな。
「賞金も相当いいみたいだな。20位以内に入れればいいほうだな」
「僕は5位以内には入りたいです!」
「息子に負けるわけにはいかん。私は3位以内にはいるぞ」
互いに高めあった。
俺には高すぎたが…。
ともあれ、全力でぶつかるしかない。
曲がりなりにも、俺は自身のステータスを発見し向上させ、『霊切刀』も携え、体技『神風・瞬間跳躍』を習得した。
筋肉量も増え、それに応じてポジティブシンキングになった。
いける、行けるぞ明日の試合。
ーーー
「やばい、全然寝れんかった」
そう言いながら体を起こす俺。
なんやかんや言って、静かな空間ではあれやこれや考えてしまうものだ。
どうやらみんなもその様子だった。
フィリアを除いて。
「みんなおはよ〜」
こいつには緊張ってもんがないのか…
末恐ろしい子だ。
俺達は着替え、西の都市で手に入れた防具を装着し、バトルフィールドへと向かった。
「もし互いに当たっても手加減はすんなよ」
「あたりまえ!ミオに当たったら本気だすから!」
「僕も本気ですよ」
「フィリアちゃんにあたっちゃったらどうしよう…」
「私には誰も勝てまい」
『さあさあさあさあ!ついに当日!大闘技会!』
歓声が轟く。
大地が揺れる。
盛大に花火があがった。
『司会は私、モーリー・アンドリュー!ゲストは『アバントヘイム』のリーダー!アシュルさんをお呼びしています!』
『よろしくお願いします』
アナウンスメントを聞いて、一気に気持ちがひきしまる。
「行くぞっ!」
「「「「おうっ!」」」」
ーーー
第一試合
『ミオウvsアルカナ』
俺は試合開始より先に、高速詠唱を進めていた。
相手は見るからに魔法使い。
系統はアナライズできないが、先手必勝なのはわかる。
魔法は遠距離を主としている。
よって距離を詰められると不利になるのだ。
相手も何やら詠唱しているように見えた。
バン!
開始の合図。
俺はスキル詠唱を続けながら、『霊切刀』を腰の鞘から抜き、構えた。
「ミル・エレメント・バースト!」
相手の少女が詠唱を終えると、風属性魔法が発動された。
巻き起こる風は会場を砂で覆い、また、俺から姿を見えなくした。
俺は嫌な予感を感じ、守りの体制に入った。
その判断は正しかった。
「スパーダ・ウィンド・ミル・エキスパンション・ファイア!」
鋭い風に炎属性を付与した高位術式。
魔法にあまり詳しくない俺でも瞬時に理解し、貯めていたスキルを発動させた。
「傾国!」
『傾国』。
大地を傾け、大地を裂く。
相当詠唱しなければ目に見えるような効果は見えないが、今回は詠唱が上手くいったのと、待機時間も活かすことができたため、相当な威力を発揮した。
魔法は軌道をそれ、空中に散乱した。
アルカナは体勢を崩した。
その隙を見逃すはずがなく、即座に『神風・瞬間跳躍』を発動し、ゼロ距離まで接近。
そのまま荒削りの剣技でアルカナを切り伏せた。
『試合終了〜!ド派手な試合を制したのは、ウヅキミオウ選手〜!』
拍手喝采、大歓声。
とても心地よかった。
一回戦でここまで有利な試合をできるとは自分でも思っていなかった。
因みに、選手が怪我を負わないよう体に術式結界を貼っているので、ダメージは入るものの、体自体に傷は入らないらしい。
痛覚は遮断されているが、衝撃は受け、実際に受けていたら体に起こる変化が再現されるため、いかに痛くなかろうと、体が動かなくなれば敗者と見なされる。
納得のいかない結果になることもしばしばだそうが、それが己の力量と認めざるを得ない。
ーーー
試合は順調に進み、全員三回戦を迎えようとしていた。
最初にいた人のほとんどは既に落ち、会場をあとにするものもちらほらだ。
今日は五回戦まで開催される予定だ。
明日は準決勝までが開催される。
三日目は決勝に丸丸一日使うことになっていた。
休憩室で談話していた時、
「あれ?久しぶりだなぁ!ラディアンスの一同!」
声をかけてきたのは見覚えのある童顔の男。
「ブレア!?」
驚くのも束の間、過去一番のすばやさでリモ電を取り出したレアドは、早速イデア更新を頼んでいた。
「この前のエフォートビレッジへの調査が終わって、もう王都ボスフォアに帰ったんだけど、毎年大闘技会には参加するから、今年はブレッシングズ全員で参加したんだ」
大物のはずだが、まるで旧友のように接してくれる。
そのようなオーラもまた、彼が彼である所以であろう。
「確か…ミリア、ザンテツ、カリゴ…だっけか」
「そうそう。ま、アイツらも順調だろうな」
緊張を1ミリも感じないその立ち振る舞いに、もしブレアと当たってしまったら、という悪い予感がした。
「ブレアくんも、破邪神のアンロックキー狙いかな?」
「まあな。これからここらの地域の調査が増えそうだし、いつでも快適に過ごせる場所が欲しいからね」
破邪神のアンロックキーを持つものは破邪神の誕生地をいつでも利用できる。
それは内部の娯楽施設、食事なども然りだ。
それに、噂ではあるが、破邪神のアンロックキーは破邪神を直接召喚することもできるようなのだ。
「おっと、次は俺っちの試合だ!よかったら見に来なよ!さぁてまたひと暴れしてくるかね〜」
腕をクルクルとまわし退室するブレア。
レアドが寂しげな顔をするが、俺が背中を叩いて喝を入れた。
「まだまだこれからだ。案外手に入れた力も使いこなせるようになってきたし、なんとかなるだろ!」
「はい、まだ負けられませんね!」
四回戦が始まる。
ーーー
『さぁ!緊張の四回戦!ここ、Aステージで戦うのは〜…こ、これはすごい!』
司会者が興奮を隠さずに告げた。
『四回戦!Aチーム…ブレアvsドン・サルサァ!』
会場が熱気に包まれる。
姿を現した両者。
「まさか、あなたが出場しているとはね」
「ホッホゥ」
ドン・サルサ。
白金の山を縄張りにするマニューバー・サルの一団のトップ。
毎年出場している、古参だ。
「あの白金の山の事件…首謀者はコウヤ…と言ったかな。もしあの時あなたが操られてたらまずかったけど…生憎、今の俺っちは絶好調なんだ。手加減はしないぜ!」
ゴングが鳴り響く。
ブレアは早速詠唱。
「鉄隕石!」
体技・鉄隕石。
『引力』のイメージを生かした体技で、自分の拳に重力を上乗せし、月にクレーターを開けるような強力なパンチを繰り出す。
もっとも、この世界に月は存在しないが。
ブレアの一撃はドン・サルサの額を面白いほど綺麗にうち、一撃勝利かと思われた。
額に拳を当てられたまま、ドン・サルサは笑ってみせた。
はっとしたブレアはすぐさま回転し、間合いをとった。
驚いたことに、ドン・サルサは全く微動打にしていなかった。
これは、術式結界がはられていない場合に、ブレアから本気の体技を喰らおうとも微動打にしないことを意味していた。
「結構本気でいったぞ?さすがに傷つくなぁ」
そう発言しながらも余裕の笑みを見せるブレア。
ブレアはかつて一撃でドラゴンを沈めたことから竜殺のブレアと呼ばれている。
竜殺のブレアその人がドン・サルサにダメージを入れられなかったのだ。
「一体全体どういう頭してんだよ…」
体技後の硬直に入ったブレアを見逃すはずなく、ドン・サルサはその巨体に見合わぬスピードで接近し、剛腕に任せた一撃を打った。
「うおっ!」
横に吹き飛ばされたブレア。
砂塵の中から姿を現す前に再び詠唱。
「引力」
『引力』。
ものの引力のバランスを崩すスキル。
ブレアの持つスキルのひとつだ。
ドン・サルサはなすすべも無く地面にうつ伏せの状態になった。
「鉄隕石!」
再び鉄隕石を打ち込む。
すかさず腰の金剣を抜き、一閃。
「千切り!」
体技・千切り。
ボルダーの使う即危険・駒切のように、一瞬にして敵を千個のパーツにバラす体技。
純粋な鍛錬の賜物だ。
更に追い討ち、とどめ。
「流星!」
空から一直線に降り注ぐ青紺の流星群。
昼間にもかかわらず夜が訪れるその光景に、人々は息を飲んだ。
この試合は、エフォートビレッジでウォンとブロウを沈めた『流星』で決着した。
判定機がドン・サルサの戦闘不能を示し、息を潜めて結果を待っていた会場が再び歓声でいっぱいになった。
「よし!」
ーーー
この四試合であの大事件は起こってしまった。
いや、始まってしまった。
『こちらCチーム!四回戦!対戦カードはウォンvsフィリア!』
ウォンの様子がおかしく、会場もざわめく。
「…おいお前、出身は?」
重々しい顔でフィリアに語りかけるウォン。
「そんなのどうでもいいでしょ!子供だからって侮らない事ね!」
フィリアはその雰囲気に気づくことも無く挑発。
ゴングが鳴り響く。
「お前、後悔すんぞ」
ついに出会ってしまったウォンとフィリア。
2人の因縁に終止符が打たれるのはまだ先のお話…
今回もご視聴ありがとうございました!